新入社員の皆様はじめまして。自律的変革コンサルタントの楠本和矢と申します。入社後まもなく半年が経とうとしていますが、社会人生活には慣れてこられましたでしょうか。私自身も遠い昔、入社したての頃は、どきどきしながら毎日過ごしていたことが思い出されます。

複数の企業で働き、社会人生活も折り返し地点を過ぎてきた中で振り返ると、駆け出しの頃は、コミュニケーションのとり方に色々と問題があったなと、たまに赤面してしまうことも多いのです。そして、人のせいにする考えは毛頭ありませんが、新人の時に「こんなことを教えてもらいたかったなあ」ということも沢山ある訳です。

特にそのように感じるのは、「顧客や上長などに対するコミュニケーションのあり方」です。それは単に、敬語の正しい使い方とか、お辞儀の角度とか、そういうことではなく、「相手に対してどの様な気持ちを持って、具体的にどう振る舞うべきか」ということ。当たり前にできるようで、実は全くそうではないことの典型です。

ここで、私が提供している「ビジネスマインドトレーニング」から抜粋し、新人の方が持つべき「ビジネスマインド」と、それに伴うあるべき振る舞い方について、皆さまにご紹介します。

  • 上司から信頼を得るには?

「信頼できる」と「信用できる」の違い

あるべき「ビジネスマインド」を身に付けてもらうために、先ず皆さまに認識してもらいたいことがあります。それは「信頼」と「信用」の違いです。それらの違いを簡単にご説明すると、

「信頼」とは、人柄や姿勢で生み出されるもの。
「信用」とは、仕事の成果で生み出されるもの。

お得意先から「キミのことを、今はまだ『信用』はできないけど『信頼』はしているよ」と言われたとすると、ちょっと語感的に違和感があるかもしれませんが、意味合いは通っています。

話を戻しましょう。まだ仕事を覚える段階の新人が、いきなり仕事で大きな成果を出して、「信用」を得ようとしても難しいでしょう。そもそも、そのような仕事を得られなければ、いつまで経っても「信用」を得ることはできません。だからこそ、最初は「信頼」を積み重ね、成果を上げるチャンスをもらうことに注力しなければいけないのです。

入社後半年近くが経ち、既に実感されている方も多いかと思いますが、ビジネスの世界は、思った以上に「ウェット」な世界です。論理的な正しさは勿論重要ですが、基本は人間関係がベースにあります。

「実力さえあれば、どれだけ生意気でも、個性的でも認められ、出世できる」というのは、大多数の組織において幻想と言えるでしょう。それが成立するのはゆるいドラマの中だけ。妙な個性の主張や、過剰な自信を示しても、損するだけで何のメリットもありません。信頼を得て「実力」を示し、裏付けとなる信用を得れば、幾らでも個性を発揮すればよいのです。

逆にいうと、「信頼される」ことの重要性に気付かなかったり、努力を怠ったりすると、信頼が得られないばかりか、ネガティブな「レッテル」を貼られる危険性があります。レッテルとは、ある人物に対して、一方的・断定的に人格や能力などの評価をつけることを指します。人間の「先入観」とは、相当粘り気があり、一度生まれたネガティブなイメージは、なかなか払拭できないものなのです。

信頼されないと、いい仕事が得られず、いい仕事が得られないから、「実力」がずっと高まらない……という悪循環に陥ることだけは、何としてでも避けるべきです。

相手から「信頼」を得るための4つの切り口

ではここから、信頼を得るべき特に重要な相手である、顧客や上司先輩に対して、どの様なマインドを持ち、コミュニケーションを図っていくか、そのヒントを「4つの切り口」ごとに幾つか紹介していきましょう。

(1)相手に対する敬意

皆さん、「返報性の法則」をご存知ですか? 簡単に言うと、相手に対して好意や敬意を示せば、相手からも、同じように思われる可能性が高まる、という人間の心理です。これは、世界で最も著名な社会心理学者で、アリゾナ州立大学名誉教授のロバート・チャルディーニ氏が「影響力の武器」という名著で提唱されているものです。

相手から、人として「信頼」されようとするなら、先ずは自分からその相手に対して「信頼していること」を積極的に示すことが必要。これを聞いて、「そりゃ顧客や上司に対してはリスペクトしてますよ」と、当たり前のように思う方も多いかと思いますが、いくら心で(本当に)そう思っていたとしても、それが相手に「伝わらなければ」全く意味がありません。ここで伝えたいメッセージとは「言葉で積極的にその気持ちを示す必要性」です。これは、4つの切り口に共通して言えることです。

例えば、自分のお得意先様に対してどうすべきか考えてみましょう。業界で名を馳せ、業績を伸ばしていること、志を持って取り組まれていることなど、新人である貴方にとって(新人以外でもそうですが)、尊敬できる部分はきっと沢山あるはずです。先ずはそれを見極め、言語化して下さい。

当たり前の様ですが、そういうことを意識せず、分かりやすく言語化できることはありません。そして、それをたまにでいいので、先様に対して直接お伝えする、ということです。

例えば、「〇〇社様は、我が社にとって誇りとも言えるお得意先様なので……」とか「〇〇様のお仕事に対する△△のようなこだわりには、いつも敬服しております」などといったイメージです。これは、その場限りで発せられる「お世辞」とは違います。しっかりと相手を見ているからこそ、出てくる言葉です。これは、対お得意先様だけでなく、上司や先輩に対しても同じことをするべきでしょう。

私自身が「受け手側」の立場になることもあり、よく分かるのですが、こういうことをたまに言ってくれる方に対しては、「自分としっかり向き合ってくれている方だ」と、間違いなくポジティブな感情を抱きます。ですので私自身も、お得意先様に対して抱いている敬意は、必ずどこかのタイミングでお伝えするようにしています。本当にそう思っているからであり、思っているなら、伝わらなければ意味が無いと思うからです。

  • 自律的変革コンサルタントの楠本和矢氏

(2)頂いた機会への感謝

仕事というのは、必ず相手がいるものです。相手から何らかの機会を頂き、その対価を頂戴して成立します。「私が与えた機会によって、あなたは/御社は収入を得ることができるだろう」「ビジネスパーソンとして信用されるチャンスが得られるだろう」「自らを研鑽する機会にもなるだろう」……仕事を依頼する相手は、いちいち口には出すことはしませんが、あなたに対して潜在的にその様に思っているはずです。

ですので、その様な気持ちを持つ相手に対して「感謝の意」をきちんと伝えると、当然、我が意を分かってくれているな、となり、信頼に繋がっていくはずです。逆にそれがないと、傲慢不遜な人物だ、恩知らずな人間だと密かに思われてしまう恐れがあります。そんなことを指摘してくれる人はいないので、気を付けないと、いつの間にかあなたから離れていきます。ですので、こちらも相手に伝わるように、言葉として表現していけなければなりません。

ここでは、自分の上司に対してどうすべきか考えてみましょう。先ず、持たなければいけないマインドとは、上司から仕事をもらえていることを、当たり前だと思わない、ましてや「面倒な仕事を押しつけられた」などと思わないことです。

勿論、世の中の上司全員が、人格的に出来た存在かというと、そうでもありませんので、実際、適当な依頼を出してくる場合もあるでしょう。しかし、若手の内は、どんな小さい仕事でも、学びや気付きがあるものです。ですので、仕事を依頼してもらったら、それを当たり前のことと思わずに、「先ずは」難色を示さずポジティブな反応を示すことが重要です。

そして、本当に気付きがあれば「この前頂いたお仕事ですが、〇〇の面で本当に学びになりました」と、上司に伝えてあげることです。そうすると、上司としても依頼の甲斐があったと思うと同時に、部下からそういうポジティブな反応をまたもらいたい……と思うようになり、学びのある仕事を与えようとする「力学」になっていきます。

注意点としては、気付きのない、つまらない仕事だったなら、無理にポジティブに伝える必要はないということ。上司を勘違いさせてはダメです。この方法は一例ですが、早期に信頼を勝ち得る人は、それ以外の方法も含めて、上司の心理を捉えることで、部下側から上手くコントロールしているのです。

(3)高みを目指す情熱

お得意先様も上司も、口には出さないまでも、潜在的に「より良いアウトプット」を期待しているものです。もしあなたが上司の立場になったとして、部下に指示を与えても、毎回最低限のことしかやってこなかったり、業務のスキルを少しでも高める努力が全く感じられなかったりすると、どの様に感じますか? そのような部下に「信頼」を感じ、チャンスを与えようと思うことは恐らくないでしょう。私自身も、上司として、正直そう感じてしまったこともあります。

上司に、「ああこの人は、現状維持しかできない/やらない」と思われてしまうと、まさに本人にとって、悪循環の始まりです。上司は、この人の成長のために、いい仕事を与えてあげよう、と一切思わなくなり、言葉や態度には出さないまでも、その人は、ルーティンをこなす作業員として扱われ始めます。成長意欲がない本人にとっては、それで問題ないかもしれませんが、成長意欲のある新人が入ってきた瞬間に、作業員しての立場もすぐに失われます。

勿論、与えられた指示に対して、過剰に取り組む必要はありませんし、やり過ぎることもある意味問題ですが、本当に少しでも成長意欲があるならば、少しずつでも、より良い方法を模索したり、出来ることを増やす努力を行い、高みを目指す姿勢を示したりしなければ、誤解を与えてしまうことになりかねません。

ですので、指示や依頼を受けたことに対して、言われたことだけをこなして完了、とするのではなく、少しでも目的の達成に向けたアイデアを考えて「追加」したり、仮により良いアイデアがあれば、積極的にオプションとして「提案」したりすることです。

先ずは指示通りの内容をしっかりこなしてからやるのが大前提ですので注意。それを疎かにしてしまうと、指示を無視して勝手に別のことをやってきたと思われてしまいます。もし、進行そのものについての懸念事項があれば、早めにきちんと伝えましょう。

また、指摘やアドバイスについて、前向きに反応することも重要です。疑問点や本意と異なる部分があっても、遮ったり応酬したりせず、先ずは「ご指摘有り難うございます」と受け止めることです。そしてアドバイスされたことについては、基本的には必ず実践することです。無意味にスルーされると、二度とアドバイスされなくなります。

(4)常に気が利くこと

上司やお得意先様が気付かないことや、手が回らないことをさっとサポートしてくれたり、指示ではフォローしきれないことを、自分で考えて動いてくれたりすると、上司やお得意先様として、業務的に大変助かるだけではなく、一緒に仕事を進めるパートナーとしての「頼りがい」を感じるのは当然です。

これは、経験を通じた、業務に関する知識の深さとは関係ない、仕事の準備や、ちょっとした作業、人とのコミュニケーションなどでも、充分に発揮できるものです。

勿論、最初のうちは、言われたことをこなすことに精一杯かも知れませんが、少しでも余裕が生まれ始めたら、慣れてきてラクだ・・と思うのではなく、上司やお得意先様から、「気が利く人」と思われるために、視野を広げてみましょう。

その上で、「気の利いた人だ」思われる基本として、何かの行動をはじめる前に、先ずは一瞬立ち止まり、「3つのことを考えるクセ」を付けるという頭の使い方をお勧めします。

一つ目のクセは、その行動を始めるための「必要な準備」はあるか? と考えることです。パッと行動を始めてしまうのではなく、何を揃えないといけないか、何を確認しないといけないか、どこに連絡しないといけないか……など、冷静に考えると、色々やらなければいけないことが見えてくるはずです。

次に、その行動に伴い「同時にやるべきこと」は? と考えることです。仕事の生産性を高めようとすると、一つのアクションで色々なことを片付けた方がいいに決まっています。その行動と一緒にできることとは何か、その行動の前後で合わせてできることとは何か? と考えてみて下さい。

最後は、その行動をすることの「想定リスク」を考えることです。何でも無いと思える仕事が続いていたとしても、リスクを考える習慣がついてない、いつか必ず、思いもよらない落とし穴にハマります。その行動をすることで、逆に毀損するものは何か、その行動をすることで、起こり得る事象とは何か、その行動をすることで、出来なくなる行動とは何かなど、想像してみることが大事です。

大事なこととは

新入社員が、ビジネスパーソンとして「信頼される」ためのポイントについて、幾つかご紹介を致しました。いろいろと、細かい内容まで例示致しましたが、大事なこととは、顧客からも、上司からも「一緒にいて気持ちよい」と思われるように、行動するということです。

是非、いち早く「信頼」を獲得し、様々なチャンスを得て、成果を上げていく好循環を作ってもらいたいと思います。

著者プロフィール:楠本和矢(くすもと・かずや)

自律的変革コンサルタント
HR Design Lab.代表 兼 博報堂コンサルティング執行役員。「自律的変革」をキーワードに、戦略策定・運用の仕組み構築、人的資本経営の「改善KPI」設計、人材育成計画の策定支援等を専門に行う。