第8期叡王戦は、六段戦予選の高野智史六段―大橋貴洸六段戦が11月24日(木)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、104手で大橋六段が勝利して本戦進出を決めました。

大橋六段用意の角換わり早繰り銀

両対局者はこれが初手合いです。角換わりの出だしとなった本局、先手の高野六段が4筋の歩を突いて腰掛け銀の態度を示したのに対して、後手の大橋六段は右銀を7筋に上がって早繰り銀の態度を明示しました。持ち時間1時間の早指し棋戦らしく、ともに序盤からリズムよく指し手を進めていきます。

9筋の歩を突き合っているのに注目して、居玉のまま仕掛けに踏み切ったのが大橋六段の工夫でした。この端歩の突き合いがないと、後手が銀交換をしたときに先手から王手飛車取りの切り返しがあるところです。また後手の居玉は、数手後に予想される先手からの反撃からあらかじめ遠ざかっているというメリットがあります。とはいえ大橋六段としても自玉のすぐ前の地点が弱点となりやすいため、この薄みをどうカバーするかは課題として残りました。

盤面全体を使った小競り合いが続く

高野六段が継ぎ歩の手筋を使って反撃したとき、左銀を中央に上がったのが大橋六段の用意していた答えでした。この手は直後に打った自陣角と連動して自陣中央の薄みを補いながら、やがてこの銀を前進させて先手の右桂を取ってしまおうという狙いを持っています。大橋六段の新構想を見た高野六段は、その後の方針を練るために持ち時間の半分に当たる30分を費やすことになりました。

やがて高野六段は、戦いの隙を見て自玉を中住まいの構えに収めます。対する大橋六段は、一貫して居玉のままで攻めの手を休めません。盤面全体を使った小競り合いが続き、やがて大橋六段は2枚目の角を入手します。そしてすぐにこの角を盤上に放って先手の銀を捕獲しました。一方の高野六段も、2筋に作ったと金を拠点に飛車先突破を見せて対抗します。形勢は互角で、どちらが先に敵玉への攻めを繰り出せるかが焦点となりました。

難解な終盤戦を大橋六段が抜け出す

大橋六段が持ち駒の銀を1筋に投入して高野六段からの飛車の成り込みを防いだ局面が、本局の終盤における分岐点となりました。一分将棋の秒読みに追われる高野六段はと金を右に寄せてこの銀を取りにいく方針を採りましたが、結果的には攻めの要が後手玉から遠ざかる疑問手となりました。ここは持ち駒の金を打ってと金と連携させ、居玉のままの大橋玉にプレッシャーをかけておく手が優りました。

一時的な自玉の安全を得た大橋六段は、これをチャンスとばかりに反撃に出ます。やがて盤上に打った桂香で的確に高野玉周辺の金銀をはがしたところで、大橋六段の優勢が確立されました。最後は、高野六段の飛車の成り込みを防ぎつつ王手をかける一石二鳥の桂打ちで逆転の可能性を完全に摘み取りました。この桂打ちを見て高野六段が投了。結局、最後まで大橋六段の玉が動くことはありませんでした。

勝った大橋六段は六段予選を突破し、自身初となる叡王戦本戦進出を決めました。

水留啓(将棋情報局)

  • 勝って今年度勝率を8割に乗せた大橋六段

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