第12期加古川青流戦(主催:加古川市、一般財団法人加古川市ウェルネス協会)の決勝三番勝負が10月15(土)・16日(日)の両日、兵庫県加古川市の鶴林寺で行われ、徳田拳士四段が齊藤優希三段を2勝0敗で破って優勝を果たしました。本記事では、徳田四段にとって初の棋戦優勝となったこの決勝三番勝負の対局の模様をお届けします。

加古川青流戦は「棋士のまち加古川」を掲げる加古川市によって2011年に創設された棋戦で、(1)四段の棋士、(2)奨励会三段の成績上位者、(3)女流棋士2名、(4)アマチュア数名によるトーナメント形式で争われます。これまでに開催された10期のうち9期で(1)四段の棋士(五段含む)が優勝していますが、2015年に行われた第5期では稲葉聡アマが優勝したことが話題になりました。

今期決勝を戦う徳田四段は山口県出身の24歳。デビュー1年目の今年、19勝1敗の好成績で勝率ランキング(0.950)と連勝ランキング(16連勝)の2部門で暫定1位につけています(未放映のテレビ対局を除く)。本棋戦準決勝では冨田誠也四段を破っての決勝進出となりました。

対する齊藤三段は北海道出身の26歳。奨励会員ながら本棋戦ここまで岡部怜央四段、里見香奈女流五冠、山本博志四段ら実力者を破っての決勝進出となりました。徳田四段と齊藤三段は奨励会入会が同じ2010年で、二人は奨励会三段リーグで8期(4年)をともに戦っています。

■第1局は角換わりに

15日に行われた第1局は徳田四段の先手で、角換わりの戦型に進みました。持ち時間1時間の早指し棋戦らしくリズムよく指し手は進み、対局開始から30分もしないうちに両者の駒がぶつかります。先攻した徳田四段は「開戦は歩の突き捨てから」の格言通りに歩をどんどんぶつけて勢いよく攻めかかりますが、齊藤三段も手にした歩で先手陣に継ぎ歩の手筋を放ち反撃します。

結果的に、局後の感想で徳田四段が振り返ったように歩を与えすぎたことが響き、形勢は徐々に齊藤三段の方に傾きます。実際、徳田四段の▲4四歩(57手目)は攻めるというよりは相手に局面の方向性をゆだねる、いわゆるもたれる指し方に切り替えたものでした。決勝の大舞台ということもあり勝つことよりも負けないことを優先した徳田四段でしたが、その後齊藤三段に受けの不備を出るとみるやこれを見逃さず反撃。結果的にこの▲4四歩が攻めの拠点となって逆転することに成功しました。こうして三番勝負は徳田四段が一歩リードすることになりました。

■第2局は相掛かりに

第2局は一夜明けた16日に、先後を入れ替えて行われました。齊藤三段が勝って1勝1敗となった場合は同日に第3局が行われる段取りです。先手となった齊藤三段は相掛かりの戦型に誘導。後手の徳田四段に横歩を取らせる代償として手得をし、攻めの主役である飛車角と2枚の桂を臨戦態勢につけました。歩得を主張したい徳田四段は先手の攻めに対し丁寧に受けに回り、なんとか局面を落ち着けようとします。

その後、自然に見えた齊藤三段の攻めに誤算があり、うまく先手の飛車と角を追い返した徳田四段が局面をリードします。優位に立ってからの徳田四段の指し手は冴え、攻めの主役であったはずの先手の桂を捕獲したのちその桂を使って飛車角両取りをかけます。さらには香による飛車金両取りをかけて駒得を重ねた徳田四段が、追いすがる齊藤三段の攻めを見切って制勝。2連勝で本棋戦初優勝を決めました。

優勝を飾った徳田四段は表彰式で「またこういう舞台に戻ってきたいと思います」とうれしさを述べました。決勝での2連勝によって21勝1敗とした今期成績が今後どこまで伸びるのかに注目が集まります。敗れた齊藤三段は「この経験を生かして頑張りたい」と語りました。こちらも、10月に始まった三段リーグでの活躍が期待されます。

水留啓(将棋情報局)

デビュー1年目にして棋戦初優勝を飾った徳田四段(提供:日本将棋連盟)
デビュー1年目にして棋戦初優勝を飾った徳田四段(提供:日本将棋連盟)