マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、円安の状況について解説していただきます。


米ドル/円は150円を目前に足踏みしていましたが、10月20日のニューヨーク市場で上抜けしてきました。ただし、政府・日銀による為替介入の可能性はあり、一時的にせよ押し戻される可能性はありそうです。

次の節目は160円!?

長期チャート上では、98年8月の高値147.710円を明確に上抜けしたことで、次の節目は90年4月17日につけた160.360円とみることができます。米ドル/円は昨年末から今年10月20日までに35円超上昇してきました。したがって、160円台までは「たかが10円」です。しかし、150円台を固めて160円台に乗せるにはかなりのエネルギーが必要かもしれません。「されど10円」です。

  • 米ドル/円(単位: 円、月足、1985年1月-2022年10月18日)


以下では、米ドル/円と米長期金利の関係を中心に、どういった条件下で160円が達成可能かを考察してみました。

今年に入って米ドル/円と米長期金利(10年物国債利回り)は一段と正の相関を強めた印象があります。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が3月に利上げを開始し、そのペースを速めているため、そのことが米長期金利を押し上げてきたからです。一方で、日本銀行は大規模の金融緩和を継続し、0.25%を上限として日本の長期金利を抑え込んでいます。そのため日米の長期金利差が拡大しており、米ドル/円の上昇要因となっているのです。局面に応じて米ドル/円と米長期金利の関係式は微妙に変化しますが、ここでは今年初めから直近10月18日までの関係式を求めました。結果は以下の通りです。

  • 米ドル/円と米長期金利(日足、2022年1月3日-10月18日)

この関係が今後も続くとすれば、米長期金利4.00%と整合的な米ドル/円は149.511円。現在の水準とほぼ合致します。そして、上記の関係式から逆算すれば、米ドル/円が160円となるのは長期金利が4.66%まで上昇した時です。

  • 米長期金利を用いた米ドル/円の推計式

米イールドカーブの逆転は続く?

さて、今年7月以降、米国の短期金利(2年物国債利回り)が長期金利を上回る、いわゆるイールドカーブ(利回り曲線)の逆転現象(「逆イールド」ともいいます)が発生しています。現在の短期金利は4.61%、長期金利は4.23%(10/20時点)。長短金利差(長期―短期)はマイナス0.38%。この金利差が維持されるならば、長期金利4.66%の時に短期金利は5.04%。短期金利は市場の政策金利予想を強く反映するので、その時に政策金利は5%を超えているイメージでしょうか。

FRBのアグレッシブな利上げ

現在の米国の政策金利は3.00%~3.25%に設定されています。したがって、政策金利5%超となるのは、今年11月と12月に0.75%ずつ、さらに23年に入って少なくとも0.25%~0.50%の利上げが実施される必要があります。

10月20日時点のOIS(翌日物金利スワップ)によれば、市場の政策金利予想は23年5月に5.019%でピークアウトします。政策金利5%超は現実的となりつつあるようです。

米景気の堅調が続く必要あり!?

FRBの利上げ継続に加えて、もう一つ重要な条件があります。それはFRBがアグレッシブな利上げを続けても、景気が顕著に減速したり、リセッション(景気後退)の懸念が強まったりしないということ。景気減速感が強まれば、利上げに対して長期金利は上昇するどころか、低下するかもしれません。今年6月に初めて0.75%の大幅利上げが実施された際に長期金利が低下に転じたのは良い例でしょう(7月の0.75%利上げの直後まで長期金利の低下は続きました)。

総括すると……

FRBが23年に入ってもアグレッシブな利上げを続け、それでも米景気が堅調を維持するのであれば、長期金利が4.6%台を目指す可能性があり、その場合は米ドル/円が150円を大きく超えて160円が視野に入るかもしれません。

もちろん、事態が一直線に進行するわけではないでしょうし、ましてや机上の計算通りに相場が動くはずもないでしょう。それでも、23年に向けて投資方針を考える上で参考になるのではないでしょうか。