ヒトラボ編集長・川上 敬太郎さんより

日本における働き方の変化について多くのメディアを通じた発信を続けるワークスタイル研究家であり、人材サービスの公益的発展を考える会 主宰・ヒトラボ編集長である川上 敬太郎さんから、機会を得てお話を伺いました。川上さんは次のように述べています。

もしコロナ禍が20年前に発生していたら、ほとんどの職場ではテレワークを導入することもできず、経済はストップしてしまっていたことと思います。今のようにテレワークが夢の働き方から脱却し、現実的な働き方の一つとして市民権を得られるようになったのは、インターネット環境が整い、その環境を業務に生かすことができるツールが発達していたからです。すなわち、それらテクノロジーの進化が、働く環境の新時代を切り開いたと言えます」


しかし、テレワークを導入しても資料を紙で管理しているなど、出社を前提とした業務体制のままで運用してもうまく機能しません。そんな、上辺だけ“テレワーク・コーティング”で繕った職場では、かえって生産性が下がってしまうため、コロナ禍の落ち着きとともにとりあえず出社型に戻そうとする動きが見られます。


また、テレワーク中は社員が目の前にいないため、誰に・いつまでに・何を任せるかが明確になっていない職場では、マネジメントがうまく機能しません。テレワークを機能させるには、誰が・いつまでに・何をするか明確にして、社員が自律的に仕事をコントロールできるマネジメント体制の構築が必要です。


今回Citrix社の調査では、「社内のIT環境」や「組織の信頼と共感」などの満足度において、残念ながら日本は最下位でした。その背景には、テレワークを機能させる三大要素とも言える『テクノロジー×業務設計×自律的マネジメント』が未整備な状況が伺えます。それは現時点においてはマイナスに違いありません。


しかし、見方を変えれば今後それだけ伸びしろがあるということでもあります。これから『テクノロジー×業務設計×自律的マネジメント』を整備していくにつれ、出社、テレワーク、ハイブリッドワークを最適な形で使い分けられる職場が日本国内にどんどん増えていく可能性が眠っているのだと思います。

従業員と組織は信頼関係にあるのか?

信頼と共感についてはどうでしょう。同調査では、従業員のパソコンに導入する監視ソフトについて、合計で8割のビジネスリーダーがすでに導入済み、または検討中であることがわかりました。

なぜ、監視ソフトをインストールするのでしょうか。ビジネスリーダーの39%は、従業員がコンプライアンスとデータセ

キュリティのプロトコルを遵守していることを確認したいと答え、36%は従業員が監視されていればより業務に集中するだろうと感じていると答えています。

しかし、セキュリティと生産性は監視しなくても実現可能です。ハイブリッドな環境で働く従業員は、オフィスのみまたは在宅のみで働く従業員と比べ、会社から信頼されていると感じる度合いが高く、チェックや監視をうけることなく会社のルールを守ることができます。

そうした働き方によってもたらされる従業員エンゲージメントの高まりを活用し、さらにゼロトラストの考え方をベースにセキュリティ対策を講ずることで、監視を強めなくても、大切なデータが入ったデバイスを誤って紛失してしまう、宛先を間違って送付してしまうなどのヒューマンエラーに抑止力をもたらし、外部からの脅威にも対応することが可能になります。

人材不足が懸念される今、従業員エンゲージメントは企業の重要課題です。企業は今、優秀な従業員に入社してもらい、活躍してもらい、働き続けてもらうには、従業員と信頼し合い、共感し合える働く場所を新しいテクノロジーを通して構築することが必要なのです。

著者プロフィール


シトリックス・システムズ・ジャパン

代表取締役社長

萩野武志