フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、23日・30日の2週にわたって放送された『あの日 僕を捨てた父は ~孤独な芸人の悲しき人生~』。ゲーム芸人・フジタ(本名=藤田真也)と、かつて自分を捨てた認知症の父親の姿を追った作品だ。

父親の内縁の妻の誤解から一時は関係が悪化したものの、最後にはフジタ、父親、内縁の妻の3人で軽井沢旅行に出かけるというまさかの結末を迎えた今回のドキュメンタリー。密着した朝川昭史ディレクター(NEXTEP)に、撮影を振り返ってもらった――。

  • 『ザ・ノンフィクション』の密着を受けたゲーム芸人フジタ (C)フジテレビ

    『ザ・ノンフィクション』の密着を受けたゲーム芸人フジタ (C)フジテレビ

■子どもに渡すのも、女に渡すのも“3万円”

幼い頃から没頭してきたゲームの腕でファンを魅了するフジタは、小学校入学直前に母親がクモ膜下出血でこの世を去り、父親と2人で暮らすことになった。しかしその父が、内縁の妻となる同級生の母と恋仲になって家を出てしまい、小学2年生で独り暮らしを始めることに。週に1回、父親がタンスに入れておく“3万円”でゲームを買い、父を憎む苦しさと寂しさを紛らわしてきた。

一方、父親が毎月末に内縁の妻へ渡すのも、同じ“3万円”。朝川Dはこのお金が、父親にとっての1つの愛情の形なのだと感じたという。

「フジタさん自身は子どもの頃に分からなかったと思いますが、最後にお父さんがフジタさんとの写真をずっと財布に入れていた姿があったように、実はずっと彼のことを愛していた。そして内縁の妻とも、お金を渡すことによって夫婦のような関係になっていたから、認知症になっても月末の3万円のことだけは本当に忘れないんです。たから、“3万円”というのは、他の人からは理解できないですが、愛情表現の1つなんだと思います」

  • ゲームに囲まれて過ごすフジタ (C)フジテレビ

■家族の間で誤解が解けると信じた

後編では、預けたカード類をすべて返してほしいと求める父親と、それを拒否するフジタの平行線の話が続き、ついにフジタが激昂して「おめえの借金が俺にくるんだろうがよーー!!!」と壁を殴る衝撃的な場面が。さらにその数日後、見守りカメラの映像で、父親が内縁の妻に「(息子は)俺の金をアテにしてるからね。働けと言わなきゃいけない」と話してる姿を目撃してしまった。このときのフジタからは、衝撃の大きさが伝わってきたという。

「フジタさんの気持ちとしては、やっぱりお父さんが内縁の妻より自分のほうを向いてほしいという気持ちがあって、“結局俺のことなんか信用してなかったんだ”というショックがあったと思います。でも、そこからお父さんを自分の家に連れてきて、150万円で買ったゲームを見せたときは、『ここまでやるのか』とちょっと驚きました」

しかし、父親の言葉を真に受け、フジタのことを誤解して「親不孝だと思う」「お金がないなら若いんだから働いてちょうだいって」と朝川Dに話す内縁の妻。真実を知る朝川Dは、そこで誤解を解くこともできたはずだが、それをしなかったのはなぜか。

「家族の問題は、家族の力でないと本当の解決には至らないと思ったんです。お互いに憎み合ってるけど、それぞれを見ると内縁の妻もいい人ですし、うまく誤解が解けて仲良くなってくれるんじゃないかと信じて撮影していました。だから、フジタさんは『もういいですよ』と諦めてたんですけど、僕から『話し合いの場を持ちましょうよ』と言ったりしていましたね」

  • フジタ(右)と父親 (C)フジテレビ

■家族愛に憧れ…婚活をしていたフジタ

最後には、フジタの提案で父親、内縁の妻と3人で軽井沢を旅行し、幼い自分を捨ててなぜ内縁の妻のところに行ってしまったのかを聞くこともできたフジタは今回、『ザ・ノンフィクション』の密着を受けて良かったと話しているという。

「フジタさんは、内縁の妻ともう一生口を利くことはないと言っていたので、まさか一緒に旅行に行くとは思わなかったと思います。この機会がなければ、お父さんの本当の気持ちも分からなかったし、聞けなかったとも言っていました」

  • カラオケでデュエットするフジタ(左)と父親 (C)フジテレビ

幼少期から壊れていた関係が修復し、新たな形の“家族”になったように見えたフジタたち。朝川Dは「『僕は人を信用しないんです』と言っていたフジタさんが、内縁の妻を信用して、お父さんの年金をすべて任せるという最後になりましたけど、番組になるかどうかは分かりませんが、今後も追っていきたいですね」と語る。

今回の密着では、実はフジタの婚活も追っていたそう。「家族と子どもが欲しいと言っていて、それは彼自身が家族の愛を知らずに育ってきたから、やっぱり憧れがあるんだと思います。45歳で『相手は20代がいい』とか言ってるから、かなり難航してますけど(笑)」と、こちらの動向も気になるところだ。

  • 朝川昭史ディレクター