• カンテレでの撮影の様子

自社チャンネルの展開に加え、動画コンテンツの受注制作も始まった。TSKと同じフジテレビ系列のカンテレが、昨年4月に開設した中国のSNS「Douyin」「Weibo」を今年の旧正月(春節)に合わせてさらに注力すべく、中国で実績のあるACDにオファーが舞い込んだ。

制作したのは、アナウンサーが出演し、その特性や土地柄を生かした「早口言葉」や「関西弁講座」といった動画。「カンテレさんとしても、アナウンサーをもっとコンテンツとして生かしたいという思いがあったそうで、そのお題を受けてうちのスタッフで検討して企画提案しました」という流れで撮影に臨んだ。

出演したアナウンサーたちは「中国の人たちは楽しんでくれますかね…?」と不安を口にしていたが、1月22日から順次公開すると、最初に投稿した春節の挨拶動画は、Douyinの同局アカウントで断トツとなる9,000いいねを突破し、フォロワー数も投稿前から約4倍増の約5,800に達した(2月10日現在)。岡本氏は「地域の枠を越えて事業展開することを一番の目標としていたので、これが実施になったのはうれしかったですね」と話し、印象に残る仕事の1つになった。

■タレントのウェブサイト運営も「風穴を開けておく」

他にも、タレントの中国向けウェブサイト運営事業を立ち上げた。第1号は、『ウルトラマンオーブ』などに出演する俳優・青柳尊哉で、動画制作も担っている。

このサイトを通じて、日中の企業から商品紹介やイベント出演など、両国を股にかける仕事の依頼が来るようになり、実際にオリジナルグッズや日本酒のPRといった話が進んでいるという。

昨年秋に、タレントの小島瑠璃子が中国での活動を見据えて留学したことも記憶に新しいが、「今は中国進出と言っても不安に思う方が大半だと思います。ただ、14億の人口と経済規模があることを考えると、今後、日本とのつながりがさらに強まっていくのは間違いない。まだみんな様子見というところはありますが、先んじてその風穴を開けておくことで、必ず開いていく道だと思いますね」と、大きな成長分野になることに期待を寄せる。

■参入当初は苦難の日々「ケンカばかりしてました(笑)」

TSKにアナウンサー兼記者として入社し、ニュース番組のキャスターや取材をしてきた岡本氏だが、2013年に東京支社へ異動になった際に、総務省の事業でアジアに向けた番組制作を手がけた。その経験が買われて今回、ACDに出向してきたが、最初は「中国スタッフとケンカばかりしてました(笑)。できること・できないことがカオス状態で混在して、3カ月くらいは何もできなかったですね。当時の週報を見ると『申請も何もうまくいかない』『誰の力を借りていいのか分からない』って書いてますから(笑)」と、苦難のスタートを振り返る。

そんなゼロからの出発で、スタッフ間のコミュニケーションを取ることから始め、TSKが参入して1年が経過したが、「ライブ配信のチャンネルができて、コマースのチャンネルも立ち上げて、アニメ・特撮などの日本文化を発信する『漫応援Mouen』というチャンネルもフォロワーが10万人を超えて、環境としてはかなり整えることができたと思います」と手応え。その上で、「これからはマネタイズしながら、いかに皆さんに喜んでもらうかという方向に広げていきたいですね」と構想を語る。

TSKの参入はコロナ真っ只中だったため、岡本氏はまだ一度も中国に行っていないそうだが、ここまで事業が展開できているのは、リモート化が進んだデジタル時代だからこそ。それでも、「コロナが収束したら、向こうでの受け止められ方も見てみたいので、ぜひ現地に行きたいですね」と意欲を示した。

  • ACD執行役員グローバルメディア本部長の岡本敦氏

●岡本敦
1973年生まれ、鳥取県出身。テレビ長崎の記者を経て、99年に山陰中央テレビジョン放送にアナウンサー兼記者として入社。『FNNスピーク』『TSKスーパーニュース』などを担当し、13年に東京支社営業部へ異動。18年にアナウンサーに復帰して『TSK Live News it!』などを担当した。22年1月からACDに出向し、23年2月から執行役員グローバルメディア本部長を務める。