口下手を自覚している人のなかには、「どうせ自分には無理」というふうに、話がうまくなることをあきらめてしまっている人もいるかもしれません。

  • 口下手でも場を盛り上げられる「リアクション」の極意 /ネタ作家・芝山大補

しかし、「口下手でも会話の場を盛り上げられるテクニックがある」というのは、「ネタ作家」として300組以上の芸人にネタを提供し、一般の人たちにも芸人の話術を伝えている芝山大補さん。そのテクニックである「リアクション」について解説してくれました。

■話し手が持っている「意図」をくみ取る

「3大欲求」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。睡眠欲、食欲、性欲という、人間が持つ根源的な欲求のことです。でも、じつはこれらに「おしゃべり欲」ともいうべきものを加えて「4大欲求」とする説もあったという話も聞いたことがあります。

つまり、人間というのは、「すごくしゃべりたい生き物」なのです。井戸端会議を楽しむ女性たちのように、しゃべることでストレスを解消できることも、人間をそうさせている要因のひとつなのでしょう。

そこで、「リアクション」という技術が力を発揮します。多くの人が「しゃべりたい」と思っているのですから、相手に気持ちよくしゃべらせるリアクションができれば、たとえ自分から話すことが苦手な人であってもそれだけ相手に好意を持ってもらえるのです。

人は、なにかを話すときになんらかの意図を持っています。買い物をしていたら掘り出し物を見つけて、1万円くらいに見えるシャツを500円で買えた人がいるとします。このエピソードを話す人には、「『いい買い物をしたね!』『安いね!』といってもらいたい」という意図があるでしょう。それを感じられれば、いいリアクションをすることができます。

【いいリアクションの例】
A:めっちゃ安い買い物してさ、このシャツいくらやと思う?
B:うーん、1万円くらい?
A:500円やねん。
B:うわ、やすッ!

こんな具合です。ただ、相手の意図をくみ取ったとしても、リアクションを間違ってしまえば元も子もありません。「わざわざ値段を聞いてくるということは、安い買い物ができたのだろう」と思って「500円くらい?」と返してしまえば、相手は「まあ、500円なんやけど…」とがっかりしてしまうでしょう。

そうではなく、相手の意図をくみ取り、最終的に相手はどんなことを期待しているのかということまで考えてリアクションをすべきです。

そんなサービス精神によって相手からの自分の好感度を上げておくと、相手もこちらの話に笑ってくれやすくなるもの。当然のことかもしれませんが、同じ話であっても、好きな人がする話なら笑えたり感心したりしやすくなるのです。そうしてコミュニケーションが深まり、相手との関係性がよりよくなっていくこともあるでしょう。

■「余韻」をつくって、相手の話をしっかり受け止める

また、いいリアクションをしようと思えば、相手の意図をくみ取ることの他に、「話し終わりに『余韻』をつくる」ことも重要なポイントです。これは、相手の話が終わったら、「心に響いた」「面白かった」という余韻をつくることを指します。

相手が「このシャツ、500円で買えたんだよ」と話したときに、「へー。そういえば…」と間髪入れずに自分の話をはじめたとしたらどうでしょうか。相手からすると、「わたしの話、面白くなかったのかな…」と不安になってしまいます。人間は、話していて不安になる人としゃべりたいとは思いません。

あるいは、「わたしの話、面白くなかったのかな…」と不安になってしまうと、そのあとのこちらの話に相手は集中できず、話が相手の耳に届かないということもあるでしょう。そうして、会話が盛り上がらなくなり、相手との関係がよくない方向に進むことも考えられます。

やるべきことはシンプル。「このシャツ、500円で買えたんだよ」と相手が話したなら、「へー、すごいね」「そんなに安く買えるものなんだね」「いい買い物したなあ…」と、しっかりと相手の話を受け止めてあげるだけです。

しかも、じつはこのことは会話が苦手な人でもすぐに使えるテクニックであるにもかかわらず、実践できていない人が多いもの。そのため、ただ「余韻」を意識するだけで周囲の多くの人と比べて簡単にリアクション上手になれるというメリットもあります。

■「褒められたとき」に使えるリアクション

最後に、「褒められたときに使えるリアクション」を紹介しましょう。とくに社会人にとっては、褒められたときのリアクションは、そんなに簡単なことではありません。

ただ「ありがとうございます」だけで終わったり謙遜し過ぎたりしてしまえば話は弾みませんし、かといって「調子に乗っている」とは思われたくないものですよね。褒められたときにどう反応していいか困っている人も多いのではないでしょうか。

とくに謙虚さを美徳とする日本人の場合、「いえ、そんなことないですよ」「わたしなんてまだまだ」と謙遜し過ぎているケースが多いように思います。でも、やはり前提として相手の褒め言葉を受け入れるべきです。なぜなら、謙遜し過ぎることは、「すごいね!」という相手の言葉や気持ちを「そうではない」と否定することになるからです。相手からすれば気持ちいいものではありません。

では、どうすればいいのでしょうか? わたし自身の場合、「自分で自分を持ち上げる」手法をよく使います。「芝山さん、すごいですね」といわれたら、「まあ、天才ですからね」といった具合です。相手からは「自分でいうなよ!」というツッコミが返ってくるリアクションであり、自分を持ち上げているように見せてちょっと下げることで笑いを生みます。

ただ、この手法では嫌味に聞こえてしまうケースもあります。社内でもトップクラスに仕事ができる営業マンが「すごいね」と今月の営業成績を褒められたときに「まあ、天才ですからね」なんていうと、「ちょっとは謙遜しろよ」などと思われることもあるでしょう。

そんなケースであれば、「ありがとうございます。なんせ今月の星占い、1位ですからね」といったふうに自分以外のことのおかげにして謙遜する手法が有効です。いずれにせよ、自分という人間が相手からどう見えているかということを客観視しておくことが鍵となります。

リアクションというと、「リアクション芸」という言葉もあるために、オーバーな体の動きといったものをイメージする人も多いかもしれません。でも、どんな言葉を選ぶのか、あるいは余韻のようにどんなふうに間を使うのかといったことも含めてリアクションです。そう考えて、相手に気持ちよく話させ、最終的に自分が周囲といい関係を築いていけるようなリアクションというものを意識してほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人