NTT印刷は今年4月、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の「幼児語彙発達データベース」をもとに製作した絵本サービス「パーソナルちいくえほん」において、3~6歳に向けた「たくさんのきもち」の発売を開始した。子どもの感情表現を育むという同書について、同研究所に話を伺った。

  • 左から、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 協創情報研究部 インタラクション対話研究グループ 研究主任 博士 渡邊直美氏、NTT印刷 データビジネス部 サービス開発担当 担当課長 細川勉氏

子ども自身が主人公になれる「パーソナルちいくえほん」

「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築に向け、情報科学と人間科学の両面から研究を続けている、NTTコミュニケーション科学基礎研究所。その研究をわかりやすく形にしたものの一つに、NTT印刷が提供する「パーソナルちいくえほん」がある。

これは、世界に一つだけの“その子が主人公になる絵本”を作るサービスだ。同研究所が持つ「幼児語彙発達データベース」をもとに、早期に理解できる語と発話できる語を厳選してオリジナルの絵本を仕上げることができる。

これまで、0~1歳向けのファーストブックシリーズ「おいで」「どうぞ」「あっ!」、1~2歳向けの「すきなもの」、2~4歳向けの「ひらがななまええほん」「カタカナなまええほん」がリリースされており、購入した家庭からも好評を得ている。また、自治体が子育て支援の一環として配布する例も増え、多くの子どもたちの発育を助けている。

このたび、3~6歳ごろを対象とした「たくさんのきもち」が発売された。年中~年長の年齢もカバーすることで、幼児期の全年齢に対応した同書は、子どもを持つ親にとってありがたい存在だろう。

「たくさんのきもち」リリースの背景と子どもに与える影響について、同書を監修したNTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊直美氏に伺っていこう。

  • 3~6歳の子どもをターゲットにした「たくさんのきもち」

文字が一切ない前半と気持ちを表す言葉が記された後半

NTTコミュニケーション科学基礎研究所で、子どものコミュニケーション力、感情能力の発達について研究を行っている渡邊氏。具体的には、子どもがどれくらいの時期に、どのようにして自分の気持ちや人の気持ちを理解できるようになるのかを調べているそうだ。

「私の研究のテーマの一つが“測る”ことです。子どもが自分や相手の気持ちをどれくらいわかっているかということは、大人が外から見てもなかなかわかりません。お子さんの頭の中で起こっていることを見える化するために、お話や指人形劇の感想を聞くことをベースにしたアセスメント作りを行っています」(渡邊氏)

「たくさんのきもち」は、題名通り“気持ち”がテーマ。大きく2部構成になっており、渡邊氏は子どもたちが持っているモヤモヤした体験を言葉にしやすくする前半の話作りや、後半の「きもちの図鑑」を監修しているという。

「前半は文字がなく、親御さんとお子さんがお話を作りながら読み進める形になっています。お話を決めないことによって、その時々でお子さんが思うこと、親御さんが伝えたいことを絵本に盛り込んでいける点がよいと思っています。」(渡邊氏)

「たくさんのきもち」の前半を開いてみると、確かに文字が一切ない。その代わりに、感情を想像できるような表情、情景を思い浮かべるためのさまざまなアイテムがページ一面に印刷されている。

  • 文字がなく、イラストだけで構成されている前半部分を見せる渡邊氏

「後半は『きもちの図鑑』です。『こういう場面は嬉しいね』『こんなことが起こると悲しいね』といった具合に絵を見せながら、50個の感情を表す言葉を学んでいける作りになってます。お話としては前半よりも難しいので、3歳で購入し、年齢を重ねながら徐々に後半も読めるようになることが理想ですね」(渡邊氏)

「きもちの図鑑」は“にこにこなことば”、“えんえんなことば”といった具合に分類されており、例えば“わくわく”という気持ちは「はこをあけるのって、わくわくするね!」という形で解説されている。

「半分は文字のない絵本ということで、小さなお子さんにはハードルが高いと思うのですが、主人公にお子さん自身の名前が使われているので、『何に怒ってるのかな?』『僕・私はどこに行っちゃうのかな?』といった感じでお話に引き込まれやすいと思います」(渡邊氏)

  • 注文時に子どもの名前を入力し、子ども自身が主人公になるという作りはシリーズを通した特徴だ