二宮和也主演の映画『TANG タング』が現在公開されている。イギリスのハートウォーミング小説『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を映画化した同作では、ゲーム三昧で妻に捨てられた、ダメ男・春日井健(二宮)と、記憶を無くした不良品ロボット・タングの冒険を描く感動のファンタジー。

今回は、2年ぶりの映画主演となった二宮にインタビュー。作品から波及し、二宮の仕事論や演技に臨む姿勢、今作の裏の意外な苦労など、さまざまな話が飛び出した。

  • 二宮和也

    映画『TANG タング』で主演を務めた二宮和也

■あんまり自分の役に共感したことがない

――今作では、健が今まで逃げていたものと向き合う様子が描かれています。二宮さんご自身が苦手、あるいは避けていたものを乗り越えた経験はありますか?

僕はこの仕事自体が苦手な分野だったんです。人としゃべるとか、コミュニケーションをとるといったことがあんまり得意じゃなかったので。小さい頃からゲームのコントローラーをずっと握っていたから、操作性がまったく利かない人たちと仕事をするのも、集団行動もそんなに得意じゃなかったし。でも四半世紀もやり続けきて、苦手だったからこそ長生きさせてもらえたように思いますし、ようやく「これを見てくれる人は、もっとこういうものが見たいんじゃないかな」といった人の思いを考えられるようになってきて、それは仕事と向き合ったから得られたものかなと思います。

――二宮さんが仕事を始めたのは中学生くらいの時かと思いますが、初めて“仕事”だと認識したのはいつだったのでしょうか?

けっこう早かったです。仕事を始めて2カ月くらいかな? 初めて出たのはV6のコンサートで、当時は真ん中にステージがあって八の字みたいな形になっていたんですが、その八の字をチャリンコをこいで回るという奇妙奇天烈な役割で(笑)。それを一夏やり続けた後に、みんな一列に並んで、一人ずつギャラをもらうんですよ。その時の茶封筒に「二宮和也」という判子が押されているのを見て、妙な嬉しさがありました。こんな風に自転車をこぎ続けてお金がもらえる人生で、これが貯まっていったらすごいなと思っていました(笑)

――苦手だけど仕事に向き合ってきたとか、ゲームが好きだとか、健との共通点もあったように思います。演じていて共感した部分はありましたか?

共感は、あったかなあ? だらだらしてる感じはわかるんですが、僕自身は思ったことは言うし、やりたくないことはやらないというタイプなので、けっこう逆なんです。だから健という役を動かすには、自分と逆のことをやり続ければいいのかなとは思って演じていました。ただ今回は撮影現場にはいないタングの存在もありましたし、本当に監督に丁寧に演出をつけていただいていたので、その演出になるべく速いタイムでレスポンスしていくことが1番大切でした。

――二宮さんの演じる役は、ちょっと繊細に悩んでたりするものが多いというイメージが勝手にあるんですが、ご自身としては全然違うんでしょうか?

僕はあんまり自分の役に共感したことはないんです。自分のことを考えるのって、ちょっと時間の無駄じゃないですか?

――そこまで言い切れるのはすごいですね。

本当に自分に興味がなくて(笑)。だから、どう思われてもいいなというところはありました。今回演じた健にしても、30年以上生きている人間の性格を2~3個の言葉で説明するのも嘘くさいし、いろんな人から見える健の姿があるだけ。眠たい時も機嫌がいい日もあるだろうし、ズバッと性格を表すようなことは、もうしなくてもいいんじゃないかなあ、と。その上で、僕は健と周りの人間との関係性をプレゼンし続けていく感覚です。この人と接する時はちょっと声が上ずってるから緊張してるのかなとか、この人の時は取り繕いたいのかなとか、動きが大きくなってるから嘘をついているのかなとか、そういった場面場面の感情だけでいいんじゃないかな。だからどの作品もそうですけど、僕は共演している皆さんに役を作り上げてもらっているんだと思っています。

――気持ちが落ちてしまうこともあると思うんですが、そういった時には切り替えはされるんですか?

僕は興行の数字で勝った負けたが存在していても、あまり気にしてないです。仮に負けたとしても、次勝てる算段が自分の中で見えているんだったら、ある程度負けも必要だなと思っています。上り幅でなく、レンジで勝負したいタイプなんです。例えば一つの仕事で数字が良くなくても、次の仕事で数字が取れたりして、あるレンジの中で動いていられれば、あんまりストレスがかからずに生きていけるので、一喜一憂しない。負け込むとさすがに嫌でしょうけど。

お芝居一本だけ見ても、作品の出来が良ければ必ず数字が良くなるということでもなく、自分で調整できるものでもないし、結果は絶対に出る。その上で、周りのプロの方達と「それだったら今度はこうしましょう」と話していけるので、もしかしたら勝手に切り替わっているというのが現状かもしれないですね。最近だと歌の活動を再開させるとか、仕事を切り替えて勝負できる幅もいっぱいあります。

■今は熱量のある人がフィーチャーされやすい時代

――健はタングとの出会いで変化、成長して行くと思うんですけど、ご自身は大人になってからの相棒はいますか?

相棒ということではないですが、それこそデジタル的な新しいものに触れた時、一流の方に教えてもらったり、支えていただいていたりしていることは感じます。今やっているYouTube(「ジャにのちゃんねる」)も有識者に支えられていて、自分だけで覚えようとしたら面倒なことが起きるはずじゃないですか。大人になればなるほど、新しいことに出会えなかったりするんですけど、定期的に出会いがあるのもありがたいし、教えてくれる方もいるので、今の時代にフィットできているように見えています。

たぶん、これまでだったら番組でも「電車、乗りますよ」「え~! 乗るんですか!?」みたいな浮世離れ感のあるトークが使われることが多かったですけど、今は熱量のある人がフィーチャーされやすい時代になっているし、好きな人たちと集まって楽しんでいるところこそが見てもらえる。色々な人たちが発信できる世の中になって、危機感も覚える時代に、こうやって面白がって新しいことを学ぶことができて、支えてくださっている人たちに感謝です。

――『TANG タング』では終盤に涙を流しながら話しかけるシーンもあり、あれだけ思いのこもったお芝居をつなぐには大変だったのではないでしょうか?

あれは……大変でしたね。現場が圏外だったんですよ。僕はあの時、YouTubeの編集をしていたのにデータが全然落とせなくて。毎回撮影が終わったらちょっとずつ落として、と地獄のような展開が……。

――撮影に加えて裏側の苦労があったんですね。

撮影はもちろん大変ですけど、もうとにかくYouTubeが間に合わない(笑)。絵美(満島ひかり)に「出ていけ」と言われてる撮影の時ぐらいに、3本目ぐらいまでの投稿をこっそりしていて、ついにバレた! となったのが、今回のロケ先のホテルだった覚えがあります。それくらい、裏側でずっとYouTubeが進んでいた重要な時期だったんです。みんなをつかまえにいくというロケの編集をしてて、めっちゃ大変でした。だからこそ『TANG タング』の撮影でも、素直に泣けました。

あのシーンでは、僕はどうしても「疲れちゃったよね」と言いたかったんです。台本にはなかったんですが、「健って、タングのことをそんなに人間的な扱いをしていたんだ」いう驚きが欲しくて足していただきました。実はもう誰よりも1番近くに寄り添っていたんだということを表現したかったんです。ただそういった状況で、本当に疲れていたので、改心の「疲れちゃったんだよね」が出せたと思います(笑)

――なるほど…改めて今回感じた作品の魅力も教えていただければ。

生きづらい世の中になってしまい、さすがにもう「頑張っていこう」「みんなで前を向いて歩いていこう」というメッセージがしんどいなあと思っている自分がいたので、0から1に進む物語じゃなくて、0に戻る物語になればと思っていました。観ている方たちもそんなに頑張りすぎず、失敗しても必ず0には戻れるということ、それで0に戻ったあとに自分がどちらに行きたいのかが大事だということが伝わったら嬉しいですし、まぶしすぎず熱すぎず、あたたかい映画になったんじゃないかなと思っています。

■二宮和也
1983年6月17日生まれ、東京都出身。1996年より芸能活動を開始し、1999年には嵐のメンバーとしてCDデビューを果たす。近年の主な出演作にドラマ『ブラックペアン』(18年)、『マイファミリー』(22年)、映画『検察側の罪人』(18年)、『浅田家!』(20年)など。公開待機作に『ラーゲリより愛を込めて』(12月9日公開)がある。

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