若い世代を中心に、日常的に使われる「ぴえん」という言葉。この言葉を聞くと、目を潤ませた顔の絵文字(🥺)が思い浮かぶ、という人も少なくないでしょう。
この記事では、いまさら聞けない「ぴえん」の意味や使い方、元ネタなどを改めて解説します。もう死語なのか、「ぴえみざわ」「ぴえん超えてぱおん」「ぴえん系メイク」などの派生語や英語表現もまとめました。
ぴえんとは? 意味や元ネタを解説
「ぴえん」とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。また、いつどのようにして生まれたのでしょう。
ここでは、「ぴえん」の意味や誕生の背景について詳しく解説します。
ぴえんの意味
「ぴえん」の意味は、端的にいえば「悲しさやうれしさで、ちょっとだけ泣きたい気持ち」です。言い換えれば、泣いている様子を表す擬態語ということになります。
おなじみの日本語で表すと、似たものに、
- しくしく
- めそめそ
- ぽろぽろ
- ほろっと
などが挙げられます。
大声で泣く様子を表す擬態語には、
- えんえん
- えーん
- わんわん
などが挙げられるでしょう。
「ぴえん」のポイントは、決して深刻な気持ちではないということです。感動や感謝の気持ちを表すときにも使われます。
ぴえんのはじまり・元ネタは?
「ぴえん」は、AMFによる「JK・JC流行語大賞2019」のコトバ部門第1位、そして三省堂による「辞書を編む人が選ぶ今年の新語2020」において大賞に選ばれています。つまり、この頃には世の中で一般的な表現として認められているということです。
これには、SNSの普及が影響していると考えられます。「ぴえん」は、泣いている顔の絵文字を由来としていると考えられているためです。
ここ数年、少しだけ泣きたい気持ちを表すときに、目を潤ませた絵文字(🥺)がSNS上で使われるようになりました。そして、その絵文字を言葉にしたものが「ぴえーん」、そしてそれを省略化した「ぴえん」なのではないか、というわけです。
なお、赤ちゃんが泣く様子を表す言葉として「ぴいぴい」は古くからあるとされています。「ぴ」という音には幼児性を感じさせるものがあります。そのため「ぴえん」に関しても、弱々しい雰囲気を演出できるとして、あざとさ・か弱さ・かわいさなどを表現したいときに好んで使われるようになったのではないかといわれています。
ぴえんの使い方・例文
「ぴえん」は、言葉の発端がSNSであるため、口頭よりもSNSなどで使われることが多いようです。通常は何か一文を置き、その末尾に「ぴえん」を付け加えます。
より具体的な状況や、例文を見ていきましょう。
ぴえんはどんな感情のときに使う?
「少しだけ泣きたい気持ち」が当てはまる場面にて、使用されるようです。
- 悲しい気持ちのとき
- 感動したとき
- 自虐ネタのとき
- 安心したとき
- 許してほしいとき
- 感謝しているとき
- 甘えたいとき
など、いずれにせよ、軽いノリで使われるという点がポイントです。
例えば「○○さん、今年も試験に不合格だって。ぴえん」のように、周囲の誰かが深く傷ついている場面で「ぴえん」を使ってしまうと、あざ笑っているような印象を与えてしまいますので避けます。
あくまで笑い話にもなることを前提として、使われる言葉のようです。
ぴえんの例文
いくつか例文を挙げてみます。
悲しい気持ちのとき
「先週買ったばっかりの服、今日から半額になってた。ぴえん」うれしい、感動した気持ちのとき
「後輩がドーナツをおごってくれた。ぴえん」ほっとしたとき
「飛行機にぎりぎり間に合った。ぴえん」
また、何かの写真に「ぴえん」の一言のみを添えて投稿するケースもあります。
さらに擬態語からの派生として、
- 「ぴえんする」(動詞化)
- 「ぴえんな~」(形容動詞化)
という表現も存在します。
これらは例えば、
- 「おいしすぎてぴえんしそう」
- 「ぴえんな味」
のように使われます。
ぴえんの派生語
「ぴえん」が、「少しだけ泣きたい気持ち」を表すものであることは前述の通りです。
ここから派生語として生まれたものに、
- 「ぴえぴえ」「ぴえみ」「ぴえみざわ」
- 「ぴえん超えてぱおん」
- 「ぴえんヶ丘どすこい之助」
などがあります。
いずれもリズミカルな語感が特徴です。以下、それぞれについて詳しく解説します。
「ぴえぴえ」「ぴえみ」「ぴえみざわ」
「ぴえぴえ」「ぴえみ」「ぴえみざわ」は、「ぴえん」と同じ意味や用途で用いられる派生語です。語感や場面で、好みによって使い分けられます。
「ぴえみざわ」に関しては、YouTuberのKemioさんが使い始めたといわれる、テンションが上がったときに用いる「あげみざわ」からの派生語でもあります。
いくつか例文を挙げてみましょう。
- 「バイト6連勤中。ぴえぴえ」
- 「抜き打ちテストあった…ぴえみざわ」
いずれも語感がおもしろいため、残念な気持ちを表すときでも明るい雰囲気になるでしょう。
「ぴえん超えてぱおん」
「ぴえん超えてぱおん」は、「ぴえん」よりも強い感情を表したいときに用いられる表現です。
「ぱおん」はゾウの鳴き声に由来するといわれ、「ゾウのように大きな声を上げるほどの悲しみやうれしさ」を表します。例えば、
- 「1カ月も会えないなんて、ぴえん超えてぱおん」
- 「限定チケット買えた。ぴえん超えてぱおん」
などのように使います。
また、「ぱおん」のみで使われることもあります。
「ぴえんヶ丘どすこい之助」
「ぴえんヶ丘どすこい之助」は、「ぴえん」の最上級として用いられる表現です。つまり、悲しみやうれしさで激しく動揺している気持ちを表します。
例文を挙げてみましょう。
- 「絶対行こうと思ってたコンサートのチケット、応募の締め切り過ぎてた。ぴえんヶ丘どすこい之助」
- 「クレジットカードの支払額、予想以上だった。ぴえんヶ丘どすこい之助」
「ぴえん」や「ぱおん」より強い感情表現ではあるものの、やはりネタのような雰囲気を作りたいときに使われます。
ぴえんから生まれた「ぴえん系○○」
「ぴえん」から派生したものの一つに、「ぴえん系○○」があります。具体的には、
- ぴえん系メイク・ぴえんアイ・びえーんメイク
- ぴえん系女子
と呼ばれるジャンルです。以下、それぞれについて詳しく解説します。
ぴえん系メイク・ぴえんアイ・びえーんメイク
「ぴえん系メイク」「ぴえんアイ」とは、「ぴえん」の絵文字のような、か弱さを演出したメイクのことです。涙袋を目立たせて、潤んだ目に見せる点がポイントです。具体的には、涙袋に大粒のラメを使い目立たせます。
ラメを塗るメイクの流行は以前からありましたが、「ぴえん系メイク」はより大きな粒で瞳に光を集めるメイクです。
また、「びえーんメイク」と呼ばれる、泣き腫らしたような目に見せるメイクもあります。この場合は、目の周りに赤系のアイシャドウを塗り、泣きはらしたような印象を作ります。「地雷系メイク」などとも呼ばれています。
ぴえん系女子
「ぴえん系女子」と呼ばれるワードも誕生しました。これは、いわゆる「メンヘラ気質」の女性を指す言葉です。メイク同様、「地雷系女子」とも呼ばれます。
「ぴえん系女子」はかわいらしい見た目であるものの、実際に関わりを持つと厄介ごとに巻き込まれそうな雰囲気があります。SNSではネガティブな投稿が多く、庇護欲をあおるようなアピールの仕方をするのが特徴です。
「ぴえん」が幼児性やあざとさを感じさせることと同様に、ぴえん系女子も周囲にそのような印象を与えるようです。
ぴえんはもう古い? 死語なの?
前述のように、「ぴえん」はAMFによる「JK・JC流行語大賞2019」のコトバ部門第1位、そして三省堂による「辞書を編む人が選ぶ今年の新語2020」において大賞に選ばれた言葉です。それでは現在は既に古い言葉になっているのでしょうか。
朝日新聞社のサイト『withnews』内で2022年8月2日に公開された記事では、1990年代中盤から2010年代中盤に生まれた世代、通称Z世代に特化したシンクタンク「Z総研」のメンバーを中心とした座談会の内容が記されています。それによれば、2022年8月の時点で、Z世代の特に女性は、日常的に「ぴえん」を使っていると記されています。
一方で、2022年1月30日~31日に、TBSラジオの番組『TALK ABOUT』が10代~20代の206人を対象に実施した「今使うとダサい言葉は?」というアンケートでは、ぴえんが2位に選出されています。
これらから推測するに、「ぴえん」は一時的な流行語から一般的な日本語として定着する、はざまの言葉であるとも考えられるでしょう。またもともとがネタのような雰囲気を作るときに使われる言葉であることも考慮して、場面や相手によって使い分ける必要があるといえます。
【参考】
- 朝日新聞社 withnews(2022.8)
「ぴえん」はもう死語? 飯間浩明さんをうならせたZ世代の答え - TBSラジオ(2022.9)
10代20代が思う「今使うとダサい言葉」「マジ卍」「ぴえん」「写メ」など
ぴえんの英語表現
英語には擬態語が少ないこともあり「ぴえん」と全く同じ意味の言葉はありませんが、英語で表現するときには、
- boo hoo
- sniff
- sob
などを使うといいでしょう。
「boo hoo」は泣きわめく声を表す擬音語で、会話で使われるときには皮肉めいたニュアンス、うそ泣きのような印象を含みます。
「sniff」「sob」は、どちらも「しくしく泣いている様子」を表すときに用いられる表現です。ただし、「sob」はすすり泣きのような暗い雰囲気を持つ表現であるため、よりふさわしい言葉はくすんとしたニュアンスの「sniff」の方でしょう。
なお、ぴえんの元となった絵文字は、英語では「Pleading Face」といいます。「pleading」は「嘆願するような、訴えるような」という意味を持ちます。
「ぴえん」は若者言葉から進化を続け、辞書に載るまでになった言葉
「ぴえん」とは、「ちょっと泣きたい気持ち」を表すネットスラング・若者言葉で、2010年代末ごろからSNSを中心に使われるようになりました。現在では辞書にも掲載されるようになり、広く認知され始めています。
悲しい感情だけでなく、感動や感謝の気持ちを表現するときにも使われます。
また、派生語として
- 「ぴえぴえ」「ぴえみ」「ぴえみざわ」
- 「ぴえん超えてぱおん」
- 「ぴえんヶ丘どすこい之助」
などがあります。
現在も広く使われているようですが、軽いノリで使われる言葉であるため、使用する場面を選ぶ必要があるでしょう。