1月スタートの冬ドラマの中で注目作の1つが、門脇麦主演の『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系、毎週水曜22:00~)。かつての天才ヴァイオリニストで現在は市役所職員の主人公(門脇)が、新進気鋭で毒舌の指揮者(田中圭)とともに、地元の“ポンコツ交響楽団”を立て直していくという音楽エンタテインメントだ。

“天才ヴァイオリニスト”に“新進気鋭の指揮者”、“交響楽団が舞台”と言われると、一見敷居が高く、一般の視聴者にとっては接点が見つけづらいようにも思えるが、実は全く真逆。誰の琴線にも触れ、“人情”たっぷりの笑いと涙の佳編に仕上がっている。

  • 『リバーサルオーケストラ』に出演する門脇麦(左)と田中圭 (C)NTV

    『リバーサルオーケストラ』に出演する門脇麦(左)と田中圭 (C)NTV

■1話からすぐに「児玉交響楽団を応援したい」

今作の第一の魅力は、視聴者にストレスを与えない見やすさにある。主人公・初音(門脇)は、幼いころ数々のコンクールを総なめにし、自分が冠となるコンサートも開催していたほどの天才ヴァイオリニスト。だが“過去のある出来事”をきっかけに表舞台から姿を消し、現在は存在感の薄い市役所職員となっている。

一方、そんな主人公を巻き込む、才能ある指揮者の朝陽(田中)は、ドイツを拠点に活動していた最中、市長である父(生瀬勝久)によって強引に連れ戻され、地元の交響楽団の立て直しを命じられる。そんな接点のなかった2人が共に協力し、地元の「児玉交響楽団」を再生していくというのがこの物語の立ち上がりだった。

このあらすじから想像できる今後の展開は、主人公の過去を引っ張り、巻き込まれる登場人物たちのドタバタを描き、団員たちのポンコツぶりを強調した演出だろう。だが今作は、第1話の序盤こそスラップスティックなテイストを持たせながらも、主人公の過去は早々に明らかとなり(※過去はそれだけではない可能性もあるが)、前半のドタバタが“振り”であるかのように、クライマックスでは劇団員はポンコツだが“音は悪くない”という結論へ導く。想像する展開を少しずつ外しながらも、やがて“可能性”を予感させていく、実にノンストレスで見やすい展開なのだ。

そして、このドラマで描きたいのは、ヒロインの過去の掘り下げでも、慣れない環境でのドタバタでも、成長物語にありがちなはじめの一歩のダメさ加減でもなく、“音楽の楽しさ”ということでもある。その相乗効果によって、第1話からすぐに「児玉交響楽団を応援したい」と視聴者に思わせる世界観を作り出すことに成功している。

  • 「児玉交響楽団」の楽団員たち (C)NTV

■プロの難しさと夢を追いかけることの折り合いの描き方

その反面、“音楽の楽しさ”の対極にある“楽団員としての現実”を早くも第2話で展開させた点も好感だった。ポンコツの楽団員といえども、給料が発生するプロである。その描き方を少し間違えると、このドラマの根幹である音楽へのリスペクトも希薄となり、誰からの共感も得られない物語になってしまう。

それが今作では、プロではあるものの、大きくはない地方の楽団員で薄給であることを描き、その中でプロでいられることの難しさと、夢を追いかけることの折り合いをバランスよく、そしてドラマチックに見せていた。フルート首席である蒼(坂東龍汰)の遅刻癖というポンコツから始まる第2話のエピソードは、実に感動的な人情ドラマ。現実をしっかり描いたことで、今作のテーマであろう“音楽の楽しさ”を、早い段階からより強調して印象付けることができたのだ。