将棋AIの強さを競うオンライン大会「第1回 マイナビニュース杯電竜戦ハードウェア統一戦」(主催:NPO法人AI電竜戦プロジェクト)は、準決勝の2局が2月11日(土)に行われました。対局の結果、「水匠電竜」と「二番絞り(ビール工房HFT支店)」が勝って2月18日(土)に行われる決勝にコマを進めました。

準決勝まで

2022年12月に行われた第3回電竜戦をはじめとして、従来の電竜戦においては参加者が各自でハードウェアを用意するために、ハード性能の差が勝敗に大きな影響を及ぼしてきました。ハードウェアを統一して行う本大会は、将棋AI(以下ソフト)の純粋な強さを図ることを目的として株式会社マイナビ、インテル株式会社、株式会社サードウェーブの協賛・協力のもとに同12月に予選リーグが開幕しました。

第3回電竜戦の結果を受けて選抜された16ソフトが先後総当たりの予選計240局を行った結果、①「水匠電竜」(電竜は称号、開発者:たややん)、②「BURNING BRIDGES」(開発者:猫神家の一族、以下「BB」)、③「二番絞り(ビール工房HFT支店)」(開発者:芝世弐、曽根壮大、以下「二番絞り」)、④「Grampus」(開発者:あふろん@Grampus、以下「グランパス」)の4ソフトが準決勝に勝ち上がりました。

第1局 BB対二番絞り

BBは従来型の思考エンジンであるNNUE系統のソフト。開発者が自ら調整した定跡を強みとしており、予選の対局では100手を超える定跡手順を披露して勝利を収めました。対して後手となった二番絞りは近年のトレンドであるDL(ディープラーニング)系のソフトのひとつ。眼前の局面に対して直感的な形勢判断を行うことで読みを省略する特徴があり、本大会でも定跡は使わずに初手から思考エンジンを働かせます。両ソフトは第3回電竜戦のB級で同率優勝を遂げています。

本局、先手となったBBは角換わりの序盤戦に誘導しました。23手目にして桂跳ねの速攻を見せたのが用意の作戦で、手順に飛車先の歩交換を遂げてポイントを挙げました。後手の二番絞りが自陣角の辛抱で応戦した結果、局面は「BBの攻め対二番絞りの受け」という構図に落ち着きました。盤上は80手目を迎えてもBBにとって定跡の進行が展開しています。

盤面右方でのねじり合いはその後も40手ほど続きますが、後手の二番絞りが5筋の拠点に銀を打ち込んで反撃に転じたのが「寄せは俗手で」の格言通りの好手でした。それまで互角の形勢判断を下していた先手のBBですが、ここからの攻防を見て二番絞り有利に評価を改めることに。その後、着実にリードを広げた二番絞りがBBの研究を破って勝利を手中に収めました。

第2局 水匠電竜対グランパス

先手となった水匠電竜は言わずと知れた人気ソフト。NNUE系の将棋ソフトで、前述の第3回電竜戦では連覇を続けていたDL系のソフトを破って優勝を決めています。対して後手のグランパスは振り飛車の評価関数に関心を持つNNUE系の将棋ソフト。予選では角換わり腰掛け銀のほか相掛かりからのひねり飛車や陽動振り飛車、角道を止める居飛車などさまざまな戦型を採用して20勝8敗2分の好成績を収めました。

本局、先手となった水匠電竜は得意の角換わり腰掛け銀に構えます。これに対して後手となったグランパスは早繰り銀の速攻に出て積極的に局面を動かす意思を示しました。戦いが一段落したところでお互いに右桂を跳ねて攻撃陣を整えたのは自然な応酬に見えましたが、すぐさま先手の水匠電竜が7筋の桂頭攻めを敢行したことによって局面は一転して攻め合いの展開に突入します。

盤面左方での激しい攻め合いが落ち着いた局面で、両ソフトの形勢判断は水匠電竜有利の評価で一致していました。一度優位に立った水匠電竜はここから危なげない指し回しで優位を拡大していきます。自玉が不安定な状況ながら、敵陣に飛車を打ち込んで詰めろ銀取りをかけて自玉を安全にしたのが水匠電竜の決め手。最後は相入玉模様になったものの、点数の差で先手の水匠が宣言勝ちを収めて決勝進出を決めました。

まとめ

準決勝の結果を受け、決勝は水匠電竜対二番絞りの顔合わせに決まりました。従来型のNNUE系ソフトと流行のDL系ソフトの対決という構図は第3回電竜戦の最終決戦にも見られた構図であり、ソフト開発者だけでなく将棋ファンの関心も自然と高まります。先後両方を持って2局を行うルールで行われる決勝では、どちらが後手番でのブレイク(または千日手への誘導)に成功するかが見どころとなりそうです。角換わり腰掛け銀の新定跡が生まれるか、注目の決勝は2月18日(土)に予定されています。

水留啓(将棋情報局)

  • 水匠電竜は相入玉の激闘を制して決勝進出を果たした

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