自分が話しても「へー」というだけの反応で相手に響かなかった。自分が面白いと感じた体験を話してもウケなかった——。そんな経験がある人も多いでしょう。どうすれば、自分の会話に相手を引き込むことができるのでしょうか。
「ネタ作家」として300組以上の芸人にネタを提供し、一般の人たちにも芸人の話術を伝えている芝山大補さんが、一流芸人も使っている話術の一端を明かしてくれました。
■「オノマトペ(擬声語/擬態語)」で臨場感を増す
相手の心に響く話ができるかどうかは、話の内容と同じくらい、あるいはそれ以上に話し方が重要です。そのコツのひとつは、わたしが「トークの『三種の神器』」と呼ぶものを話に取り入れることです。
【トークの「三種の神器」】
・オノマトペ(擬音語/擬態語)
・比較
・自分の気持ち
ひとつ目が「オノマトペ」です。芸能界であれば、笑福亭鶴瓶さんや千原ジュニアさんがよく使っています。その効果は、臨場感を増して話している内容の状況を相手にイメージしやすくするということです。その効果を、具体例から感じてもらいましょう。
【「三種の神器」を取り入れていない話】
こないだ、電車で帰っていたんですよ。
そのときはほとんど人がいなくて、車内は空いていたんです。
そしたら渋谷に着いたときにパンツ一丁の男が入ってきて、
なぜかそいつ、めちゃくちゃ空いてるのに俺の隣に座ってきたんですよ。
これでも状況はわかりますし、エピソード自体の驚きや面白さは伝わるかもしれません。でも、やはり相手の心に響くというほどではないでしょう。一方、オノマトペを使う場合はどうでしょうか。
【オノマトペを取り入れた話】
こないだ、電車で帰っていたんですよ。
そのときはほとんど人がいなくて、車内はガラーンと空いていたんです。
そしたら渋谷に着いたときにパンツ一丁の男がブワーッて入ってきて、
なぜかそいつ、めちゃくちゃ空いてるのにピタッて俺の隣に座ってきたんですよ。
どうでしょうか。「ガラーン」「ブワーッ」「ピタッ」によって、車内が空いている状況、勢いよく男が入ってきた状況、真横にくっつくように座ってきたという状況をイメージしやすくなり、より面白く感じませんか?
■「ふつう」との「比較」で異常性を際立たせる
「トークの『三種の神器』」のふたつ目は、「比較」です。わざわざ誰かに話したい内容は、先の例のように誰かが変な行動をしたとか、あるいは怖い体験といった「ふつうではないこと」が多いものです。
そこで、「ふつう」と比較することで、その異常性を強調してやるわけです。先の例で挙げた話に比較の要素を取り入れてみましょう。
【比較を取り入れた話】
こないだ、電車で帰っていたんですよ。
そのときはほとんど人がいなくて、車内は空いていたんです。
そしたら渋谷に着いたときにパンツ一丁の男が入ってきて、
ふつうなら適当にどこか空いているところに座るじゃないですか。
でもなぜかそいつ、めちゃくちゃ空いてるのに俺の隣に座ってきたんですよ。
このように、「ふつうなら○○するじゃないですか」「まともな人なら○○っていいそうなもんですよね」「たいていは○○だと思うじゃないですか」といった内容を入れることで、ふつうではない話の異常性や面白さが際立ちます。
■「自分の気持ち」で聞き手に感情移入させる
「トークの『三種の神器』」の3つ目は、「自分の気持ち」です。話をする際、多くの人は「状況描写」を中心に話します。でも、状況描写ばかり聞かされていると話が単調に聞こえて、聞き手は退屈してしまうのです。
そこで、「自分の気持ち」を語る、つまり「心理描写」も加えることで、聞き手に感情移入させることを狙います。面白い小説や映画も、登場人物の気持ちが描写されていることで読者や観客は話に引き込まれるのです。
【自分の気持ちを取り入れた話】
こないだ、電車で帰っていたんですよ。
そのときはほとんど人がいなくて、車内は空いていたんです。
そしたら渋谷に着いたときにパンツ一丁の男が入ってきて、
「うわ最悪や、変なやつ入ってきたで」って思って。
「まあ、適当にどこか空いているとこ座るやろ」って思ったら、
なぜかそいつ、めちゃくちゃ空いてるのに俺の隣に座ってきたんですよ。
自分の気持ちは、お笑い業界でいう「フリオチ」というものをつくることにも役立ちます。フリオチとは、「話のフリでつくった流れをオチで裏切る」ことで笑いを生み出すスタイルで、オチをパワーアップさせられます。ひとつ、例を挙げましょう。
【「フリオチ」の例】
A:高い買い物してしもうて、今月ピンチや。
B:なに買ったんですか?
A:「5円チョコ」やねん。
B:どこが高い買い物やねん。
これは、「高い買い物」というフリを、「『5円チョコ』を買った」というオチで裏切っています。内容としては「『5円チョコ』を買った」というだけの話ですが、フリによって話に面白みが生まれています。
先の例なら、「空いているとこ座るやろ」という気持ちがフリとなり、「なぜか俺の隣に座ってきた」というオチをパワーアップさせているという構造です。
■フィクションの話を使ってトレーニングをする
最後に、これら「トークの『三種の神器』」を取り入れるうえで、みなさんにアドバイスをしておきましょう。ひとつは、「自分に合ったものだけを取り入れる」ということ。先にも触れたように、笑福亭鶴瓶さんや千原ジュニアさんのようにオノマトペを使うことが合う人もいれば、そうでない人もいます。
自分にしっくりこないままではテクニックを使うことばかりに意識が向かってしまい、話はなかなか面白くなりません。「トークの『三種の神器』」をそれぞれ試してみて、自然と使える自分に合ったものを取り入れてみてほしいと思います。
それから、実際に試してみるときには、フィクションの話を使ってトレーニングすることもおすすめです。昔話の「桃太郎」なら、「パカッと視界が開けたら、知らんおじいさんとおばあさんがおってな」「包丁持ってて『うわ、こわッ』って思ったんやけど、ふたりとも優しく育ててくれてさ」「でも、なんか鬼退治に行かなあかんことになってな」「ふつう、かわいい子どもに鬼退治に行かせる?」といった具合です。
先述したように、わざわざ誰かに話したい内容は「ふつうではないこと」が多いものです。でも、ふつうの毎日のなかで「ふつうではないこと」はそう起きるものではありません。そこで、フィクションの話を利用し、登場人物の目線で話してみるというわけです。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人