1987年、国内で初めて「辛口」を売りにしたビールが誕生した。関東地方の1都6県で発売をスタートさせた「アサヒスーパードライ」は、キレ味がよく、すっきりとした飲みごたえで瞬く間にヒットし、当時の新商品初年度における過去最高売り上げ箱数を記録したほどだった。

「当時の日本のビール市場は、苦くて重いタイプのものが主流でした。しかし我々は、脂っこいものを多く食べるようになった消費者の方々の食生活の変化に合わせて”飲みやすくて、すっとキレるような味わい”に注目したんです」

そう話すのは、マーケティング本部でビールマーケティング部の次長を務める、松橋裕介さん。ビール業界に革命を起こし新たな価値観を提供した「アサヒスーパードライ」の歴史、そして、発売36年目にして初のフルリニューアルを図った背景について聞いた。

■「アサヒスーパードライ」誕生まで

──では改めて、日本で初めての辛口ビール「アサヒスーパードライ」誕生の歴史について教えてください。

苦くて重いというイメージのビールが主流だったころ、我々の研究では”消費者の方々の食生活が変化している”ということが明らかになったんです。後味が残るものより、スッキリしたもののほうが、今の消費者の方々には受け入れられるんじゃないかと。飲みやすくてキレのよいものを……と考え、施策を繰り返して作りあげたのが、辛口の「アサヒスーパードライ」です。

──それまでのビールのイメージを大きく変える出来事だったと思います。パッケージにもこだわりがあるとお伺いしました。

パッケージデザインに関して言いますと、キレのよい新しいビールをどう表現するかと考えた末に行き着いたのがシルバーという色でした。発売当時、父親が「ビールらしくない」と言っていたことをすごく覚えています。それほどシルバーの缶が、当時のビールでは斬新だったということになります。

──当時のパッケージは、どんな色が主流だったのですか?

当時は、缶ビールよりも瓶ビールの方が主流でした。瓶ビールのラベルをベースにした白やベージュのような色が多かったようです。我々は”これからは缶ビールが主流になる”と考え、アルミニウムのシルバーを採用しました。結果的に、デザインの斬新さやコンセプトの新しさ、味の美味しさなどが、お客様から支持を得られた理由だと思っています。

──発売当初から、消費者の方には受け入れらていたのでしょうか。

そうですね。発売当時から、好意的に受け入れられたと思っています。発売初年度から大きな反響をいただき、発売翌年には、新聞にお詫び広告を出したほどです。アサヒビールの社員は購入を控えるというお触れが出たくらい、市場でも品切れ状態だったので、流通の皆様にはご迷惑をおかけすることにもなりました。

■品質向上のための取り組み

──スーパードライが、これまで品質向上のために行ってきた取り組みについて教えてください。

1987年に発売し、まずは1993年に「鮮度向上活動」を行いました。発売開始から順調に売り上げが伸びていたのですが、そこで一旦、踊り場を迎えているんです。他社さんからも新しいブランドのビールが売り出された頃ですね。

それまで缶ビールで鮮度を大きく訴求することはしてこなかったのですが、”新しいビールはおいしい”という価値を加えることにしました。鮮度の良いビール=おいしいと実感いただき、さらにシェアが伸びるきっかけとなった取り組みでした。今も弊社では「アサヒスーパードライ 工場できたて実感パック」という商品を月に1回発売しています。工場製造後3日以内に出荷するということは、全国に工場を持ち、全工場でスーパードライを製造、独自の品質確認技術を培ってきたスーパードライ独自の価値になっていると考えています。

──その後は、大きな取り組みとしてどんなものがありますか?

2014年に、初めて「スーパードライ進化」と打ち出したことがありました。このときに注目したのは酵母です。酵母はビール作りにとってすごく大事で、「スーパードライ」のキレの良さを生み出すために、選りすぐりの酵母を使っているんですね。味を変えないまま、キレの良さのばらつきをなくし、さらに際立つ飲みごたえを実現するための取り組みでした。

製造過程ではなく販売の取り組みとしては、2010年から飲食店様で、氷点下まで下げて提供する「エクストラコールド」というものを実施しています。氷点下まで下げることで、苦味や麦の香りが軽減されて飲みやすくなるので、特に若い方から支持を得ていますね。

■新しくなった「スーパードライ」の特徴

──様々な商品や取り組み、進化を発表して「スーパードライ」ファンを拡大。そして今年、発売36年目にして初のフルリニューアルを発表は、とても大きな決断だったかと思います。

「スーパードライ」は、アサヒグループにとっての屋台骨。発売から35年経ち、「スーパードライ」に愛着を持ってくださるお客様も増えました。そのため、なかなか大きな変化を生むことはしてきませんでした。しかし、大きな手を打ってこなかったことによって、ブランドの課題というものが見えてきたのも事実です。

──パッケージもガラッと変化しました。

発売当時はシルバーの斬新なパッケージが受け入れられていましたが、実際に消費者の方たちにインタビューをしてみると、「古臭い」「新しい感じがしない」と言われることもあって。先進的なスーパードライのブランドイメージが薄れ、シルバーに黒のアサヒロゴも「苦そう」や「重そう」というイメージを持たれていたことに気づかされました。

リニューアル後のパッケージは、今までよりもすごくシンプルになっています。この八角形の枠はそのままに、枠の中と外でのシルバーの色の見え方が変わるようにしました。もともとシルバーという色味は、お店で並ぶと少し沈んでしまうんですが、マットとメタリックの2種類のシルバーを使うようにして店頭でも明るく見えるよう工夫しています。

若い方や女性の方も手に取りやすくなったと言われることがあるので、それはすごく嬉しいですね。

──味の面ではいかがでしょうか?

味の特長で言いますと、私どもは”辛口カーブ”と表現しているのですが、味の感じ方を変えて飲みごたえを上げました。これは、今までのリニューアルや進化とは大きな違いです。

飲みごたえをあげるだけだったら、味を濃くするという簡単な方法で済んでしまいます。ですが、濃くしてしまうとキレが失われてしまう。「スーパードライ」らしいキレを維持しながら、どうやって飲みごたえをあげようか?というところで、答えに行き着くまでに3年から4年ほどかかりました。

──では、満を辞してのフルリニューアルだったんですね。

そうですね。何度も研究所と工場と試験を繰り返して、お客様調査を行い、何がおいしいと思っていただけるのか、突き止めた飲みごたえをやっと発表できたのが今年です。

■幅広い世代においしさと魅力を

──初フルリニューアルを遂げた今年4月に、『スーパードライ OFFICIAL BOOK』を発売されました。

多面的にブランドの良さを伝えていくことはすごく大事だと思い、この本を作りました。CMや店頭だけでは伝えきれないストーリーがたくさんあるので、それを知ってもらおうと思ったことがキッカケです。

内容としては、「スーパードライ」の歴史や開発の背景、「スーパードライ」をおいしく提供したいと言ってくれているお店の方にも取材させていただいています。また、イチローさんをはじめ姫野和樹さんなど、自分らしく輝く方にも登場していただきました。フルリニューアルに踏み切ったチームメンバーにもスポットを当て、実際の現場の声も掲載しています。

今、「スーパードライ」が好きな方にはもっとファンになってほしいですし、何気なく飲んでいる方にも、そんな背景があったんだ、そんな気持ちで作られているんだと感じてもらえたら嬉しく思います。

──『スーパードライ OFFICIAL BOOK』の反響はいかがでしたか?

私の周りのビール好きの友人も何人か買ってくれたのですが、改めて「スーパードライ」の良さやブランド力を感じてくれたようです。「やっぱりスーパードライっていいブランドだね」という言葉が、とても嬉しかったですね。

──公式HPも拝見しましたが、プロモーションにも相当、力を入れていらっしゃるように感じました。

はい。HIKAKINさんや、はじめしゃちょーさんなど、YouTuberの方ともコラボをさせていただいています。そういった方々が自分の言葉で「スーパードライ」を語ってくれることで、YouTubeをよく見る若い世代にも、おいしさや魅力が伝わるのではないのかなと思いました。

昨年くらいからデジタルマーケティングにも非常に力を入れていまして、LINE IDをご提供いただくことで、興味・関心に基づいたマーケティングの実現を目指しています。お客様のセグメントごとに、どういう情報を出していこうかと、試策を練っては実行しているので、SNSでのお客様との結びつきはかなり強いものになっていると思いますね。

──変化や進化を経て、今も変わらず愛されている理由がちゃんとあるんですね。最後に、松橋さんから、「スーパードライ」を愛する皆様へメッセージをお願いいたします。

「スーパードライ」は”自分らしく輝きたい”、”自分らしい生き方や生活を送りたい”と思っている人を応援するブランドでありたいと思っています。日々の中でちょっと嫌な気持ちになることもありますし、明るくなれない日もあるかと思いますが、「明日もまた自分らしく頑張ろう」というときに手に取ってもらえるブランドとして磨き続けたいです。「スーパードライ」の、この辛口のうまさを実感していただき、自分らしい明日に一歩踏み出してもらえるキッカケになれたら、これ以上に嬉しいことはありません。