プロボクシング元5階級制覇王者フロイド・メイウェザー・ジュニアが、3年9カ月ぶりに『RIZIN』のリングに上がり、朝倉未来と対戦することが決まった。日にちと場所は未定だが、開催は9月で試合形式はボクシング・エキシビションとなる。

  • フロイド・メイウェザーに朝倉未来はいかに挑む? 「秘策あり」か?

    記者会見後、メディア撮影に応じポーズを取るフロイド・メイウェザー・ジュニア(左)と朝倉未来(写真:RIZIN FF)

エキシビションと言っても、それは単なる顔見せではない。フルラウンドを闘った場合には判定は下されず勝敗なしとなるが、KO決着はあり得る。ヘッドギアも着用せずに行われるリアルファイトだ。ボクシングマッチ初挑戦の朝倉未来は、かつての絶対王者相手にいかに闘うつもりなのか?

■言いたい放題のメイウェザー

「前回の日本でのエキシビション(那須川天心戦、2018年大晦日)の前に私は(主催者に)尋ねた。『3ラウンド持たせた方がいいの? 1ラウンドで終わらせた方がいいの?』と。『遊ばないでくれ』と言われたので1ラウンドで終わらせたんだ」

「試合は彼(朝倉未来)の考え方にかかっている。どう闘いたいか、何を観せたいかによって俺は対応を変える。ぬるい感じで3ラウンドやりたいなら、それもいいだろう。
エキサイティングなものを観せたいなら応じよう。金さえ払ってくれれば5ラウンドだろうが、8ラウンドだろうがやる。もっとも彼は8ラウンドももたないと思うが」

「キャリアを終えた後も、世界中を旅しながら自分の能力でファンにエンターテイメントを届けられることを嬉しく思う。彼(朝倉未来)は一生懸命やって私を倒しに来ると言っているが、私は楽しみながらやっても彼を倒せる。
(朝倉の過去の)試合映像も見ないし、その必要もないだろう。私は、この競技のキングだ」

  • 記者会見で長時間にわたり一方的に喋り続けたメイウェザー(写真:RIZIN FF)

6月13日(現地時間)、米国ラスベガスでの対戦カード発表記者会見でのメイウェザーは、言いたい放題だった。かなりの上から目線。まあ、仕方がないのかもしれない。
朝倉未来は「打倒!メイウェザー」に燃えるが、メイウェザーは「打倒!朝倉未来」に燃えていない。彼は、高額のマネーを求めてリングに上がるのだ。そのことも明言している。

■過去の名声を利して

メイウェザーは言わずと知れたプロボクシング中量級を席巻したスーパー・チャンプ。 1996年アトランタ五輪でフェザー級銅メダルを獲得した2か月後にプロデビュー。その2年後の98年にヘナロ・エルナンデス(米国)を9ラウンド終了TKOで破りWBC世界スーパー・フェザー級王座を奪取。以降も勝ち続け、スーパー・ウェルター級までの5階級で世界のベルトを腰に巻いた。 2015年9月、米国ラスベガスMGMグランド・ガーデン・アリーナでのアンドレ・ベルト戦を最後にプロボクシングトップ戦線から去る。ベルトに勝利したことで戦績は49戦全勝となり、ロッキー・マルシアノの無敗連勝記録に並んだ。

だが彼は、これで現役を引退したわけではなかった。
以降もリングに上がっている。その足跡は以下の通りだ。

2017年8月26日 〇(10R1分5秒、TKO)コナー・マクレガー(アイルランド)
2018年12月31日 〇(1R2分19秒、TKO)那須川天心(日本)
2021年6月6日 △(8R判定無し)ローガン・ポール(米国)
2022年5月21日 △(8R 判定無し)ドン・ムーア(米国)

マクレガーとの対戦はプロボクシングの公式試合(この勝利で50戦全勝を記録)だが、ほかの3試合はエキシビションマッチ。トップ戦線で闘っていた時のような緊張感溢れるファイトではない。メイウェザーは、過去の名声を利して高額のファイトマネーを得る術を見つけリングに上がり続けているのだ。

  • 2018年大晦日『RIZIN.14』で那須川天心に圧勝し笑みを浮かべるメイウェザー(写真:RIZIN FF)

■朝倉未来の「秘策」とは?

「朝倉未来に勝ち目はない。3分3ラウンドの9分間、遊ばれて終わるだろう」
今回の一戦を、そう見る向きが多い。特にボクシング関係者にそれは顕著だ。
50戦無敗、5階級制覇王者であるメイウェザーに、ボクシングシューズを履いて闘うのが初めての朝倉が挑むのだから、そう予想するのが妥当なのかもしれない。

だが、私は何が起こっても不思議ではないと思う。
メイウェザーはかつての名チャンピオンだが、事実上の引退をしてからもう7年が経っている。いまのメイウェザーは、サウル・アルバレス(メキシコ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)らと激闘を繰り広げ勝利した頃の彼ではない。45歳になり反射能力が衰え始め、闘争心も薄まり、「いま私がやっているのはエンターテインメントだ」と言って笑顔を見せている。
ボクシングの試合は初めてとはいえ、朝倉は打撃力に長けたプロの格闘家だ。勝つチャンスは見出せよう。

会見の冒頭で彼は言った。
「フロイド・メイウェザー・ジュニア選手と闘えることを嬉しく思う。MMAファイターとして、今後世界に名前を売るために(今回の試合を)ちょっと利用させてもらいます」

  • サングラスをかけて会見に出席した朝倉未来(写真:RIZIN FF)

そして会見後に、メイウェザーの印象と闘い方についてこう話している。
「普通に弱そう。俺の打撃は特殊で、ボクサーとはタイプが異なるからやり辛いと思いますよ。だから、これからボクシングを学ぶのではなく、いまのスタイルを崩さない。1、2発もらいながらでも全力でぶん殴る。いけると思う、倒します!」

メイウェザーと闘うだけでは意味がない。朝倉は、そう考えている。
もし、メイウェザーに技術で翻弄されたまま9分間が終われば、観る者はしらけるだろう。 そんな闘いにはしないはずだ。
彼は、イチかバチかで倒しに出る。そのタイミングは試合開始早々だろう。リズムを作られた後にメイウェザーを攻略するのは難しい。ラウンドが進めば進むほど、相手を有利にしてしまう。ならば、リズムを掴む前に攻め入る。3ラウンドを闘うスタミナも顧みず、一気に勝負をかけるのではないか。

技術戦になれば、朝倉は圧倒的に不利だが、それだけがボクシングではない。先に強烈な打撃を見舞えたなら、世界がどよめく結果になるかもしれない。
長月の大一番が、「ぬるい感じの3ラウンド」などで終わるはずがない。

文/近藤隆夫