この大会においては、試合を伝えるという立場でありながら、特にスペイン戦を勝ち上がった歓喜の瞬間は、いち観戦者としても大いに盛り上がった。
塚本氏は「僕はカタールにおりまして、もう本当にみんなが『えーーーー!?』となって、これまで3戦頑張ってきて、ここからまだ日本戦を届けられるんだという熱量が、現地スタッフの中で一気に出ましたね。本田さんももちろん興奮していましたし、それまでの疲れはすごくあったのですが、現地にいるスタッフみんながすごく前向きになっていくのが印象的でした」と振り返る。
一方で、長畑氏は「私はスペイン戦の後から最後まで現地にいて、IBC(国際放送センター)や東京で受けている人たちはもちろんとても盛り上がっているのですが、それと同時に『じゃあ、次どうしよう?』と、わりと冷静になるんですね。中継車や出演者、スタッフの手配や宿泊するホテルの手配など、やらなければならないことが山ほどあるので」と、担当スタッフはすぐ切り替えて業務にあたることになったそうだ。
■過酷な環境の仕事もみんなが「楽しかった」
全64試合の中継という初めての試みだっただけに、塚本氏は「中継している画面上に影響が出るような事象ではなくとも、大小様々な出来事が本当にいろいろありました(笑)」と回想。特に、グループリーグでは1日4試合の中継があったため、「東京のスタジオで、スタッフ、出演者の方が何十人、何百人と入れ替わりながら中継を続けているときに、『これはとてもハードでヤバいかもしれないな』と思いました(笑)。もう3日目くらいからちょっと細かい記憶がないくらいで、夢中になって中継を届け、毎日がお祭りでした」と打ち明ける。
長畑氏も「出演者や解説の方が次から次へとスタジオに入ってくるので、みなさんが問題なくちゃんとお越しいただけているのかということを把握するだけでも非常に大変な作業でした。普段、TBSや日本テレビで解説される方も来てくれて、もちろんタレントさんもいらっしゃいましたし、そういった方々が原宿のシャトーアメーバ(スタジオ)にどんどんやってくるのは、壮観でしたね(笑)」という状況だったが、出演時間に間に合わないといったハプニングはなかった。
一方、現地での最大の敵は、中東ならではの環境だ。「とにかく向こうはクーラーをギンギンにかけるんです。ショッピングモールなんて、大げさに言うとダウンコートを羽織ってもいいくらいの寒さ。それで外に出ると、あの時期でも30℃くらいまで上がって日差しが強いですし、何より乾燥してるので、解説者の方の声が出なくなることもあるんです。これが中東のつらいところですね」(長畑氏)。
アジアカップやワールドカップのアジア予選で、中東での経験豊富な長畑氏は「ホテルや食事のトラブル、また解説者の方を乗せた車が急に警備員に止められたり、いろんなことが起きがちなんです」といい、それを踏まえて、「今回はいろんなケースを想定して行ったのですが、入念な準備をしていったことが功を奏したこともあり、そうしたトラブルが起きなかったのでよかったです」と、胸をなでおろした。
そんな過酷な環境での仕事で、「みんな大変だったと思うのですが、一番印象に残るのは『楽しかった』とチームメンバーや関係者の方々が言っていたということですね。1個1個つらいことはもちろんあるんですけど、みんなが『楽しかった』『またやりたい』と口々に言っていて。成功感というのも含めてみんなが感じていたんだと思います」と充実の表情。
それを受け、塚本氏は「それは本当にありがたいです。テレビ朝日の制作・技術チームの力を全面的に借りることができたのが、今回のABEMAの制作体制で一番大きな成功要因でした。未知の64試合全部を中継する、挑戦する我々をいろいろ助けていただいて成功することができたので、そこが今回のプロジェクトの一番大きな収穫だと思っています」と捉えた。