将来、ITの分野で活躍したいと考える若者は多い。中でも専門学校へ行き、資格取得に励む学生にとっては在学中にどれだけ、実践的・実務的な経験を積み重ねることができるかは重要なポイントになる。

今回、船橋情報ビジネス専門学校で開催された「DX体験特別講座」は発案者であるNTT東日本千葉西支店が将来有望な若手人材に向けて、いち早く業務効率化を体験してもらおうと企画した特別授業だ。どのような講座だったのか、学生たちの反応はもちろん、学校、企業双方の意見も伺ってきたのでまとめて紹介したいと思う。

即戦力のある人材育成へ

2022年8月、NTT東日本と船橋情報ビジネス専門学校(以降、FJB)が共同で開催した「DX体験特別講座『DX Camp for FJB』」は、設備保守の最前線で活躍するNTT東日本の社員が直接教壇に立つということもあり、想定よりも多い人数が集まる講座となった。

大きなテーマとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げ、今回はその中でもRPAによる業務効率化を実践形式で学ぶ3時間の講座となる。

  • 受講希望者が約70名と盛況だったため、二教室を使用しての開催となった

まずはDXについての概要説明から入り、RPA基礎編を学んでいく学生たち。授業でプログラミングを学ぶ機会も多く、リテラシーは高い環境ではあるものの、RPAを実践形式で触るのは初めてという学生もいる。しかし、今回はGUIによる直感的な操作が可能な「WinActor」を使っての講座ということと併せ、FJBの卒業生を含むNTT東日本の講師陣の指導により、基本動作をどんどん吸収していく様子が見て取れる。

いったんの休憩をはさみ、後半戦ではインターネットで検索した画像をエクセルに貼り付けていくという、具体的な業務を自動化していく。用意された90分を活かし、自分なりにプロセスをくみ上げていく学生たち。

さくさくとGUIを使ってプロセスの自動化を進めたり、他方、真剣に操作について講師陣に質問したりする学生もいる。それぞれが与えられた課題と残り時間を見ながら個々の最適解を探していく。

基本的に自動で目的の画像を検索し、画像がエクセルに貼り付けられれば課題はクリアとなる。今回は何名かの学生が成果発表を行い、画像採取時のマウス位置やキーボードショートカットの指定方法などの工夫や、セルの選択方法の工夫などが紹介され、うまく動作するRPAの結果を見て一同が拍手を送るなど、和やかな雰囲気の中、講座は終了となった。

  • 成績発表では、プロも驚くプロセスを考えていたケースもあった

DX特別講座終了後の学生たちの声

「NTT東日本という大企業が主宰する特別授業と聞いて興味を持ちました。DXというと難しいイメージを持っていましたが、WinActorは直感的に動かせるRPAだったので進めやすかったです。社会人になったときにも役立つ経験ができたので自分に自信がつきました」(森川颯太さん)

「今回のDX特別講座はDXやRPAについて教えてくれるだけでなく、実際に自分たちがプログラムを作って動かすところまで体験できたのがうれしかったです。GUI中心のRPAだったので初めての取り組みでしたが、チャレンジしやすかったです。次回もあればぜひ参加したいですね」(三浦禅翔さん)

  • 左から森川颯太さん(ITエンジニア科4年制 3年)、三浦禅翔さん(ITエンジニア科4年制 3年)

企画を実現させたメンバーに聞く! 「DX特別講座」を成功させた先にあるものとは?

ここからは大盛況だったDX特別講座を仕掛けたNTT東日本と、開催を実現へと導いた船橋情報ビジネス専門学校の関係各位に話を伺おう。

  • 左から、学校法人三橋学園 船橋情報ビジネス専門学校 理事長・校長 鳥居高之さん、NTT東日本 千葉西支店 設備部 エリアコーディネート担当 担当課長 小松毅史さん、千葉西支店 設備部 京葉サービスセンタ 柿田敦史さん、千葉西支店 設備部 京葉サービスセンタ 石橋和也さん

――そもそも今回のDX特別講座はどのような経緯で実施することになったのですか?

小松さん 「私たちNTT東日本は地域貢献のための活動を進めています。さまざまな取り組みを実施していますが、船橋という土地ではゆかりの深い船橋情報ビジネス専門学校(FJB)さんと話をしているうちに、FJBの学生たちのためにやれることはないかという話が出てきました。彼らも数年すれば社会人となりITを活用していくことになります。弊社でも若い社員が業務効率化のための仕組みづくりを毎日進めているので、そのノウハウを提供する形で彼らに実際の社会経験を積んでもらうのが良いのではないかということになったのです」

鳥居さん 「申し出を伺った私としてもとてもありがたいことだと感じました。専門学校では、実績のある分野の定番を教える傾向が強く、最先端のものを教えることが難しい面もあります。ビジネス専門学校では資格取得に重きを置いてしまうことになりがちですが、社会に求められる人材育成をしていくという意味で、早期に実践的な課題解決をカリキュラムを通じて体験することはとても大切です。企業の方々との連携は私たちとしても常に意識していることなので、ぜひともとお願いすることに決めました」

――DXというテーマでしたが、RPAを最初に選んだ理由はあったのですか?

柿田さん 「私が所属しているプロジェクトチームでは、業務改善にRPAを使っています。便利なツールですが、実際に企業内で活用してもらう際にできる人とできない人はやはり出てしまいます。その方たちに教えるための資料やノウハウをすでに私が持っていたこともあって扱いやすい素材でもあったため、今回の課題としてご提案させていただきました」

石橋さん 「FJBで学んでいるプログラミングとは少し違ってGUIでプロセスを決めていけますから、リテラシーがそこまで到達していなくても扱えます。今回は1年生から3年生までいるということでしたから、どんなレベルの人にでも使いやすいツールを選ぶ必要があったため、最適な素材と考えました」

  • 地域貢献のため活動を進めるNTT東日本のメンバー

――お二人は当日の講師でもあったわけですが、実際に講座をやってみていかがでしたか?

柿田さん 「3時間の長丁場でしたが、みなさん飽きずにやってくれて、質問も多かったので感心しました。成果発表してくれた学生さんなどは私たちが使ったことがなかった機能を見つけたりしていたので、抜かれた! と思いましたね(笑)」

石橋さん 「学生の皆さんは『NTT東日本の社員』という目で見ますからプレッシャーもある中、自身がFJBのOBでもあり、本校の学生たちの役に立ちたいと思ってがんばりました。私の元同僚でもあり、現在はFJBで講師をしている者から、セミナー後にたまたま会った際に『学生たちの評判がすごく良かった』という話を聞き、なんだかうれしかったですね(笑)」

――今回の講座を振り返ってみてどのような手応えがありましたか?

小松さん 「初めての試みでしたが、学生たちの記憶に残るような講座になったことは素直にうれしかったです。なるべく彼らが楽しく学べるようにと、ちょっとした笑いのニュアンスも含めた発表の仕方を考え、受講後のアンケートに『楽しかった』『笑顔で学べた』など、とりあえずは狙った通りの講座が開けたようで安心しましたね」

鳥居さん 「今、あらゆる企業がDXを推進していますから、社会に出たときにRPA担当になる学生もいるでしょう。実際に企業でどのように取り組んでいるかリアルに体験できたのはとても良い経験になったと思います。RPAで仕事を効率化して、その分人間はより付加価値の高い業務をする。このイメージを持って実社会に入っていけるので、成長も早いはずだと期待しています」

  • 学生たちが社会へ出た時のことを常に考えている鳥居校長

――今後も同様の企画はあるのでしょうか?

小松さん 「今回、FJBからご縁をいただいたので、これを契機に今後もDX講座を展開していきたいですね。ここでの成功体験を活かせれば、高校生、大学生へとまた違った形での技術提供や地域貢献ができると思うので、横への展開も考えていきたいです」

鳥居さん 「学校では基本的な技術を学ぶことができますが、そこに現場のリアリティが合わさればとても強い人材育成ができると確信しています。そのリアリティは、私たちにとってのミッシングピースなので、そこを企業の方々に埋めてもらえるのはうれしいです。これからも機会があればぜひ開催していただきたいですね」

――ありがとうございました。

予定応募人数をはるかに上回る大盛況のうちに終了したDX特別講座だったが、インタビューをしてみると次回開催も近いと感じた。実際に、講座の内容を聞き参加したかったという学生も多数いたという。彼らが今回のような講座を通じ、優れた人材として社会貢献をする日も近いと感じた。NTT東日本と船橋情報ビジネス専門学校の今後に注目していきたい。