宇都宮市は芳賀・宇都宮LRT事業について、2023年8月中に全線開業の見込みと発表した。2022年11月から一部区間で試運転を実施し、2023年4月から全線で試運転を開始する予定。また、宇都宮駅西側は大谷観光地付近までを検討区間とし、宝木町1丁目・駒生1丁目付近まで2030年代後半に開業させる意向を示した。

  • 車両の愛称は「ライトライン」。2023年8月の開業に向けて、いよいよ11月から試運転が始まる

開業予定区間は、宇都宮駅東口停留場から芳賀・高根沢工業団地停留場までの約14.6km。全線が複線で、全区間のうち約9.4kmが併用軌道区間、約5.1kmが専用軌道区間となる。専用軌道、つまり線路だけの区間も軌道免許を受けており、いわば「電車しか走らない併用軌道」に。道路扱いとすることで、地方自治体が行政のために必要な施設として、地方交付税交付金の算定に上乗せできる。ただし、軌道は最高速度40km/hに制限される。

宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間では、途中に17の停留場が設置される。ほとんどの停留場は軌道の外側にホームを設け、いわゆる対向式ホームになる。島式ホームの停留場もあり、宇都宮駅東口停留場、清原地区市民センター前停留場、かしの森公園前停留場、芳賀・高根沢工業団地停留場はそれぞれ1面2線、車両基地の出入口となる平石停留場は2面4線、グリーンスタジアム前停留場は上下線とも側線を持つ2面4線扱いとなり、これは快速運転を考慮した待避設備だという。平石停留場は車両基地があるため、入出庫線も兼ねる。

  • 宇都宮市のLRT構想。赤い実線が2023年8月開業区間。赤い二重線が整備区間。赤い点線が検討区間

運転計画も公開されている。宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地間の所要時間は各駅停車で約44分、快速運行で約37~38分。運転時間帯は午前6時台から午後11時台、運転間隔はピーク時間帯に6分間隔、オフピーク時間帯に10分間隔。最も乗客の多い区間は片道1時間あたり1,885人の乗車を見込む。需要予測は1日あたり平均約1万6,300人。これは都電荒川線の1日平均利用者数3万8,993人(2020年度)の半分以下。札幌市電の1日あたり利用者数2万4,000人以上、函館市電の1万人前後などと比較すると、控えめの予測かもしれない。

車両は3車体連接構造で全長29.52m、定員160人。17編成の陣容で、6月28日までに全編成が納入された。形式は「HU300形」で、「H」は「芳賀(Haga)」、「U」は「宇都宮(Utsunomiya)」、「300」は3車体連接構造に由来するという。愛称は「ライトライン」。「ライト」は宇都宮市が「雷の多い都市」として「雷都」をキャッチフレーズにしていることに由来している。「ライン」は「道筋」。「ライトライン」は車両の愛称だが、利用者からは路線全体を指して「ライトライン」と呼ばれることだろう。

この電車の運転最高速度は70km/h。軌道の上限は40km/hだが、安全運行の実績を重ねた上で、上限速度の特認申請を行う計画となっている。最高速度の引上げが認められた場合、鬼怒川を渡る鉄橋で70km/h、その他区間で50km/hの運行を実施する予定。明らかに体感できる速度差だから、開業直後に乗った後、スピードアップした際にもう一度乗車したい。実現のためにも、安全運行を続けてほしい。

■宇都宮市とLRT

宇都宮市は1987年頃から、JR宇都宮駅の東西を横断する交通整備を検討してきた。当初はモノレールや新交通システムをはじめ、東北本線の高架化によるバス路線拡大も検討されたという。この年、東京都が多摩都市モノレールの特許を取得している。多摩都市モノレールの基本調査は1979年に始まっていた。時代背景として、1986年頃からバブル景気が始まり、宇都宮市でも東口の区画整理、再開発などで活気づいていた。

宇都宮駅東側には、「宇都宮テクノポリス」と呼ばれる清原工業団地がある。戦時中は中島飛行機(現・SUBARU)の飛行場があったところを中心に開発された。新交通システム構想は「宇都宮テクノポリス」の成長で再燃する。1993年、宇都宮市で「新交通システム研究会」が発足し、20年もの歳月をかけて「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」を策定。2013年にLRTの導入を計画することになった。

当時、路面電車のある都市ではLRTがブームだった。1997年に熊本市電で日本初の超低床車両を導入、1999年から広島電鉄も超低床車両を導入し、高評価を得ていた。2006年、JR富山港線から転換して開業した富山ライトレール(現・富山地方鉄道富山港線)が成功し、LRTは路面電車活性化の救世主となっていた。

LRT整備を前提として、宇都宮市は2015年に「ネットワーク型コンパクトシティ形成ビジョン」を策定した。連携・集約型都市をめざして、土地利用を適正化し、産業、生活、観光などで地域を拠点化、その拠点を公共交通ネットワークで連携する。

LRTは当初の「宇都宮駅~宇都宮テクノポリス」を結ぶ交通手段としてだけでなく、「少子高齢化に対応し、自動車が運転できない低年齢、高齢者も含めて、誰もが自由に市内を移動でき、元気に生活するための公共交通ネットワーク」という意義が加わった。交通渋滞解消が第一目的ではないものの、なるべく自動車を使わず移動できる社会を作れば、自ずとJR宇都宮駅周辺地域の交通渋滞も解消へ向かう。

■2度の開業延期と検討区間

しかし、LRT計画が宇都宮市民の総意ではないことも明らかになった。既存の自動車交通を妨げ、バスや物流トラックの運行にも支障が出る。バス路線再編により、乗換えも増える。莫大なコストでLRTを作らなくても、バスの改善で都市問題を解決できるなどとして反対市民団体が結成され、LRTの可否について住民投票を市議会に請求した。2014年に1回、2015年に2回の請求を行い、すべて否決されている。2016年と2020年に行われた市長選の争点にもなったが、どちらも推進派の現市長が当選した。

LRTは公設民営方式の上下分離とし、2015年に運行会社の第三セクター「宇都宮ライトレール」を設立。2016年に国土交通省へ特許申請し、許可された。宇都宮市は東京オリンピック・パラリンピックの開催予定だった2020年に間に合わせるため、当初は2019年度を開業目標としていた。しかし、用地取得など住民説明に時間がかかるとして目標を延期。2017年に「年内着工、2022年3月開業」が発表された。

しかし、2021年1月に「2022年3月開業は困難で、1年程度遅れる」と発表。土地取得と工事の遅れが理由だった。さらに2022年6月、「野高谷町(のごやまち)交差点」の工事の遅れが報告された。この交差点は国道408号バイパスと県道64号が交差し、LRT計画以前から渋滞していた。渋滞解消のため、車線の拡幅と立体交差工事を進めていたところで、LRTの通過ルートになることから工事が中断。その後、LRT交差と合わせて整備することになった。

ただし、交通規制に伴う交通渋滞を考慮したため、交差点改良とLRT建設を同時進行できないと判断された。スケジュール精査の結果が、8月17日に発表された「2023年8月開業」ということになる。

  • 工事の「難所」となった野高谷町交差点。赤線が宇都宮LRT軌道、青線が高架立体交差部分。宇都宮LRTは南側高架からさしかかり、県道64号線の宇都宮駅方面の車線をまたいで中央分離帯に降りていく

野高谷町交差点以外は今年中に工事が完了する見込み。そのため、野高谷町交差点より西側区間を先行開業する案もあったという。線路配置資料を見ると、宇都宮駅東口停留場と車庫のある平石停留場の間は折返し運転が可能で、野高谷町交差点の直前にあるグリーンスタジアム前停留場も渡り線があり、折返し運転ができる。下野新聞の8月13日付記事では、宇都宮市と芳賀町の関係、費用対効果などを総合的に判断した結果、全線開業が妥当と判断したと報道されている。

なお、宇都宮市の発表によると、JR宇都宮駅の西側区間について「宝木町1丁目・駒生1丁目付近、栃木県教育会館」までを整備区間とするとのこと。2024年に軌道事業の特許を申請し、2026年に工事着手、2030年代前半の開業を目標としている。「ネットワーク型コンパクトシティ」形成のためだ。将来の検討区間として、大谷石の産地として知られる大谷観光地まで延伸するそうだが、こちらの開業時期などは未定のようだ。さらにさかのぼれば、東武宇都宮駅付近から分岐して南下するルートもあった。

  • 工事の進む宇都宮東口停留場。1面2線の島式ホームや線路などが姿を現している

宇都宮市は日本で初めて、新規路線としてLRT路線を計画・開業することになる。もともと路面電車のなかった地域で、軌道を新設する事例としては、1948年の富山軌道鉄道伏木線(現・万葉線)以来、75年ぶりだという。

「ライトライン」が成功すれば、いままで併用軌道がなかった都市の交通改革に、雷のような衝撃を与えるだろう。LRTを新規建設する都市や、廃止された路面電車を復活させようとする都市が現れるかもしれない。宇都宮ライトレールが、富山ライトレールのような都市交通のお手本になることを期待する。