アップセットは起こらなかった─。9月25日、さいたまスーパーアリーナ『超(スーパー)RIZIN』でのボクシング・エキシビションは、フロイド・メイウェザー・ジュニア(米国/45歳)が2ラウンド終了間際に右ストレートで朝倉未来(トライフォース赤坂/30歳)を倒して終わった。
エキシビションなので公式記録は残されないが、朝倉の完敗。それにしても最後の一撃は、それほど強くヒットしたようには見えなかった。なぜ朝倉は倒されたのか?
■朝倉の奇襲はなかった
「悔しい。それに頭が痛い。記憶がハッキリしないところもあるが、何であのパンチで倒れたのか解らない。ラウンドが終わるところだったので気を抜いてしまったのかもしれない。
(メイウェザーの)反応速度は異次元でしたね。最後は立とうとしたが、地面が歪んでいるように感じられて立てなかった」(朝倉)
「今回もエキシビションは大成功だ。これは正式な試合ではないから、お客さんに喜んでもらうことが一番大切。それが達成できたと思う。
アサクラは強い気持ちで向かってきてくれた。その結果、2ラウンドの6分間フルにエキサイティングな攻防を見せられた。私とアサクラは素晴らしいエンターテインメントを作り上げたんだ」(メイウェザー)
試合直後の共同インタビュー。
落胆した表情で口数も少なかった朝倉とは対照的に、メイウェザーは終始ご機嫌だった。
結果は大方の予想通りとなった。
「メイウェザーがリズムを掴む前に一撃を当てれば」と朝倉に期待を寄せたが、それはかなわなかった。
開始早々に朝倉は、奇襲を仕掛けなかった。いや、仕掛けられなかったのだろう。その隙をメイウェザーが与えなかったのだ。
それでも、序盤から朝倉は前に出て強いパンチを振るっていく。2ラウンド前半には右をヒットさせメイウェザーの顎が上がるシーンもあり、場内は大いに沸いた。
しかしメイウェザーは、どこまでも冷静だった。
2ラウンド終盤に多彩なパンチで朝倉を翻弄、最後は右ストレートで決める。キャンバスを這った朝倉は立ち上がれず、ラウンド終了のゴング後にレフェリーのケニー・ベイレスがTKO決着を宣した。
■軽い一撃で朝倉が倒れた理由
メイウェザーは試合前半を、こう振り返っている。
「1ラウンドは、ずっとデータを集めていた。私と闘うと、どんなファイターでも1ラウンド目は強く見える。それは相手にパンチを出させて、私はジッと見ているからだ。この間に集めたデータで、2ラウンド以降の相手の動きを読み切ることができる」
「2ラウンドから、私も徐々にパンチを出したが、それでも真剣になる必要はなかった。 アサクラは私を倒そうとして、強いパンチを振るい続けてきた。だからボディに強いのを2発打ち込んでやったんだ。それでもアサクラは舌を出したり、ニヤついたりして怯む様子はない、強いハートを持っている。だから、さらに打ち込んだのさ」
2ラウンドの終盤、メイウェザーは強打を何発か放つ。そして、ラウンド終了間際に右ストレートでダウンを奪ったのだが、この一撃は、それほどの強打には見えなかった。
「あのダウンを奪ったパンチは、それほど強くは当てていない。むしろ軽めのものだ。アサクラが立ち上がれなかったのは、そこに至るまでの私のパンチのダメージが蓄積していたから。すでに平衡感覚を失っていたと思う」
今回の試合は、ボクシングルール。
メイウェザーが優位なのは明白だった。
現役を引退しているとはいえ、50戦全勝の元5階級制覇世界王者とボクシングファイト未経験者の対峙。メイウェザーがリズムを刻む前に、朝倉が一撃を喰らわすことができなかった時点で勝敗が決せられたように思う。
朝倉は、「ぬるいパンチに交錯」を拒否し果敢に打ち合い、魅せはしたが、世界を震撼させることはできなかった。
ワールドワイドな宴は終わった。
ふたりには、新たな闘いが待っている。
激しい頭痛に見舞われた朝倉は、試合後に病院へ向かったが、その前にこうコメントした。
「次はMMA(総合格闘技)の試合をしたい。今回の経験は、MMAファイターとしての今後につながると思う」
コンディションの回復次第だが、次の試合は大晦日か。
10月23日、福岡マリンメッセ『RIZIN.39』では、王者・牛久絢太郎(K-Clann/27歳)と挑戦者クレベル・コイケ(ブラジル・ボンサイ柔術/32歳)の間でフェザー級タイトルマッチが行われる。この試合の勝者に朝倉が挑む可能性が高い。
一方、メイウェザーの次なるボクシング・エキシビションはすでに決定している。
11月13日(現地時間)、ドバイのコカ・コーラ・アリーナで英国の人気YouTuber、デジ(23歳)とグローブを交える。このイベントでもメイウェザーのファイトマネーは十数億円になる模様だ。
文/近藤隆夫