採用選考に使っている企業は1万4,400社。2021年の受検者数は215万人。多くの学生が就活で目にする適性検査が「SPI」です。

SPIとはいったい何をテストするのでしょうか。準備のポイントはあるのか。忙しい就活の中で、どう向き合えばいいのか。

そんな数々の疑問について、実際にSPIを開発している「中の人」である、リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 マネジャー兼主任研究員 仁田光彦さんに答えてもらいました。

  • SPI対策は何が必要?

属性情報に捉われず個を生かすためのテスト

SPIは「適性」を測る検査です。性格特性や基礎的な知的能力を測定しており、応募者の人となりはもちろんのこと、どのような仕事に向いていてどのような組織になじみやすいのか、などが分かります。

このテストが生まれたのは50年以上も前。「学歴」「大学名」「性別」などの属性情報に捉われず、個々の学生をきちんと見るために開発されたと仁田さんは説明します。

当時は、大手企業を中心に、「指定校制」と呼ばれる採用活動が一般的でした。企業は特定の大学だけに求人票を送り、その大学の学生だけが応募する方式で、合否も面接、学業成績、縁故、身上調査などで決まっていたようです。

こうした時代背景の中で、きちんと本人の特徴を見て、自社に向いているかどうかを判断でき、かつ、できる限り公平・公正な選考手段を提供したい、といった思いから、SPIを始めとした私たちのテスト事業は始まっています。

  • リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 マネジャー兼主任研究員 仁田光彦さん

仁田さんの言う「自社に向いているかどうか」という観点は、企業の採用担当者がとても重視するポイントです。大学やサークルによって雰囲気や価値観、テンションの高低が違うように、企業もまた、会社ごと、部署ごと、職種ごとに空気感がまるで異なるからです。

同じ「営業」という職種であっても、新規の小売店と既存の大手企業向けの営業では、成果を出すために求められる要素が異なります。

ですから採用担当者は、「この学生は自分たちの職場になじんでもらえるか?」 「パフォーマンスを発揮してもらえるか?」 と常に考えています。

しかし、選考の過程で学生一人ひとりとコミュニケーションできる時間はごくわずかしかありません。その中で、エントリーシートや面接など、様々な情報を踏まえて総合的に合否は決まる前提ですが、本人の資質をより理解するために、SPIは活用されています。

「SPIには『何点以上とれば合格』という絶対的な基準はありません。企業ごとにすべて見方が違うからです。従業員向けにSPIを実施して、そのデータを元に、新卒採用の基準が設定されているケースもあります」

SPIに向けた準備のポイントは?

絶対的な基準がなくとも、世の中にはSPIの「対策本」が多く出回っています。どのような準備をするべきでしょうか。

実施形態や問題形式に慣れるということが重要と考えています。以前、"対策組"と"対策しない組"に分けて、SPIの結果がどれくらい変わるのか、検証したことがあります。『試験形式に慣れているかどうか』では差がついていましたが、それ以上の差はみられませんでした。

SPIにはいくつかのテスト形式があり、一番多いのはパソコンを使った受検となっている。見慣れない問題があったり、制限時間によってゲージが減ったりすることに、戸惑ってしまうことはあるかもしれない。そう仁田さんは教えてくれました。

どうやら、SPIの練習問題をweb上で受けておいた方が良さそうですね。

「リクナビを始めとする、就活ナビサイトには、形式が似ているテストが掲載されています。模擬テストではないため、問題は異なりますが、パソコンを使った問題に慣れるために活用してみるのも良いと思います」

  • 言語・非言語Webテスト 出典:リクナビ2024

仁田さんの話を聴くと、SPI対策は問題形式に慣れれば十分なようです。自己分析・インターンシップ・企業研究・ESの記入など、就活でやるべきことはたくさんありますから、時間の振り分けには注意しなくてはなりません。

SPIは就職した後も活用される

ところで、仁田さん自身の就活では、どのようにSPIの準備をしていたのでしょうか。

「私の就活では、『SPIで無理をしたり嘘をついたりしたら、あとで困るだろうな』と思っていました。採用の選考だけじゃなくて、どの部署に配属するかなどの参考にも使われると考えていたからです。結果として落ちてしまう企業も多かったですが、そもそも合わない企業だったととらえようと思っていました」

実際、SPIは入社後にも使われるケースが増えています。就活時のSPI結果を活用される企業も多いですが、2022年1月にリリースした「従業員向けSPI」を入社後に再度受検していただく企業も増えてきました。

コロナ禍で上司と部下が直接会うことが難しくなっている今、相手が何を大事にしているのか、どんな価値観を持っているのか、理解を深めるために活用されているのです。SPIは、自分と組織の関係を知るためのテスト、という捉え方が良いのかもしれませんね。

「ちなみに、『自分をよく見せようと答えている』と、SPIでは、『その傾向がある』という結果が出る仕組みになっています。そういう意味でもリラックスして普段の自分の通りに回答いただきたいです」

取材協力:仁田光彦(にた・みつひこ)

リクルートマネジメントソリューションズ測定技術研究所マネジャー兼主任研究員。2009年にリクルートマネジメントソリューションズ入社。以降、一貫して採用・入社後領域に携わり、若手の適応やメンタルヘルス領域についての研究を行う。2010年から、開発職として採用時のアセスメント開発や品質管理を担当。2018年からは測定技術研究所のマネジャー兼主任研究員。