特殊詐欺の手口が巧妙化し各地で被害が相次ぐなか、茨城県警察本部とNTT東日本 茨城支店の連携によるニセ電話詐欺被害防止の取り組みが進められている。NTT東日本が茨城県警から「ニセ電話詐欺被害防止アドバイザー」として委嘱を受けた背景、そしてニセ電話詐欺対策について伺った。

  • 茨城県警とNTT東日本 茨城支店の連携によって進められているニセ電話詐欺対策

地域によって異なる「特殊詐欺」の名称

「特殊詐欺」は、子どもや孫などの身内、大手企業社員、警察官や市町村職員などの公的機関になりすまし、主に高齢者から現金等をだまし取る犯罪を指す。2004年11月までは「オレオレ詐欺」と呼ばれていたが、犯罪の手口が多様化し実態を表わしているとは言えなくなり、同年12月、警察庁が新たに「振り込め詐欺」と命名した。

しかし、次第にその手口は振り込みを迫るだけに留まらなくなり、2013年に再び名称を募集。同年5月に「母さん助けて詐欺」「ニセ電話詐欺」「親心利用詐欺」が選出される。だが実際は被害者が母親とは限らないことから、警察庁では「特殊詐欺」、各県警は「ニセ電話詐欺」や独自の名称を使用し、被害防止の取り組みを進めている。茨城県警察本部が採用しているのは「ニセ電話詐欺」だ。

  • 2021年中のニセ電話詐欺の被害件数と被害額

2020年9月、このニセ電話詐欺の被害を防ぐため、茨城県警はNTT東日本 茨城支店および協力会社に対し「ニセ電話詐欺被害防止アドバイザー」の委嘱を行った。ニセ電話詐欺の手口、NTT東日本が委嘱を受けた経緯、そしてニセ電話詐欺被害防止アドバイザーの取り組み内容について、茨城県警察本部 刑事部組織犯罪対策課 ニセ電話詐欺対策室長 兼 生活安全部生活安全総務課管理官 警視 和田健夫氏、茨城県警察本部 刑事部組織犯罪対策課 兼 生活安全部生活安全総務課 警部補 田村祥一氏、NTT東日本-南関東 茨城支店 設備部 エリアコーディネート担当 担当課長 藤代 武 氏、NTT東日本-南関東 茨城支店 設備部 水戸サービスセンター 金川雅彦氏に聞いていこう。

  • NTT東日本 茨城支店と協力会社に対して行われている茨城県警の講習会

「ニセ電話詐欺被害防止アドバイザー」として活動するNTT東日本

「きっかけは、2020年7月にNTT東日本茨城支店様から連絡をいただいたことです。『固定電話がニセ電話詐欺に利用されている実態がある』という内容とともに、『ニセ電話詐欺の被害防止に協力したい』という申し入れがありました。大変ありがたいことです。茨城県警としても、固定電話での対策は必要不可欠と考えておりましたので、『ぜひお願いします』ということで連携を行うようになりました」(茨城県警 田村氏)。

  • 茨城県警察本部 刑事部組織犯罪対策課 兼 生活安全部生活安全総務課 警部補 田村祥一氏

茨城県警のニセ電話詐欺対策室で防犯を担当する田村氏は、取り組みの経緯をこのように説明する。NTT東日本は電話の故障や相談などで顧客と接する機会が多く、会話の中、高齢者から「怪しい電話があった」「こういう電話は詐欺なのではないか」といった情報が入りやすい。そこでNTT東日本にいる警察関係者のOBを通じて茨城県警に取り次ぎ、取り組みを始めることにしたという。

「固定電話が犯罪に利用されているという現状が、とても悔しいのです。なにか我々も被害防止のお手伝いができないかと考えたところ、留守番電話設定が有効だという話を聞いたので、県警さんが使っているチラシも交えながら説明をすることにしました」(NTT東日本 藤代氏)。

  • NTT東日本-南関東 茨城支店 設備部 エリアコーディネート担当 担当課長 藤代 武氏

こうしてNTT東日本 茨城支店は茨城県警から委嘱を受け、「ニセ電話詐欺被害防止アドバイザー」として活動を進めている。具体的には、電話工事・故障修理時の訪問機会を活用し、ニセ電話詐欺被害対策チラシの配布、留守番電話設定の働きかけ、犯行手口とその対策に関するアドバイスを行うというものだ。この2年ほどで、すでに約6万枚のチラシを配布しているという。

これほどまでに固定電話が狙われるのにはいくつか理由がある。ひとつは「不特定多数の方を狙えること」。もうひとつは「対面しないので、他の詐欺よりもリスクが低いこと」だ。近年はサイバー犯罪なども急激に増加しているため、メールやSNSのほうが安全とは言い切れないものの、このようなメディアをあまり使わない高齢者でも固定電話は利用しているため、犯罪者に狙われやすいという背景がある。

  • 特殊詐欺で最初の犯行に使われたツールのうち、約73.7%が電話だ

ニセ電話詐欺の被害に遭わないための心がけ

すでにニセ電話詐欺の被害は広く知られており、「自分は大丈夫」と思っている方も少なくないだろう。だがニセ電話詐欺対策室の室長を務める和田氏は、「知識として知っていても、誰でも騙される可能性がある」と説く。

「人間は突然の事態になかなか対応できません。大事な親族から『突然病気になった』『今日中にお金が必要』と言われると、何とか助けてあげたいと思ってしまうのが人間です。そういう、人が持つ当たり前の気持ちを利用していますから、いざ犯人グループのいろいろな人から巧妙な電話をかけられてしまうと、どうしても騙されてしまう方が一定数いらっしゃるのです」(茨城県警 和田氏)。

  • 茨城県警察本部 刑事部組織犯罪対策課 ニセ電話詐欺対策室長 兼 生活安全部生活安全総務課管理官 警視 和田健夫氏

では、ニセ電話詐欺の被害に遭わないためには、どのようなことを心がけたら良いのだろうか。

「日頃からご家族で『こういう詐欺がある』と話題にしていただくことです。『当然お金が絡む話になったときには、その場で決めず、絶対に相談しよう』と。あとは、1年に1回しか連絡しないのではなく、なるべく短い間隔でご実家などに連絡することです。日頃から連絡を取り合うことが非常に大切だと思います」(茨城県警 和田氏)。

  • 「いったん電話を切って必ず誰かに相談」するよう、和田氏は強く述べる

茨城県では、各市町村の自治体、関係団体、民生委員、女性団体、そして金融機関など、さまざまな組織とともにニセ電話詐欺の撲滅に向けて取り組んでいるそうだ。これによって社会全体で詐欺撲滅の気運を高め、徐々に被害を減らしていきたいと述べる。

「やはり警察だけでは対策にも限界があります。自助のレベルはもちろんのこと、団体や企業のみなさんの協力のもとで共助のレベルをもっと高められるよう、一緒に模索していきたいなと思っております」(茨城県警 田村氏)。

  • 還付金を振り込んでもらう手続きをしているつもりで、逆に振り込ませるという手口もあり、参加者を驚かせていた

はっきりとした因果関係が証明されたわけではなく、またコロナ禍の影響も否定できないものの、NTT東日本との連携が始まってから、茨城県ではニセ電話詐欺の被害件数が若干減少傾向にあるという。またテレビ取材など情報発信の機会が増したそうだ。

「要因は複合的ですが、NTT東日本さんは間違いなくなんらかの形で貢献いただいていると思います。今後もより多くのみなさんに、ニセ電話詐欺対策についてお伝えしていきたいと思います」(茨城県警 和田氏)。

特殊詐欺対策アダプタによる物理的な対策も

一方、NTT東日本も安心して固定電話を使ってもらうため、独自のニセ電話詐欺被害対策を進めているという。

「NTT東日本では、『特殊詐欺対策サービス』を開始しております。通話録音機能付き端末(特殊詐欺対策アダプタ)を利用する者で、NTT回線とナンバーディスプレイをご利用中であれば、実質無料で使うことができます」(NTT東日本 金川氏)。

  • NTT東日本-南関東 茨城支店 設備部 水戸サービスセンター 金川雅彦氏

これは、録音した通話データをNTT東日本のクラウドサーバ(特殊詐欺解析サーバ)に転送し、音声認識エンジンと言語解析エンジンを用いて解析するというもの。特殊詐欺であると疑われる場合には、本人や親族が事前に登録した電話番号やメールアドレスに注意を促す連絡が入るという。しつこい勧誘電話や迷惑電話の着信を拒否したり、家族や友人など特定の番号を登録して録音、解析の対象外とすることも可能だ。

  • NTT東日本の「特殊詐欺対策サービス」の概要

これほどまでにNTT東日本が全面的に協力しているとなると、逆にNTT東日本を語る詐欺の発生も懸念される。これに対してNTT東日本では、偽電話詐欺防止アドバイザーの身分証を用意し、さらにNTT東日本のロゴが入った自動車やバケット車で訪問することを心がけているそうだ。

「NTT東日本さんにしろ我々警察にしろ、本当に怪しいと思ったらいつでも連絡していただきたいと思います。実際にそういうものがいるかどうか、すぐに確認いたします」(茨城県警 和田氏)。

最後に、茨城県警からニセ電話詐欺の被害に遭わないための心得をいただいたので、ご紹介しておきたい。

「犯人と話さなければ詐欺に遭うことはありません。まずは留守番電話設定をしていただき、電話にはすぐに出ない、を心がけていただきたいと思います。録音された内容を確認された上で対応していただくことが一番大事だと感じております。それでも万が一話してしまい、お金に絡む話をされた場合は、必ず親族あるいは警察の方にご相談を。そして『怪しい』『これはもう明らかに詐欺だ』と感じたら、すぐに110番通報してください」(茨城県警 和田氏)。