ロックバンド・King Gnuのボーカル・キーボードとして音楽シーンを盛り上げる井口理が初主演を務め、ヒロインを馬場ふみかが演じる映画『ひとりぼっちじゃない』が10日に公開された。同作は伊藤ちひろ氏が10年かけて執筆した同名小説を、行定勲監督の企画・プロデュースのもと伊藤氏自らがメガホンを取り映画化。不器用でコミュニケーションがうまくとれない歯科医師・ススメ(井口)が謎の多き女性・宮子(馬場)に恋をすることで、変わっていく自分、歪み狂っていく日々を描いている。

クランクアップを振り返る井口から「あのときは本当に女神かと思った」と言われ、「えぇ~やだぁ~(笑)」と馬場は照れくさそうにするなど、作風とは打って変わり、和気あいあいとした雰囲気の2人。今回のインタビューではそんな2人が撮影現場でのエピソードや、コミュニケーションの難しさを感じた瞬間を語り合った。さらに、井口は初主演作で“気づき”があったという役へのアプローチ法や、音楽活動との意外な共通点も明かした。

  • 馬場ふみか(左)、井口理 撮影:宮田浩史

■初主演作で得た役に対するアプローチ方法

――井口さんは今作が映画初主演になります。これまでも俳優として活動されていましたが、初主演を務めた率直な気持ちをお聞かせください。

井口理:気合いが入りました(笑)。今作を通して、今まで役に対してじっくり考えたりとか、もちろん当時はやっていたつもりでも、細部まではそれができていなかったんだなと感じました。今回、半年という期間、ススメについて考える時間があって演じるうえでこういうことをしていかないとダメだよなという気づきや、役に対するアプローチ方法が見えたというか。これからに活かしていきたいです。

――馬場さんから見て、主演・井口理はどのように映りましたか?

馬場ふみか:とにかく集中力の高さが印象的でした。役と物語の世界に入っていく力がすごいなと。今まで知っていたKing Gnuで音楽をやっている井口さんとは全然違う姿がそこにあって、すごく素敵だなと思いましたし、私もそうありたいなと勉強になりました。

井口:あれは集中している自分でいなきゃいけないという俯瞰した自分もいたから……。自分を騙して、“おれ、集中しているよ”と自分に言い聞かせてどんどん集中していった。

馬場:そうなんだ(笑)。でもそれで集中できるのもすごくない?

井口:作品の雰囲気とは相反して、現場は結構明るかったんですよ。馬場ちゃんは普段あっけらかんとしているし、スタッフさんも明るい方が多くて“笑いの絶えない現場”だったんです。だからこそ遮断しなきゃというか、そこに引っ張られないようにという集中もあった。

■役作りで思い出されたのは「初めてダヴィンチを見たときの感覚」

――また、先ほど井口さんは「役へのアプローチ方法が見えた」と話されていましたが、今回、お2人が演じたススメ、宮子という役に対してどのようにアプローチしていったのでしょうか?

井口:今回、僕はロケハンに付いていったりして、伊藤監督と時間を共にしながら話をしましたが、その中でススメという人物をしっかり決め込んだわけではなかったんです。でも、ススメという人物について考えていく中でとても彼を身近に感じました。昔、母親とイタリアに旅行に行ったことがあって。そこで初めてダヴィンチの絵を見たんです。そのときに彼の筆跡というか、筆の動き、油の乗り方を見たときに、ダヴィンチは亡くなって何百年も経っているのに、すごくリアルに感じたことがあって……。そういう感覚は役作りする上で大事なのかもしれません。そこにその人が生きていた痕跡みたいなものを感じることによって、それを観た人もリアルに感じる。振り返ってみると、今作の役作りはそういうことだったのかなと、終わってから思いました。

――それは原作・台本を読んだ文字の情報より、ロケハンで実際に肌で感じた雰囲気のほうがより強く感じるということでしょうか?

そうですね! ただ、ロケハンもずっと帯同できたわけではないので、撮影が始まって現場に入ってから宮子の部屋やススメの部屋、そして馬場さんの演じる宮子や河合(優実)さんの演じる蓉子を見て、よりリアルにススメを感じることができて、そこから手繰り寄せていきました。

――宮子を演じた馬場さんはいかがでしょうか?

馬場:確かに宮子も現場に入ってから出来上がった部分もあったんですが、最初に台本を読んだときには「これはどうしたものか」と……全く分からなかったんです(笑)。伊藤監督とお話ししていると、宮子像というものがすごく明確に監督の中にあったので、クランクインする前に衣装合わせや本読みの時間に、それを1つ1つ拾いながら自分の体の中に染み込ませる作業でした。大変難しかったです(笑)。

井口:(笑)

馬場:いくら現場に入る前に台本を読み込んでいても、わからないものはわからないので、やっていくことでわかっていくものってあるなと思いました。撮影中は伊藤監督から瞬きとか目線の動きを演出していただいていたんですが、終盤に監督とプロデューサーから「今のは宮子だった!」と声をかけていただいたことがあって、そのときにちゃんと自分に宮子が馴染んでいたんだなと納得できました。

■井口理を救った馬場ふみかの登場「女神かと」

――では、撮影現場で印象に残っているエピソードはありますか?

井口:僕はクランクアップのとき。歯科医院のシーンがラストカットだったんですけど、すでに撮影を終えていたはずの馬場さんが駆け付けてくれて! いっぱいいっぱいの現場ではあったから、陰から馬場さんが出てきたときに「あ、仲良くなれたかも……」と思って(笑)。

馬場:それまで仲悪いと思ってたの……(笑)?

井口:いやいやいや(笑)。俺がかなり入り込んでしまって、遮断しちゃってから、あのときは本当に女神かと思ったね! 普段から明るい方なので、すごく救われました。

馬場:えぇ~やだぁ~(笑)。私は本当にしょうもない事なんですけど、とんでもないくらい蚊に刺されたんですよ! 宮子さんって常に薄着で着ていても生地が薄い。しかも部屋は植物だらけだからなおさら……。でも、普通のドラマや映画のときってメイクさんが跡を綺麗に隠してくれるんですけど、今回は伊藤監督が「宮子っぽいから蚊に刺されたまま撮影しよう」と(笑)。ずっと蚊に刺され続けて、そのまま映画に出るという新しい体験をしました。だからよ~く見たら刺されたところわかると思います!

井口:言ってた言ってた! 僕も「何か言ってんな~」とは思ってました。