9月16~17日、全日本フリースタイルBMX連盟(以下、JFBF)とNTT西日本 岡山支店は「第6回全日本BMXフリースタイル選手権(BMXフリースタイル・パーク)」において、ICTを活用した新たなスポーツ観戦に挑戦した。9月17日の模様とともに、JFBFの出口氏、NTT西日本の前原氏にその意義を伺ってみよう。

  • 躍動感溢れるトリックで会場を沸かせる中村輪夢選手

ICTでBMXフリースタイルの観戦に新たな価値を

BMXフリースタイルは、Bicycle Motocross(バイシクル モトクロス)と呼ばれる自転車に乗り、さまざまなトリック(技)の構成や難易度、完成度、ジャンプの高さなどを競うエクストリームスポーツだ。東京2020オリンピックでは正式種目にも採用され、近年ますます注目を浴びている。

近年は新型コロナウイルス感染症の影響で無観客開催が続いていたが、2022年9月16~17日、2年ぶりの有観客大会が岡山県岡山市の下石井公園で開催された。それが「第6回全日本BMXフリースタイル選手権(BMXフリースタイル・パーク)」だ。

  • 岡山県岡山市の下石井公園で行われた「第6回全日本BMXフリースタイル選手権(BMXフリースタイル・パーク)」

会場には4歳以下のキッズライダーから東京2020日本代表の中村輪夢選手までが一堂に集い、華麗なトリックで観客を沸かせた。当日は台風の接近もあったが、ライダーとファンの思いに応えるかのように雨は大振りになることなく、中断を挟みつつも全スケジュールを終えた。

  • 果敢な挑戦で大人顔負けのトリックを決めるキッズライダー

  • 本大会で注目を集めた男子エリートならではの迫力のトリック

  • 中村輪夢選手が登場すると会場内からひときわ高い声援が

  • ライダーとファンがひとつになる熱い会場の雰囲気も醍醐味の一つ

そんな「第6回全日本BMXフリースタイル選手権(BMXフリースタイル・パーク)」をICTで支え、会場に足を運ぶことができないファンにも現地の熱気を伝えたのが、NTT西日本 岡山支店だ。

同社は、昨年からJFBF、NTTスマートコネクトとともにICTを活用した新たなスポーツ価値の創出に取り組んでいる。本大会では双方向ライブ配信プラットフォームを用いて、選手とファン、ファン同士のコミュニケーションを通じたスポーツ観戦に挑戦しているという。

  • 双方向ライブ配信の端末を配布するNTT西日本のブース

JFBFの理事長を務める出口智嗣氏、NTT西日本 岡山支店の前原慶人氏に、今回の取り組みの経緯と意義について伺ってみたい。

コロナ禍の無観客開催がICT導入のきっかけ

JFBFの理事長であるとともに、BMXフリースタイルの日本代表監督、日本自転車競技連盟 BMX部会 部会長など多数の顔を持ち、さらに自身もBMXライダーという出口氏。ICTを取り入れるきっかけは、2020年の新型コロナウイルス感染症だったと話す。

「このコロナ禍で、多くの大会を無観客開催にせざるを得ませんでした。それどころか、自治体や主催団体などからは『大会自体をやめてほしい』という声も多かったんです。でも、ライダーからはモチベーションを保つ環境を求められますし、JFBFは『すべてはライダーのために』をモットーとしています。僕らが大会を開かないのはおかしいと思ったんですよ」(JFBF 出口氏)。

  • 全日本フリースタイルBMX連盟 理事長 出口智嗣氏

だが、大会を開いたとしても観客を迎え入れられないことに変わりはない。出口氏が映像配信という形で大会の模様を観客に届けようと検討していたとき、広告代理店を通して紹介されたのが、NTT西日本 岡山支店だったという。

「BMXフリースタイルの特色はアクロバティックな演技と、それを見ている観客の皆さんの熱気です。そのパフォーマンスの見せ方や若い方へのリーチなどが、我々のめざしているICTの世界観と非常に近しいなと感じていました。また、JFBFの本拠地は岡山にありますから、地域を盛り上げる活動としてご一緒させていただきたいと思っていたのです」(NTT西日本 前原氏)。

  • NTT西日本 岡山支店 副支店長 ビジネス営業部長 前原慶人 氏

競技を通じて選手やファンの絆を届けたい

こうして2021年の夏ごろより、JFBFとNTT西日本、NTTスマートコネクトによるICTを活用した取り組みが始まった。昨年度の「第5回全日本BMXフリースタイル選手権」では、360度カメラ「REALIVE360」を用いたVRマルチアングル映像を無料でオンデマンド配信。あたかも会場で観戦しているかのような臨場感のある映像が、BMXフリースタイルの新しい楽しみ方を実現した。

「お話をいただいたときの僕にはICTがすごく遠い存在で、BMXとどう関わっていくのかよくわかっていませんでした。NTT西日本さんとの最初のミーティングでも、僕は『なにがICTで、なにがICTじゃないですか? 』と聞いたんです。でも取り組みを進める中で、ICTって実はすごく身近な存在なんだなと感じました」(JFBF 出口氏)。

この双方向ライブ配信プラットフォームを用いた取り組みは観客からの反響も大きく、「昨日ネットで配信を見てすごく面白かったので今日は会場に来た」という方もいたという。もちろん、逆に「音がうるさい」「見えにくい」という声もあったものの、好意的な声が大多数を占めたそうだ。

「ライダーにはやっぱり『カッコいいものはシンプルである』みたいな固定概念があったんですよ。だけどそれは一般の人みんなが受け入れるものではないなと思っています。僕らは固定概念を壊すことでBMXを普及させてきましたが、今度は逆に『僕らが一般の人が望む方向に寄っていかなければ』っていうぐらい、いろいろな声を聞くことができました。これは多分定着すると思いますし、いまはもっともっといろいろなことをやってみたいと思っています」(JFBF 出口氏)。

そして今年度の挑戦は、競技を通じて選手やファンの絆を届けることだ。「第6回全日本BMXフリースタイル選手権(BMXフリースタイル・パーク)」では、双方向ライブ配信プラットフォームを導入した。これによって実現できることは大きく3点ある。

1つ目は、双方向コミュニケーション観戦。観戦者はコメントやスタンプ機能を用いて選手へ声援を送ることができ、その様子を会場のモニターにも表示。直接会場に行けずとも、遠隔地から応援を送り、盛り上げられる。

  • 会場に設置されたモニターにもコメントが表示され、スタンプ機能で声援が送れる

2つ目は、マルチアングルスポーツ観戦。競技のメイン映像だけでなく、選手の入退場口やDJブースといった舞台裏映像、さらには来場者がファン目線で撮影した映像を配信し、多面的な視点で大会を観戦できる。

  • 観客にスマートフォンを貸し出し、観客自身の視点で大会の様子を配信できる

  • 視聴アプリから見た、マルチアングル配信の様子

3つ目は、ファン同士が繋がれるリモート観戦。最大3人までのメンバーでグループトークをしながらリモート観戦を行うことが可能。バーチャル上で仲間とつながりながら大会を楽しむことができる。

「出口さんからは見せ方についてさまざまなアイデアをいただきました。BMXフリースタイルは、ライダーのみなさんも敵・味方ではなく楽しくコミュニケーションを取っていますし、お客さんもそれを楽しく観ています。アーバンスポーツの魅力はそういうところにあるのではないでしょうか。映像でもこの空気感を届けなければならないと考えていますし、遠隔地から観ている人もその輪の中に入り、一体感を感じて欲しいという思いがありました」(NTT西日本 前原氏)。

「ライディングの臨場感を伝える以上の楽しさって、やっぱり周りにいる人たちと何が共有できるかかな、と僕は思っていました。BMXの会場って、トップライダーがその辺を普通に歩いているとか、そういう感じなんですよ。BMXフリースタイルがどんなにメジャーになっても、フレンドリーな空気感は変わらないでしょう。僕は変えるつもりも、変わる必要もないと思っています。ICTを使ってそんな雰囲気を伝えられたら、すごく面白いじゃないですか」(JFBF 出口氏)。

  • 互いに見知ったライダー同士、そしてファンのつながりを感じられた30over

ライダーが楽しめる環境を一生作り続けたい

BMXフリースタイルに新しい観戦スタイルを吹き込んだ、JFBFとNTT西日本 岡山支店の取り組み。ファンからも支持を受けており、さらなる発展も期待できそうだ。

「今後も、出口さんはいろいろなアーバンスポーツの大会を岡山で同時開催するというイベントを企画しているそうです。NTT西日本としてもぜひ協力したいと思っています。各会場をICTでつなぎ合わせ、それぞれのファンがお互いのスポーツを観て歩き、反応を広げ合う、そういう取り組みを第3弾としてやってみたいですね。ICTを使って、いままでにないコミュニケーションを実現することが我々のめざす世界観ですので、BMXとの親和性は非常に高いと思います」(NTT西日本 前原氏)。

出口氏は最後に、BMXを愛するライダーとファンに向けて、次のようにメッセージを送る。

「僕が理事長でいる限り、ライダーが楽しめる環境を一生作り続けたいと思います。幸い、いま僕の周りにいるのはNTT西日本さんを始めとしてその道のプロばかりで、やりたいことを形にしてくれます。僕が最初にJFBFを作ったときは協力者がほぼいませんでした。でもいまは僕がいるので、若い子たちの声を拾って、やりたいことを形にしてあげたい、ライダーやファンのみんなの支えになってあげたいなと思っています」(JFBF 出口氏)。