2022年11月2日、社会人向けのエンジニア・起業家養成スクール「G’s ACADEMY(ジーズアカデミー)」が、現役エンジニアを対象に実施した意識調査をもとに「エンジニア・インサイト白書」を公開した。

本白書は、現役エンジニアの「幸福度」や「やりがい」といった定性的な側面に焦点を当てている。その結果、「幸福度の高いエンジニア」と「幸福度の低いエンジニア」とでは、マインドの面で大きな違いがあることが明らかになった。

■高い年収や自由な働き方が注目されるエンジニア

世界中でデジタル化が加速する中、日本国内でエンジニア不足が叫ばれるようになってから10年以上が経った。近年では、学生のみならず社会人のあいだでもエンジニアとしてのキャリアが注目されており、未経験からプログラミングスクールで学んだのちにエンジニアにキャリアチェンジする人も珍しくない。

エンジニアとしてのキャリアが注目されるようになった背景に、高い年収や自由な働き方などがあるが、それらはエンジニアという職業の魅力の一端にすぎない。

G’s ACADEMYは「セカイを変えるGEEKを養成する」をテーマに、2015年4月にデジタルハリウッドが設立したスクール。

世間一般でイメージされるエンジニア像は必ずしも実態を正確に反映していないという問題意識から、現役エンジニアを対象とした意識調査を実施し、「エンジニア・インサイト白書」にまとめた。

本白書は、年収や労働時間といった定量的な事柄ではなく「幸福度」や「やりがい」といった定性的な要素にフォーカスしている点が特徴だ。

「エンジニア・インサイト白書」の一般公開に先立って、G’s ACADEMYは11月1日、メディア向けの発表会を開催。白書の発表に続いて、G’s ACADEMYで指導するメンターを交えてのトークセッションが行われた。

■幸せなエンジニアは46%!?

現役エンジニアに「エンジニアとしてどれくらい幸せを感じているか」を100点満点で尋ねたところ、「0~60点」が54%、「61~80点」が31%、「81~100点」が15%という結果になった。

平均幸福度は56.05ポイント。60点以上を「幸福」とした場合、エンジニアとして幸福を感じているのは全体の46%ということになる。

今回の調査対象は、社会人になってからプログラミングスクールを卒業してエンジニアになった人100名だ。つまり、自己投資をして「エンジニアになる」という目標を叶えた人たちなのだが、そのわりに幸福度はふるわない結果となっている。

■スクールで学び、仕事に役立っていること1位は「プログラミングスキル」

次に、「プログラミングスクールで学んだ後、今も仕事に役立っていること」を聞いた。その結果、多い順に「プログラミングの効率的なスキル習得(34%)」「教材や学習システム(26%)」「プロダクトやサービスを作るのに必要な仲間や支援者(投資家・メンター)との出会い(26%)」が挙がった。

■もっと身に付けておくべきだったことトップは「仲間や支援者」

「エンジニアになってみて思う、プログラミングスクールでもっと身に付けておくべきだったことは?」という質問への回答内容を見ると、意外な現実が見えてくる。

「プログラミングスクールでもっと身に付けておくべきだったこと」のトップは「プロダクトやサービスを作るのに必要な仲間や支援者(投資家・メンター)との出会い(41%)」で、「プロダクトやサービスを作るのに必要な知識(36%)」「プログラミングの効率的な スキル習得(31%)」と続いている。

一方、入学前に求めていたことランキングでは、「プログラミングの効率的なスキル習得(32%)」、が1位、「プロダクトやサービスを作るのに必要な知識(27%)」「プロダクトやサービスを作るのに必要な仲間や支援者(投資家・メンター)との出会い(27%)」が同率2位だった。ところが「プログラミングスクールのときにもっと身に付けておくべきだったこと」では、「プロダクトやサービスを作るのに必要な仲間や支援者(投資家・メンター)との出会い」が逆転しているのだ。

このことから、プログラミングスクール入学前はスキルや知識の習得を重視しているものの、いざエンジニアになると仲間や支援者の重要性を実感する人が多いことがうかがえる。

■やりがい上位は「クリエイティブな仕事」「自分が思い描いたプロダクトやサービス作りに携わる」

本白書では、「幸せなエンジニア」像に迫るため、「幸福度の低いエンジニア」と「幸福度の高いエンジニア」の内面の比較も行っている。

「エンジニアとしてやりがいや楽しさを感じるのはどんなときか」を聞いたところ、「幸福度の低いエンジニア(0~61)」では以下のようになった。

  • クリエイティブな仕事ができているとき(34%)
  • 社会課題を解決するプロダクトやサービス作りに携わるとき(27%)
  • さまざまな業界に関わることができる(25%)
  • 自分の思い描いたプロダクトやサービスを作っているとき(20%)
  • 日々自分の成長を実感できる(20%)

一方、「幸福度の高いエンジニア(81~100)」では次のようになっている。

  • 自分の思い描いたプロダクトやサービスを作っているとき(68%)
  • クリエイティブな仕事ができているとき(65%)
  • 社会課題を解決するプロダクトやサービス作りに携わるとき(61%)
  • 日々自分の成長を実感できる(58%)
  • フラットでGive&Giveなエンジニアカルチャーを感じたとき(47%)

全体的に「幸福度の高いエンジニア」の回答割合の高さが目立っているが、両者のあいだで特にギャップがあるのが「自分の思い描いたプロダクトやサービスを作っているとき」という項目だ。「幸福度の低いエンジニア」の回答割合が20%であるのに対して、「幸福度の高いエンジニア」では68%を占め、やりがい・楽しさを感じる瞬間のトップに君臨している。

幸福度が高いエンジニアは、自分の創りたいプロダクトやサービスを具体的に思い描いており、それを実現することを重視しているといえるだろう。

  • 上級執行役員 SVP of Development 藤川真一(えふしん)氏

トークセッションに登壇したBASE株式会社 上級執行役員 SVP of Development 藤川真一(えふしん)氏は次のように語る。

「幸福度の低いエンジニアは、自分の思い描いたプロダクト・サービスを創る技術や応用力が足りない可能性もあるが、そもそも自分の創りたいものがわからない可能性が高いのでは。エンジニアに限らないが、人に言われたことをやるのに慣れている人が多い。自分の創りたいものがないまま、誰かの思いを実現するために仕事をしていて、自分事になりきれていないからこのような結果になっているのではないか」

■幸福度の高いエンジニアが重視するのは「自分が作りたいもの、やりたいことを実現」

「自分軸」の重要性は、「エンジニアとして最も大事にしていること」の回答結果にも表れている。「エンジニアとして最も大事にしていること」として「幸福度の低いエンジニア(0~61)」は以下を挙げている。

  • クリエイティビティを持つこと(16%)
  • いい条件の会社で働けること(14%)
  • 仲間をつくれること(13%)
  • 組織に所属しないで働けること(11%)
  • 場所を選ばすに働けること(11%)
  • 自分が作りたいもの、やりたいことを実現すること(11%)

一方、「幸福度の高いエンジニア(81~100)」は次のように回答している。

  • 自分が作りたいもの、やりたいことを実現すること(34%)
  • クリエイティビティを持つこと(17%)
  • 仲間をつくれること(9%)
  • いい条件の会社で働けること(6%)
  • 組織に所属しないで働けること(6%)
  • 起業家マインドを持つ(6%)

「幸福度の低いエンジニア」と「幸福度の高いエンジニア」のあいだで最もギャップがあるのが「自分が作りたいもの、やりたいことを実現すること」で、その差は23ポイントにのぼっている。

やはりここでも、「幸せなエンジニア」にとって「自分が作りたいものややりたいことがあり、それを実現しようとすること」が重要であることが浮き彫りになっている。

■違いは「幸福度を自分で捻出できているか」

  • 株式会社ヌーラボ 代表取締役 橋本正徳氏(画面中央、オンライン登壇)

トークセッションにおいて、株式会社ヌーラボ 代表取締役 橋本正徳氏は次のように語った。

「ここでいう幸福度はジョブエンゲージメントというか、仕事への愛着が大事な要素になっている。それがあると『自分』を突き詰めることにもつながるし、『あの人は年収600万円で自分は550万円か…』みたいな他者との比較をしなくなる。

幸福度を人からもらっているのか、自分で捻出できているのかが大事。『いい条件で働けること』を上位に挙げている人は、幸福度を人からもらうことに一生懸命になっている人。求めても手に入らないから、ずっと不幸な感じがしているのではないか。

幸福度の高いエンジニアと幸福度の低いエンジニアでは、『いい条件で働けること』の『いい条件』の中身も違うように思う」

同様に、藤川真一氏もエンジニアの主体性の大切さを語る。

「当社が人を採用するときは、入社後にその方の給料を上げていけるか(活躍できるか)を重視している。我々のチームで活躍できるかを判断する要素が、まさしく幸福度の高いエンジニアが1位として挙げていること。『BASEというサービスの中でこういうことをやりたい』という想いを持っている人を求めている。ましてやリモートワークの時代、自分から発信することの重要性が増している」

エンジニアの高い年収や自由な働き方がフォーカスされると、「プログラミングを学んでエンジニアになる」ことがゴールであるかのように錯覚してしまいかねない。ところが、「エンジニア・インサイト白書」やトークセッションの内容を踏まえると、「幸せなエンジニア」になるためには、知識・スキルと同等かそれ以上に、職業人としてのマインドやスタンスが重要な要素であることがわかる。

実際に、プログラミングスキル以外にエンジニアに必要なスキル・知識・マインドとして、「幸福度の高いエンジニア(81~100)」は「サービスを世の中に広げていく視点」「ビジネスモデルの構築力」「発想力、情熱」「試行錯誤を繰り返す姿勢」などを挙げている。

「幸せなエンジニア」は、「こんなプロダクト・サービスを世に送り出したい」というビジョンを持ち、ビジネスパーソンとして進化しようとする人が多いといえるのではないだろうか。