第8期叡王戦は、本戦トーナメント1回戦の永瀬拓矢王座―出口若武六段戦が1月24日(火)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、159手で勝利した永瀬王座が2回戦進出を決めました。

永瀬王座得意の早繰り銀

先手となった永瀬王座は角換わりの序盤戦に誘導。いち早く早繰り銀の攻撃形を作っておいてからおもむろに囲いの整備に移ったのが永瀬王座好みの作戦です。対して後手の出口六段は腰掛け銀に組んで先手の攻めを迎え撃つ作戦を採りました。3筋で銀交換が行われたのち、お互いにこの銀を打ち直して戦いは一段落を迎えました。

実戦例のある展開が続いたのち、じっと5筋の歩を伸ばした手によって永瀬王座は3年前に指された自身の前例を離れました。この手を見た出口六段は40分を超える長考に沈みます。やがて選んだ五段目への銀出は先手の攻めを待った積極的な受けですが、これによって馬を作ることに成功した永瀬王座が主導権を握りました。

「負けない将棋」で永瀬王座が優勢に

駒割は互角ながら、自陣に引き付けた馬が攻防に働いて盤上には永瀬王座らしい「負けない将棋」が展開されています。形勢逆転を狙う出口六段は自玉を金銀4枚の堅陣に収めて反撃の時を待ちますが、その間に永瀬王座は飛車をさばいて敵陣に竜を作る戦果を挙げました。この竜はすぐに出口六段の角との交換になりますが、永瀬王座はこの竜なしにも後手玉への攻めが続くことを見通していました。

出口六段の玉が囲いから這い出して入玉を目指してきたとき、じっと控えの歩を打って拠点としたのが永瀬王座の好手。後手玉の入玉の可能性がなくなり、ここで永瀬王座の優勢が確立されました。金・銀・と金の3枚で入玉ルートを作っていた後手玉ですが、先手の馬にヒモ付けされたこの1枚の歩によって働きを止められてしまった格好です。

手堅くまとめて永瀬王座が勝利

優勢を築いた永瀬王座はその後も好手を続けて攻めを継続します。後手玉への直接攻撃はいったん止め、持ち駒の角・桂・香の3枚をすべて投入して後手の飛車を捕獲したのが視野の広い決め手となりました。飛車を奪ってしまえば自陣に引き戻された後手玉を寄せるのは容易と見ています。

非勢を認める出口六段も逆転を目指して粘りに出ますが、永瀬王座の優勢は最後まで揺るぎませんでした。終局時刻は16時55分、なんとか永瀬陣への玉の侵入を果たした出口六段ですが、豊富な持ち駒によってこの玉が即詰みに討ち取られたのを見て投了となりました。勝った永瀬王座はベスト8に進出。準決勝進出をかけて三浦弘行九段と対戦します。

水留啓(将棋情報局)

  • 永瀬王座は予選決勝の羽生善治九段戦でも早繰り銀を採用していた(写真は第69期王座戦第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

    永瀬王座は予選決勝の羽生善治九段戦でも早繰り銀を採用していた(写真は第69期王座戦第4局のもの 提供:日本将棋連盟)