フジテレビ系列のさんいん中央テレビ(TSK)が、中国に向けた動画コンテンツ事業という新たな挑戦に臨んでいる。昨年1月、中国市場の開拓支援サービスを提供するANAホールディングスが出資する「ACD」に資本参加し、ライブ配信を中心に様々なコンテンツを制作。中国最大のSNS・WeChatで「2022年優秀ライバー/クリエイター」を受賞するなど、1年目にして順調なスタートを切った。

テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、その影響を大きく受ける地方局として次の一手に出たわけだが、どのようにこの事業を進めてきたのか。TSKから出向しているACD執行役員グローバルメディア本部長の岡本敦氏に話を聞いた――。

  • WeChat「青山246放送部」で配信したお台場と大阪の街ブラの様子=提供写真

    WeChat「青山246放送部」で配信したお台場と大阪の街ブラの様子=提供写真

■テレビ以外の取り組みを積極的に推進

TSKは、島根・鳥取という人口規模の小さな県域局だけに、従来の放送収入が頭打ちとなる中、エリア外を見据えた事業や、テレビ以外の取り組みを積極的に推進してきた。配信や番組販売に主軸をおいたバラエティ番組『かまいたちの掟』の制作や、共立リゾートとの旅館経営、古代出雲大社高層神殿のAR・VR制作などがその例だ。

  • 『かまいたちの掟』=さんいん中央テレビ提供

そうした中で、中国に向けたメディア事業を本格的に展開させたいACDと思惑が合致し、TSKが出資する形で、今回の事業がスタートした。

従来、地方局が海外に向けてコンテンツを制作するのは、地元のグルメや観光情報を番組化して、インバウンド需要を掘り起こす地域振興のケースが多いが、「社長の田部(長右衛門)がよく言うのは、『ローカル局がローカルのことだけをやる時代はもう終わる』ということ。なので、中国をターゲットにした新しいメディアを立ち上げることで、今までの枠を取っ払って自分たちが“キー局”となり、全国のいろんな企業や自治体とお付き合いして、日本全国に人を呼ぶことや商品を売ることを目指しています」(岡本氏、以下同)という考えを持っている。

■機材はスマホ1つ、中国出身スタッフを採用

これまでのテレビ制作のノウハウを生かす場面もあるが、特にライブ配信は、「テレビ番組とは、長さもしゃべる分量も全然違います。台本に沿うというより、そのままのライブ感を大事にして、ファンと一緒に対話しながら、ラジオみたいな形で作り上げていくのが新しいなと思いました」と、特性の違いを目の当たりにした。

さらに、機材面でも「スマホ1つでできるということに驚きました。最初は音声や照明みたいなものを付けたほうがいいんじゃないかと思ったんですけど、むしろこのスマホ1つだからこその機動力でできることが多いというのをすごく感じています」と、カルチャーショックがあったという。

中国の人たちの趣向に合ったコンテンツを制作するため、中国出身のスタッフなどTSKで新たに4人を採用し、ACDにいたスタッフと合わせて9人体制に増強。ロケ場所の選定やアポイント、許可取りなどを岡本氏ら日本人スタッフで行って輪郭を整えた上で、「彼らの意見を最大限尊重しながらやっているので、我々としては逆に勉強になることが多いです」と語る。

ここで培ったノウハウが、地上波の番組制作に還元できる部分もあるといい、「局の技術や総務の人間に見せると、『これでもいけるね』という話になるので、既成概念を取っ払ってもらうという意味でも、良い現場ですね」と手応えを述べた。

  • 中国最大のオンラインショッピングモール「天猫」で、ショッピング番組のライブ配信を実施。視聴者からのコメントとやり取りしながら、約4時間にわたってラジオ番組のように進行していく。この日は、リアルタイムで約5,000人が視聴していた。

■毎日街ブラ生配信、「優秀ライバー」表彰も

現在、基幹コンテンツとなっているのが、約13億人が利用するSNS・WeChatのチャンネル「青山246放送部」だ。ACDがオフィスを構える場所から「青山246」と命名したが、日本各地で街ブラのライブ配信を毎日敢行。13~17時の4時間程度という長尺で、視聴者から「ここのお店見せてよ」といったリクエストに応えるなど、コミュニケーションを取りながら旅を繰り広げている。

昨年5月にスタートしてから様々な街をロケしてきたが、「いわゆる外国人観光客の“ゴールデンルート”と呼ばれる都会の整った街ではなく、新大久保や谷中、川越など、ディープであまり他では紹介されないところが刺さっている感じがします。地方の可能性を掘り起こすという意味でも、良いツールになっていると思います」と傾向が見えてきた。

もう1つの鉱脈が、日本の祭り。昨年7月15日に千葉県香取市で行われた「佐原の大祭」をリポートした配信では、日本発としては最高クラスとなる154万視聴を記録した。「日本の祭りは、中国から伝わって昇華したものが多いと思うのですが、その文化が中国ではなくなっているから、伝統の名残を感じて喜んでくれる人がたくさんいるのだと思います」と分析する。

  • 「佐原の大祭」のライブ配信=提供写真

こうしたヒットコンテンツを含め、2022年は194回の配信、UU(ユニークユーザー)数518万人、826.8万いいねをマークしたことから、年間の「優秀ライバー」として表彰された。フォロワー数も、年度内の目標としている3万人を突破しており、今後は「青山246放送部」を中核としながら、ショッピングのチャンネルなどにも展開を広げ、マネタイズを進めていきたい考えだ。