芝浦工業大学は、芝浦工業大学附属中学高等学校100周年記念事業の一環で、西武鉄道から元鉄道院403号機関車(西武鉄道時代は4号機関車)の寄贈を受け、一般公開される運びとなった。同校新豊洲校地にて12日、403号機関車の除幕式が行われた。

  • 芝浦工業大学附属中学高等学校の新豊洲校地で、元鉄道院403号機関車の保存展示が始まった

鉄道院403号(西武鉄道4号)機関車は、1886(明治19)年に英国のナスミス・ウィルソン社で製造された400形の1両。全長9,188mm・全高3,607mm・全幅2,286mmと小型で、機関車と炭水車が一体となったタンク式蒸気機関車となっている。同一設計車両として500形・600形・700形(鉄道作業局a8形)などが存在し、いずれも英国から輸入された。この機関車が後に国産蒸気機関車860形(a9形)・230形(A10形)などの礎にもなったという。

403号機関車は1965(昭和40)年、上武鉄道から西武鉄道に返却(借入れは1961年に行われた)された後、廃車となった。番号は数回にわたり改番されたが、最終的に西武鉄道4号機関車として廃車に。その後、ユネスコ村(所沢市)での保存を経て、西武鉄道横瀬車両管理所で保管された。今回、芝浦工業大学附属中学高等学校100周年記念事業による保存展示にあたり、同所にて鉄道院403号時代の姿に復元整備された。

除幕式で挨拶した芝浦工業大学附属中学高等学校校長の佐藤元哉氏は、403号機関車を設置する趣旨について説明。同校の創立100周年記念事業を進めるにあたり、前身である東京鐡道中学とのつながりを象徴するようなモニュメントができないか考える中で、蒸気機関車の設置を行うことになったと佐藤校長は話す。その過程で、同校および芝浦工業大学の卒業生である西武建設の社員から西武鉄道4号機関車の話を聞き、同機の選定・寄贈に至ったという。

佐藤校長は、次の150年・200年へ、403号機関車とともに向かっていく姿勢を示した上で、「この機関車が地域の皆様に愛され、豊洲の新たなランドマーク、さらには観光遺産となれば」と語った。

  • (写真左から)佐藤校長、山崎区長が挨拶。鈴見理事長から喜多村社長へ感謝状の贈呈も

続いて江東区長の山崎孝明氏が挨拶。豊洲がかつて工業の町であったことに触れ、石炭を運ぶため、この地を蒸気機関車が走っていた歴史を紹介した。それを踏まえ、今回、403号機関車が芝浦工業大学附属中学高等学校に設置されたことに対し、「本当にありがたい、涙が出るほどうれしい」と山崎区長。会場に家族連れが多く来場していたこともあり、「この機関車を大切にして、みんなで守っていきましょう。いたずらなんかしちゃダメだよ」と、親しみを込めて呼びかけた。

その後、学校法人芝浦工業大学理事長の鈴見健夫氏から、西武鉄道代表取締役社長の喜多村樹美男氏へ感謝状が贈呈された。感謝状を受け取った喜多村社長は、西武鉄道が横瀬車両管理所で保管していたときと比べて、見違えるほど403号機関車がきれいになったことに感謝を述べた上で、「ぜひ、末永く愛していただければ」と話した。

式の最後に403号機関車の除幕を実施。和太鼓のドラムロールが流れた後、司会の「どうぞ!」の合図で登壇者が一斉にロープを引き、403号機関車がお披露目された。同時に汽笛と蒸気のデモンストレーションも行われ、豊洲地区に蒸気機関車の音が蘇った。

  • 復元整備された403号機関車が除幕される。汽笛と蒸気も上がった

汽笛・走行音に関して、博物館明治村(愛知県犬山市)による協力の下、403号機関車と同じく明治期に製造され、同施設で動態保存されている9号機関車の汽笛と走行音を採音加工したという。汽笛については、機体に取り付けられた汽笛にコンプレッサーから空気を送り、音を発している。披露された汽笛は、各地で現存する蒸気機関車のそれとは異なり、音量は特段大きくないが、優しい音を響かせていた。

保存展示を開始した403号機関車では、復元整備として、失われていた銘板およびナンバープレートを復元して取り付けたほか、運転室内に圧力計・水位計を設置している。ナンバープレートに「403 TYPE400」、銘板に「NASMYTH WILSON」の文字が刻まれ、当時のオイルランプを模した前照灯、運転室前の汽笛、後部側の連結器が取り付けられた。全体的に外板の劣化が進んでいたため、ハツリと再塗装も徹底して実施。とくに傷みの激しかった部分は撤去の上、新しくステンレス板を張り付けたという。

  • 復元整備された403号機関車の前面・側面

  • 403号機関車の後面とナスミス・ウィルソン社の銘板

前面・後面の連結器周りと動輪が赤く塗装され、ロッドや動輪の外側、初期の機関車に見られたというジョイ式弁装置は銀色に輝いている。開放時間中は運転室も入ることもでき、黒色と淡い緑色の内装にどことなく懐かしさを感じる一方、機器類の複雑さは蒸気機関車ならでは。総じて、403号機関車は新車同然の輝きを取り戻しつつ、現代の鉄道車両とまったく異なる風格も備わっていた。

403号機関車は高輪築堤の築石を使用した土台の上に設置されている。この築石は高輪築堤の海側(発掘現場4街区海側)にあったもので、港区教育委員会とJR東日本から寄贈された。403号機関車は高輪築堤が現役だった時代に国内で走っていたため、明治期の姿に修復された状態と高輪築堤の築石との親和性が高い。403号機関車の横に高輪築堤築石のモニュメントも設置された。

  • 運転室内部。機器類は透明アクリル板で保護されている

  • 403号機関車の土台に高輪築堤の築石が使用された

  • 築堤上を走るようにも見え、歴史と迫力を感じられる

  • 車両の脇に築石のモニュメントも

403号機関車は芝浦工業大学附属中学高等学校新豊洲校地の公開空地に保存展示され、外観は24時間見学可能。月曜日から土曜日まで、9~17時に運転台も公開される(日曜・祝日および学校の休業日は休み)。汽笛は毎日、12時と17時に再生される予定。12時の汽笛は「午後も頑張ろう」、17時の汽笛は「そろそろ家に帰りましょう」という音調になっているとのことだった。

公開初日は近隣で地域協賛イベント「ようこそSL祭り」が開催されていたこともあり、403号機関車は除幕前から多くの家族連れでにぎわっていた。除幕の前から機体を背に記念撮影する来場者の姿が見られ、除幕後は蒸気機関車との記念撮影に加え、運転台見学のための待機列もできていた。地元のイベントと重なったことで、初日から403号機関車の周囲は活気に満ちあふれていた。