激戦のSUV市場に新型車「ZR-V」を投入すると表明したホンダ。「RAV4」「ハリアー」「エクストレイル」など強敵ぞろいのカテゴリーに遅れて参入するZR-Vに勝ち目はあるのだろうか。一足早く試乗して、このクルマの強みになる部分を探ってきた。

  • ホンダ「ZR-V」

    ホンダの新型SUV「ZR-V」に試乗!

参入余地は少なめ? 大混雑のSUV市場

ZR-Vは全くのニューモデルで、ボディサイズや価格などの詳細は2022年秋に発表予定となっている。米国では「HR-V」の名で販売中だが、こちらはボディサイズが全長179.8インチ(4,567mm)、全幅72.4インチ(1,839mm)、全高63.4インチ(LXというグレードの値、1,610mm)。グレードは「LX」「Sport」「EX-L」の3種類、価格は2.365万ドル~2.745万ドル(1ドル142円で換算すると約336万円~390万円)だ。ただし、日本で発売となるZR-Vとはパワートレインやフロントマスクのデザインなどが異なる。

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    9月8日に予約の受け付けが始まった「ZR-V」。発売は2022年秋の予定だったが、昨今の情勢を受けて一部部品の入荷が遅れているため2023年春に延期した

おそらく、ZR-VのサイズはHR-Vとあまり変わらない。近しい大きさのSUVといえばトヨタ自動車の「RAV4」「ハリアー」「カローラクロス」、日産自動車の「エクストレイル」、マツダの「CX-5」、スバルの「フォレスター」など、強力なライバルがたくさんいる。ホンダの日本向け商品としては「CR-V」があるが、このクルマは生産終了が決まっているので、同カテゴリーにおけるホンダの代表選手はZR-Vということになる。

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    「ZR-V」はホンダのビジネス的にも重要な役目を担う1台となる

SUVといえば悪路走破性を前面に押し出す「クロスカントリー(クロカン)系」か、流麗なデザインや内装の質感などを強みとする「都市型・上質系」の2種類に分けられがちで、日産の新型エクストレイルは「タフで上質」という両にらみの打ち出し方をしているが、ホンダはSUVの新たな価値を提示して勝負に挑む。ZR-V最大の特徴は、スポーツカーのように質の高い走りだ。

「シビック」の走りをSUVで再現?

ZR-Vは新型「シビック」と同じプラットフォームを使っている。パワートレインのラインアップも、2.0L直噴エンジンの「e:HEV」(ハイブリッド)と1.5LのVTECターボエンジンでシビックと同じだ。大まかにいえばZR-Vは、シビックのSUVバージョンといった感じのクルマである。

ただし、単純にシビックの背を高くして、最低地上高を上げただけのクルマではない。背の高いSUVであるにもかかわらず、まるでセダンに乗っているかのように接地し、コーナリング時には左右に揺すられることなく、加速すれば伸びがよく、運転することが楽しいクルマに仕上げるため、開発陣はシビックの開発チームと切磋琢磨しながらZR-Vを仕上げたそうだ。

シビックにはないZR-V独自の付加価値は、AWD(4輪駆動)の設定があること。車速や横Gなどを計測しながらリアタイヤへの駆動力の配分を変化させる賢いAWDシステムを採用している。悪路走破や雪上走行のためだけではなく、旋回時も加速時も楽しいAWDを志した。

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    「シビック」との違いとして、リアのサスペンションは同社SUV「CR-V」のものを使っているとのこと。もちろんエンジンや各パーツのセッティングも「ZR-V」専用のチューニングとなっているし、ZR-Vのために開発した独自のパーツも採用している。タイヤも新規開発だ

今回は「群馬サイクルスポーツセンター」(群馬県利根郡みなかみ町)でe:HEVのAWD、FFとガソリンエンジンのAWDに試乗できたが、それぞれに味があった。

e:HEVはエンジンを発電に使うシリーズハイブリッドが基本で、高速走行時など効率がよいと判断した状況でのみエンジンを直結する仕組み。なので、街中を走るような速度で運転しているぶんにはほとんど電気自動車(EV)のようで、本来はホンダ自慢のアイテムであるところのエンジンも存在感を消している。ただし加速の意志を持って踏み込めば、「ホンダサウンド」といわれるカッコいいエンジン音が聞こえてくる。この音、スピーカーなどを用いた演出ではなくエンジンの「純音」だ。

加減速しても曲がっても、確かに走りはスポーティーでSUVに乗っているという感じは薄い。もちろん視点が高くて視界は良好なのだが、低い姿勢で駆け抜けているような気分になってくる。

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    e:HEVの最大トルクは315Nmで3.0LのV型6気筒エンジン並み

AWDは出だしで踏み込むと後ろから押されているような(リアタイヤが仕事をしているような)感覚が確かに味わえる。コーナリング時も、おそらく頑張ってくれているのだろう。ステアリングを切った通りに曲がっていってくれた。背の高いSUVにありがちな、曲がる方向とは逆方向に体を持っていかれる不快感もない。旋回中の姿勢変化の抑制には相当こだわったと開発陣は話していた。

e:HEVのAWDが最もオススメな組み合わせとはなるのだろうが、ガソリンエンジン搭載車の方が好みに合う人もきっといるはずだ。乗ってみるとe:HEVに対して100kg近く軽い車重の効果もあり、動きが軽快。e:HEVも十分に軽快だったのだが、ガソリンモデルと比べるとe:HEVは「しっとりした」乗り味だと表現しなければならなくなる。大トルクでEV的な走りのe:HEVに乗った後でも、明らかに遅いと感じることはなく、むしろ「ターボ感」がある気持ちのいい加速だった。

FFについてZR-Vの開発陣からは、「通常のFF車に比べれば、フロントのグリップが抜けることは少ないはず」との話を聞けた。正直にいうと、試乗していてAWDとの明確な差を感じる場面はほぼなかった。

e:HEV、ガソリン、FF、AWDと組み合わせはいろいろだが、「どれを選んでも我慢して乗っている感はないと思うし、どれを選んでも期待を裏切らないように作ってある」というのが開発陣の言葉だ。

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    e:HEV・AWDの走行シーン

最低地上高、アプローチ/デパーチャーアングル、たっぷりとした荷室、広々とした車内といったSUVの基本的な価値をもっていることは大前提としつつ、ホンダならではの付加価値として質の高いダイナミクス、リニアリティ、意のままの走りといったスポーツカー的な要素を盛り込んだのが、新型SUVのZR-Vだというのが開発陣の説明だ。「シビックから乗り換えても違和感がないはず。新しいホンダの乗り味を提示できたのでは」という言葉からは相当な自信を感じた。

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  • 例えば通常サイズのゴルフバッグなら3つまで積めるし、快適装備でいえBOSEのサウンドシステムを「ZR-V」の特性に合わせてチューニングするなど、出かけるクルマとしてのSUVの基本的な要素は「当たり前価値」として押さえているという

タフなSUVや上質なSUVは選択肢が豊富だ。もしタフネスや上質さで先行者に勝る1台をホンダが作れたとしても、彼らから顧客を取ってくるのは難しいだろう。ホンダが提示するSUVの新しい付加価値に、新規顧客や他メーカーのSUVユーザーがどんな反応を示すのかが楽しみだ。