リモートワークと出社のハイブリッド型勤務が日常化されている今、上司と部下の関わり方は変わりつつある。その中で若手社員は「優秀な上司」と「ダメな上司」をどこで線引きしているのか。
リンクアンドモチベーション社で大手企業向けの人材育成の事業統括をしている宮澤優里さんに、そういった傾向や人事の間違った施策事例、ダメ上司にあたった場合の対策などについて話を伺った。
コロナ禍前から、上司と部下の間には火種があった
新型コロナウイルス感染症の拡大により、徐々にリモートワークと出社のハイブリッド型のワークスタイルが日常化してきた。
「多くの企業で、管理職の方から『部下との関係がギクシャクしてきた』という話をよく聞きます。これは、リモートワーク自体が問題なのではなく、そもそも部下と十分に対話ができていないばかりに、リモートワークによって以前からの上司と部下の問題が顕在化したに過ぎません」と、宮澤さんは指摘する。
それに加えて、部下の価値観がより多様化しているという背景があると言う。
「入社2~3年目社員は転職が身近になっている一方、大手企業などで管理職を務めている40~50代は終身雇用で過ごしてきた世代です。価値観に大きなギャップがあることが、よりマネジメントを難しくしています」
上司と部下の価値観の違いが不満のもとに
若手が抱えている上司への不満とは、具体的にどういうものなのか。宮澤さんは、次のように語る。
「1つは、『やりたい仕事にアサインしてもらえない』ことへの不満です。部下からすると、誰でもできるような作業ばかりをふられ、こんなことをやるために入社したのではないと考えてしまうのだと思います。この背景には、採用時点からジョブ型雇用の新卒社員も増えていますが、新卒一括採用だった上司の、『やるべきこともやっていないのに、やりたいことだけを主張するな』という考え方の違いなどがあるようです。
もう1つは、『なかなか認めてもらえない』ことへの不満です。特にリモートワークが中心となり、上司は部下がどんな業務をしているのかが見えにくくなっています。そのため、オフィスで一緒に仕事をしていた時よりも、上司によるこまめなフォローや承認が少なくなり、部下の感情報酬が満たされなくなってきているように思います。それにより、自分のいる環境自体が悪いんだという、認知的不協和の状態に陥っています」
人事部からの「1on1」などの推進がメンバーの不満を高めていた
続いて、データから「信頼されている上司と、そうではない上司」の特徴について探っていく。
この図表(ランキング)は、同社のモチベーションエンジニアリング研究所が行ったマネジメントサーベイにより、管理職1万6,438名に対して部下からの満足度調査を行い、部下から評価されるマネジャーを4つの偏差値スコアに分類したものである。
ランキングに明記されているのは、各偏差値カテゴリーの上位5項目を抽出した、部下から評価されたマネジャーの特徴である。
4つのランクにあるマネジャー像を簡単に紹介すると、以下のような特徴がある。
上位5%に位置するマネジャー
組織のビジョンだけではなく、部下一人ひとりの役割や意義を明確にして、やりがいを創出している。いわゆる、部下の成果とキャリアの両方をサポートできるタイプ。
上位5~20%に位置するマネジャー
自組織の使命といった抽象的な目的や目標から、具体的な役割や戦略、行動指針などを示し、部下の成長を支援できるタイプ。
上位20~50%に位置するマネジャー
部下への支援行動や率先垂範を行い、部下と一緒に汗をかき、話を聞き、いついかなる時も手を差しのべるタイプ。
下位50%以下に位置するマネジャー
厳しい態度で目標だけを示し、権限を委譲して「自分たちで考えてやれ」という放任タイプ。部下との信頼関係が十分に築けていない。
部下に信頼されていない(好かれていない)上司は、4つのうち一番下にあたる「下位50%以下に位置するマネジャー」に属する人たちだが、実は、全体のマネジャー平均値がこのランクと「上位20~50%に位置するマネジャー」にあたる。
人事部が、マネジャー育成のためによかれと思って取り組んでいることが、上司と部下との関係をさらに悪化させる事態になっていることがあると宮澤さんは語る。
「人事部が部下の成長をサポートできないマネジャーに『1on1をやりなさい』『キャリア支援の面談をしなさい』と働きかけ、面談の進め方やサポートツールなどを作ってフォローしています。それ自体は非常に大事なことなのですが、部下からすれば『普段から全然私たちのことを見ていないのに、急にこんな面談を始められても……』となってしまいます。つまり、キャリア面談をすればするほどメンバーの不満は溜まっていくわけです」
マネジャーも目の前の業務に追われている中新たな業務が増えるので、面談自体に身が入らず、スクリプトやマニュアルを棒読みするだけになるケースも少なくないという。これが、人事部がよかれと思ってやっていることが、上司が部下から嫌われてしまう結果になっている要因である。
「管理職育成という目線でいえば、いきなり上位のスーパーマネジャーにはなれないので、現状に合わせて一歩ずつ信頼を高めて、マネジメントをレベルアップしていくことが必要です」と、宮澤さんは提案する。
部下は上司に対して「共感的な態度」よりも「問題解決」を求めている
さらに、部下からの評価スコアと上司一人ひとりのポータブルスキル(スキルと志向性)項目を紐づけると、部下に信頼される素養(能力)、そうではない素養(能力)が浮き彫りになってきたと語る宮澤さん。
「『上位20~50%に位置するマネジャー』は、『対課題力』と『主張力』『否定力(物事に対して否定的な視線や態度で向き合う力)』『統率力』との相関関係が非常に強いです。つまりは評価の高いマネジャーは、この3つの『父性コミュニケーション』のスコアが高いということ。『対課題力』と『父性のコミュニケーション力(『主張力』『否定力』『統率力』)』が高いマネジャーほど、部下から信頼されやすいということです。
さらにもう1つの特徴として、『上位20~50%』と『下位50%以下』に位置するマネジャーを比較すると、前者にあって後者にないのは『対立時の葛藤解消法』です。もめごとが起こったときに解決してくれる『推進力』と相関関係にあり、逆相関、すなわちスコアが低くなるのは、母性の『受容力』『協調性』。つまり受容や協調のコミュニケーションは部下の葛藤を解消しない。むしろ逆効果になります」
これにより、部下は上司に「自分に寄り添ってくれる(共感的な態度)ではなく、問題解決を求めている」という意外な結果が読み取れた。
価値観の異なる人たちとの協働から逃げないこと
若手が上司と向き合っていくため、今後意識して取り組むべきことは何か。「それは、世代の異なる人との『協働』だ」と、宮澤さんは進言する。
「『会社を辞める』という選択肢もあるとは思いますが、どこの組織に所属しても、いろんな世代の人がいるため、常に協働していかなければなりません。つまり、今の会社を辞めても、また同じ悩みにぶつかる可能性が高いということです。『人を動かし、人を巻き込む』のは、マネジャーになっても求められること。特にこの時代、世代の異なる人たちをも動かせなければ、自分のやりたいことは実現できません。そのトレーニングだと思って、今チャレンジしてほしい。そして、自分を変えていければ、自分自身の成長にもつながります」
ぶれない軸も大事だが、自分の意識や行動を柔軟に変えていけることも、今後必要不可欠になってくるようだ。
「あくまで一例ですが、YouTuberのヒカル(Hikaru)さん。『好きなことをやって生きている』と言われている彼のような人気のYouTuberも、例えば宮迫さんの様な世代が違う人とも積極的にコラボを仕掛けて、一時期は非常に盛り上がりましたよね。違う世代の人とも積極的に組んでいかないと、大きなプロジェクトは成し遂げられません。協働から逃げないことは非常に重要だと思います」
自分から上司との関係を遮断するのではなく、 まずは自分から胸襟を開いてみること。自分自身の変化が相手(上司)を変えるきっかけになるかもしれない。まずは臆せずチャレンジしてみることが、新たな道を切り開く最初の一歩になりそうだ。
取材協力:宮澤優里(みやざわ・ゆり)
株式会社リンクアンドモチベーション
MMEカンパニー カンパニー長
2008年、株式会社リンクアンドモチベーション入社後、一貫して大手企業向けのビジョン浸透・風土変革・育成に携わる。コンサルティング部隊のマネジャーを経て、現在東日本大手企業向けの風土変革・人材育成領域の責任者を務める。