ダスキンとRE&S Enterprises Pte Limitedは5月21日より、シンガポールの繁華街に1号店となる「ミスタードーナツJUNCTION8ショップ」をオープンする。ダスキンとマスターフランチャイズ契約を締結したRE&S社が、シンガポールの実情に沿った形で運営していくという。ダスキンの大久保裕行社長は「弊社としては6年ぶりの海外進出になります。全力でサポートし、成功につなげたい」と意気込んだ。

  • ミスタードーナツがシンガポール初進出へ

■なぜシンガポールに出店?

これまで東南アジアを中心に海外展開してきたダスキン。すでに「ミスタードーナツ」事業としては台湾、タイ、フィリピン、インドネシアの4地域(計9,557拠点)で展開しており、またマレーシア、カンボジアではハラル認証を取得したドーナツブランド「ビッグアップル」事業を計81拠点で展開している。

  • ダスキンの海外展開について。ミスタードーナツ事業としてはシンガポールが5地域めとなる

シンガポールに出店した理由について、大久保社長は「シンガポールには約6,800億円規模の外食需要があります。テイクアウト需要も高いため、我々の事業とも親和性がある。アジアでも有数の先進国であり、いまや東南アジアの中心といっても過言ではないシンガポールに進出することで、ミスタードーナツの国内外の事業も勢いづくと考えています」と説明する。

  • ダスキン 代表取締役 社長執行役員の大久保裕行氏(左)と、ダスキン 取締役 執行役員の上野進一郎氏(右)

今回、シンガポールで飲食ビジネスを展開するRE&S社とマスターフランチャイズ契約を締結した。ダスキンから営業権とノウハウを提供されたRE&S社が、地域の特性に応じて事業を展開する形だ。RE&S社と提携した理由について、ダスキン 取締役の上野進一郎氏は「シンガポールで30年間、飲食ビジネスを展開している企業です。徹底した衛生管理、高品質のサービスが特徴で、我々が大切にしている理念にも賛同いただきました」と説明する。

  • RE&S社とマスターフランチャイズ契約を締結した

  • 契約締結先の選定理由について

JUNCTION8ショップはテイクアウト専門店。日本から原材料を運び、日本で提供しているドーナツと同じものを販売するという。「スタッフのかたには日本で研修してもらうだけでなく、ダスキンから定期的に訪問してサポートし、指導および情報提供もしていきたい。そのうえで、RE&S社には現地のお客様の購買行動に即した自由な展開を期待しています」(上野氏)。

  • RE&S社のスタッフは日本のミスタードーナツアカデミーで研修を受けたあと、シンガポールのオペレーションに配属される

RE&S社は1988年にシンガポールで設立された、和食を中心とした飲食店を運営する企業。RE&S Holdings Limitedの多田羅博氏は「レストラン、エンターテインメント、ショービジネスの頭文字をとってRE&Sとしました。現在、グループではシンガポールにおいて日本食レストラン、中食の小売店などあわせて15業態74店舗を運営しています。創業時から、現地のかたが納得して楽しめる日本食の提供にこだわってきました。今回の提携は弊社にとっても最大のチャンス。現地人の嗜好を理解しており、ビジネスモデルを調整できる弊社ならではの強みを最大限に活かして展開していきます」と意欲をみせる。

  • RE&S Holdings Limited 代表取締役 創業者の多田羅博氏(左)と、RE&S Holdings Limited COOのリム シャン ツェン氏(右)

RE&S Holdings Limited COOのリム シャン ツェン氏は、シンガポールについて「東京23区とほぼ同じ面積に、兵庫県の人口とほぼ同じ563万人が住んでいます。物価は東京と同等か、少し高い程度。好まれている料理は多様で、中華、インド、マレー料理が主体です。甘いもの、揚げ物の人気が高く、外食も多い傾向にあります。日本のお菓子、デザートは高品質で美味しいと人気があります」と紹介する。

そしてJUNCTION8については「人口密度の高い住宅街にほど近いショッピングモールにあります。周囲には多くの住宅があり、学校もあり、毎日多くの人々が行き交います。比較的、裕福な層が多いのも特徴。その多くは少なくとも週に1度のショッピングを楽しみ、その86%がショッピングモールに1時間以上滞在し、1万円以上を消費しています」。そこでまずはテイクアウト専門店として始め、ブランド認知度を高めていきたい、今後数年で店舗を拡大させてイートインもオープンしていけたら、と展望を語る。

  • 日本でも人気の商品をシンガポールでも販売する。定価も日本と(それほど)変わらずに提供できる見込み

ちなみに昨年、シンガポールではテストマーケティングを実施した。郊外でミスタードーナツのポップアップストアを1カ月間の期間限定でオープンさせたところ、なんと最大で5時間待ちの行列になったという。「看板商品のポンデリングをはじめとする人気商品を求めて長蛇の列ができるなど、特別な反響を得ました。そこでJUNCTION8ショップをオープンできれば、必ずや良い結果を出せると確信しました」とリム氏。

  • 最大5時間待ちでポンデリングを買い求める人の姿も

今後については「品質維持のためにダスキン社の協力のもと、定期的な現地監査と品質チェックを行っていきます。また日本とシンガポールで頻繁に意見交換をして、現地ならではのアイデアを出して新商品の開発も行っていきたい」(リム氏)。

■今後の目標は?

最後に質疑応答の時間がもうけられ、ダスキンの大久保社長、上野氏、RE&Sの多田羅氏、リム氏、RE&S Enterprises Pte Limited ミスタードーナツ事業責任者の関篤史氏が記者団の質問に回答した。

今後の店舗拡大について聞かれた関氏は「ダスキン社とは『最初の3年間で9店舗以上を展開していく』ということで契約を結んでいます。当面はRE&S社の直営店を増やしていく方針です」と回答。

テイクアウト専門店にした理由について、リム氏は「背景には、用地の特殊性があります。今回の用地はイートインの店舗を作れるほど大きなスペースではありません。ただショッピングモールの要所にあり、シンガポール初出店にあたり有意義だと考えました」とした。また、どのような商品を展開していくのか、と問われると「現地の人にすでに広く認知されている、ポンデリングを中心とした人気商品を展開していきます。トップ商品を取り扱うことで、まずはミスタードーナツのブランドを広く知っていただければ」(リム氏)。シンガポールにはカヤトースト、グラマラッカといった甘いものを食べる文化があり、今後、こうした商品とコラボしたような商品も展開していけたら、と続けた。

シンガポールで新開発した商品が日本に逆輸入することもあるのか、と聞かれた上野氏は「過去にもピエール・マルコリーニとのコラボ商品などを展開してきました。今後とも、良いものがあれば取り入れていきます」と回答する。

多田羅氏によれば、ミスタードーナツはすでにシンガポールでは相当知られたブランドとのこと。その理由については「日本人の駐在員のかたはもちろん、シンガポールから日本に年間で約50万人超の観光客が行っておりますので」と説明。なお同氏によれば、現地で競合となるドーナツ店にはダンキンドーナツ、クリスピー・クリーム・ドーナツ、J.Co Donuts & Coffeeなどがあるという。

それを踏まえたうえで、大久保社長は「まだ各社間、そこまで大きなパイの奪い合いにはなっていません。そして我々がシンガポールでターゲットとしているのは、ドーナツ好きの人々というよりは、甘いものを食べているお客さん全般です」と説明。どのくらいの売上を期待しているか、との質問には「海外事業に関しては、ロイヤリティ収入になります。ですから、さほど大きくはないんです」(大久保社長)と答えるにとどまった。

  • 大久保社長と多田羅氏は、囲み取材にも応じた

ダスキンでは、東南アジア地域においてシンガポールがハブの役割を果たしている事実にも注目している。大久保社長は「人の流れがあるんですね。たとえばシンガポールで流行ったものが周辺国にも波及していきます。そこでシンガポールの国内で展開することで、東南アジア地域でブランドの価値を高めることができるのでは、とも考えているんです」と狙いを明かしていた。