日本に熱狂的なファンを持つルノー「カングー」がフルモデルチェンジした。新型が上質になったことは間違いないのだが、これまでのカングーとは印象がかなり変わっているのも事実。カングーファンの気持ちを想像しながら新型をじっくりと取材してきた。
日本仕様は別物?
日本におけるカングーファンの数と熱量は半端じゃない。毎年恒例のファンミーティング「カングージャンボリー」(コロナ禍のため今年は3年ぶりの開催)には、全国各地から色とりどりのカングーが大集結する(今回は1,783台!)。山中湖の会場は、今やカングーファンの聖地となっているそうだ。今年のカングージャンボリーにサプライズで登場したのが3代目となる新型カングーである。
新型は初代と2代目が醸し出していたフレンチMPV(マルチ・パーパス・ビークル)らしいおしゃれでちょっとほんわかした雰囲気からガラリとスタイルが変わり、キリリとした顔つきになっている。ライバルを意識してなのか、ボディも大きくなった。印象が変わった新型カングーは、はたして従来のファンに認められるのだろうか。
ラテン語で遊びという意味の「LYDOS」と、フランス語で空間を表す「ESPACE」(こんな名前のクルマもありましたね……)を合わせた、「遊びの空間」を意味する造語「LUDOSPACE」(ルドスパス)がカングーのキャッチコピーだったのだが、そのキャラクターは不変なのかも気になる。ということで、千葉県にある会員制グランピング施設「東京クラシックキャンプ」で開催された新型カングーの試乗会に参加してきた。
ルノー、日産自動車、三菱自動車工業のアライアンスによる「CMF-C/Dプラットフォーム」を採用した新型のボディは全長4,490mm、全幅1,860mm、全高1,810mm、ホイールベース2,715mm。先代と比べると全高は変わらないが、全長は210mm、全幅は30mm、ホイールベースは15mmのサイズアップだ。
大きくなったボディとともに、はっきりと変わったのがその顔つき。最新の「ルーテシア」や「メガーヌ」などとも微妙に違い、四角いヘッドライトとフロントグリルを組み合わせた押し出しの強い表情は、ちょっとフォルクスワーゲンのSUVを想起させる。従来のような脱力感のある顔ではなくなってしまった。
横から見ても印象が違う。これまでは太い窓枠があって、3枚のサイドガラスがそれぞれ別の形状になっていたのだが、新型はB、Cピラーをブラックアウトしているため、サイドガラスがひとつながりに見える。確かにシャープな雰囲気ではあるのだが、うーん……。
とはいっても、タダでは済まないのが日本仕様だ。幸せを届けるフランスの郵便車「カングー・ラ・ポスト」と同じ「ジョンアグリュム」(イエロー)のボディに真っ黒い樹脂製バンパーを組み合わせるのは日本仕様だけ。リアは、本国の乗用車仕様が通常の跳ね上げ式ハッチバックなのに対して、日本のためだけに観音開きのダブルバックドアをわざわざ装備したのだ(本国の商用モデルが採用しているもの)。
16インチに拡大したホイールもセンターがブラック、周囲が穴あきシルバーの2トーン鉄チンホイールを採用することで、従来のカングーらしい雰囲気をキープしようとしている。このあたりは、ユーザーの声を真摯に受けとめたルノー・ジャポン担当者の努力がきちんと本国に伝わった証拠だし、フランス本社が日本におけるカングーの人気や役割を把握している証でもある。
荷室や収納の使い勝手はばっちり
インテリアは各部の質感がアップして最新モデルらしい雰囲気に。水平基調のダッシュボードにデジタルコックピットメーター、スマートフォンのミラーリング機能付き8インチ大型センターモニター、空中に突き出た形のセンターコンソールなどを組み合わせた造形は、「キャプチャー」や「アルカナ」など背の高いルノー各モデルと共通の設えだ。
ステアリングホイールにはアダプティブクルーズコントロール(ACC)などの各種コマンドスイッチが散りばめられているが、こうした先進装備は先代カングーになかったもの。パーキングブレーキはスイッチ式になった。従来はフランスの郵便局員らの意見を取り入れて開発した独特なパーキングブレーキレバーが付いていたのだが、これがなくなったのが寂しいといえば寂しい。
前席はサイズと形状を見直してサポート性を向上させた。背面には折りたたみ式ピクニックテーブルを備える。後席は均等にスペースを振り分けた3人がけ。レイアウト自体はこれまでと同じだ。前席天井にあるオーバーヘッドコンソール、メーター奥にあるUSBソケット×2口のアッパーボックス、ペットボトル2本がきちんと入るドリンクホルダーなど、収納スペースはたっぷりある。
床面が低く突起のない四角い荷室の容量は従来比115Lアップの775L。後席を倒せば同132Lアップの2,800Lに拡張できる。床面長は通常時で100mm、後席を倒した状態で80mm伸びていて、開口幅も131mm増の1,256mmに広がっているそうだ。
ダブルバックドアは狭い場所でも開閉しやすいところが利点だ。通常だと90度の位置でロックがかかるが、外せば180度までフルオープンできる。ガバっと開いたバックドアにモノを吊るせば、陳列棚に早変わりだ。
グレード展開はブラックバンパー仕様が「クレアティフ」と受注生産の「ゼン」、ボディ同色バンパー仕様が「インテンス」となる。価格は「ゼン」(ガソリンエンジンのみ)が384万円、「クレアティフ」と「インテンス」がガソリンエンジン395万円、ディーゼルエンジン419万円だ。ガソリンとディーゼルの乗り比べについては別稿で。
先代カングーはプリミティブな雰囲気が特徴で、可愛らしさのあるクルマだった。一方の新型カングーは質感が明らかにアップしており、先進の快適性能も十分だ。どちらも魅力的なクルマであり、マイカーとして乗るにはどちらがいいと断言できないのがおもしろいところでもある。同じフレンチMPVには「ベルランゴ」や「リフター」などの強力なライバルもいる。うーん、悩ましい!