相鉄・東急直通線のレールがつながり、7月23日に新横浜駅でレール締結式が行われた。日吉~羽沢横浜国大間の相鉄・東急直通線が開業した後、日吉~新横浜間は東急新横浜線、新横浜~西谷間は相鉄新横浜線と案内される。相鉄新横浜線は羽沢横浜国大~西谷間が先行開業しており、相鉄・JR直通線として運用されている。

  • 相鉄・東急直通線の関連路線図(地理院地図を加工)

2023年3月の相鉄・東急直通線開業後、相模鉄道や東急電鉄などによる相互直通運転が開始される。ところで、相鉄・東急直通線は相鉄本線と東急東横線・目黒線の利用者にとって待望のルートといわれている。具体的にどんな利点があるだろう。

■相鉄線から新横浜駅へ28分短縮、東急線からも11分短縮

相模鉄道と東急電鉄にとって、共通する利点は新横浜駅につながること。自社の沿線に東海道新幹線との乗換駅が加わる。両社の沿線から名古屋・京都・大阪方面、さらには山陽方面へ乗換え1回で行けるようになる。

相鉄沿線から東海道新幹線を利用する際、現在は横浜駅でJR京浜東北線に乗り換え、東神奈川駅でJR横浜線に乗り換える。運が良ければ横浜駅から新横浜駅へ直通する電車がある。あるいは横浜駅で横浜市営地下鉄に乗り換える。相鉄線の西谷駅から新横浜駅まで、どちらのルートも所要時間は約30~35分かかる。

相模鉄道の公式サイトによると、相鉄・東急直通線の開業後、大和駅から新横浜駅までの所要時間は約19分になるという。乗換検索アプリで調べたところ、大和駅から羽沢横浜国大駅まで現在の所要時間は約13~14分。差し引いて、羽沢横浜国大駅から新横浜駅までの所要時間は約5~6分になる。西谷駅から羽沢横浜国大駅まで、現在の所要時間は2分だから、西谷駅から新横浜駅までの所要時間は約7分。現在の約35分から、相鉄・東急直通線の開業後は約7分になると予想できる。

相鉄線の利用者のうち、横浜駅に近い人は引き続き横浜駅経由のルートを使うかもしれないが、西谷駅から郊外側の人々にとっては、新横浜駅まで約28分の短縮になる。もちろんJR線を経由しない分、運賃も安い。

東急電鉄から東海道新幹線を利用する場合はどうか。東急電鉄の公式サイトによると、朝ラッシュ時の渋谷~新横浜間は約30分になり、現在の菊名駅経由より11分短縮されるという。乗換検索アプリて調べたところ、渋谷駅7時56分発の通勤特急に乗った場合、菊名駅乗換えで新横浜駅まで所要時間41分となった。これが算定基準になっているようだ。ただし、日中時間帯はさらに早く、渋谷駅から31分で新横浜駅に着くパターンもある。

ともあれ、渋谷駅7時56分発の通勤特急は日吉駅に8時14分に到着するから、渋谷~日吉間の所要時間は18分。渋谷~新横浜間を直通で約30分というなら、約18分を差し引いて、日吉~新横浜間の所要時間は約12分となるだろう。現在の菊名駅乗換えだと、日吉駅から新横浜駅まで朝ラッシュ時で最短16分だから、約4分短縮されることになる。実際にはもっと早く行けそうな気がする。日吉駅で横浜方面の列車から新横浜方面の列車に乗り換える想定かもしれない。

もっとも、東急電鉄と新横浜駅のアクセスについては、菊名駅での乗換えがなくなるという利点のほうが大きい。東横線のホームは1階、JR横浜線のホームは2階にあり、乗換えは3階のコンコースを経由する必要がある。荷物を持った旅行者にとって、面倒な動線だろう。

東急電鉄の路線網において、すべての駅から新横浜線が便利というわけでもない。東横線・目黒線から乗換え1回の範囲が便利になるだろう。大井町線や多摩川線からも便利だが、田園都市線溝の口~中央林間間の範囲だと、現在のあざみ野駅乗換えで横浜市営地下鉄、あるいは長津田駅乗換えでJR横浜線を利用したほうが近い。大井町線や池上線から東海道新幹線を利用する場合、JR京浜東北線で品川駅に出るという選択肢がある。田園都市線・東横線・目黒線も、JR山手線で品川駅に向かうルートとの比較になる。

■相鉄線から都心へ直通、文教エリアも直結

では、新横浜駅をまたいで直通する場合はどうか。

相鉄線の利点はもちろん都心直通であること。現在も相鉄・JR直通線で渋谷・新宿方面に行くことができ、同一ホーム乗換えで池袋駅をはじめ、埼京線や湘南新宿ラインが停車する各駅へ行ける。大崎駅でりんかい線に乗り換えることで、東京臨海副都心や千葉方面も便利になる。

ただし、渋谷駅までのルートで比べれば、相鉄・JR直通線は東側を迂回しているため、直線的に進む相鉄・東急直通線経由のほうが早そうだ。目黒駅までのルートも同様だろう。ただし、新宿駅へ行くなら相鉄・JR直通線のほうが有利かもしれない。東急東横線から直通する東京メトロ副都心線の駅は新宿三丁目駅で、新宿副都心エリアから少し離れている。

相鉄・東急直通線経由のルートは、渋谷駅や目黒駅から地下鉄へ、さらにその先の路線へアクセスできるところが魅力になる。東急東横線・東京メトロ副都心線経由の場合、東武東上線が新横浜駅へ乗入れを予定している。西武線は新横浜駅へ乗り入れないと報じられており、東横線の駅で同一ホーム乗換えとなる。東急目黒線経由の場合、都営三田線と東京メトロ南北線、その先の埼玉高速鉄道が新横浜駅へ乗入れを予定している。

新横浜駅の西側へ視野を広げると、いずみ野線沿線に散在する大学と都心のアクセスが便利になる。いずみ野線の終点である湘南台駅の西側には、慶応大学湘南藤沢キャンパスがある。慶応大学は東京・神奈川に6カ所のキャンパスを有し、すでに三田・日吉の両キャンパスが都営三田線と東急目黒線で結ばれている。相鉄・東急直通線の開業により、湘南藤沢キャンパスを加えた3つのキャンパスをつなぐ路線ができる。

湘南台駅周辺には、他にも多摩大学、日本大学、文教大学がある。緑園都市駅周辺にフェリス女学院大学もある。これらのキャンパスに通う大学生や教職員の生活圏が広がることだろう。

■相鉄線に向かう需要の創出はこれから

相鉄・東急直通線の新綱島駅(当時仮称)決定を受け、横浜市は綱島駅東口駅前地区の第一種市街地再開発事業を決定した。綱島駅東口、綱島街道、新綱島駅周辺を一体的に開発する。綱島駅と綱島街道までの区域に地上27階建てのビルが建つ。低層階は商業施設とオフィス、高層階は約350戸の共同住宅となる。その北側にも商業施設とオフィスを備えた低層のビルが建てられ、2つの建物の間に駅前広場が整備される。

綱島街道から東側の新綱島駅周辺で、「新綱島駅周辺地区土地区画整理事業」も進行している。事業主体は東急グループで、こちらも高層棟と低層棟ができる。高層棟は地上29階建て・地下1階で252戸のタワーマンション。低層棟は地上7階建て相当で、1~3階を商業施設、4~5階を公共施設(文化センター)として使用する。綱島街道の両側にできる商業施設の2階同士をデッキで結び、綱島駅と新綱島駅を連絡する通路になる。

相鉄線側でも広範囲な再開発事業が進行中。「二俣川南口地区第一種市街地再開発事業」「海老名駅西口土地区画整理事業」「いずみ野駅北口地区リノベーション計画」「泉ゆめが丘土地区画整理事業」と、広範囲で「いずみ野線沿線駅前地区リノベーション計画」が進んでいる。成熟した東急沿線と、開発の余地が多い相鉄沿線が結ばれる。

東急沿線から相鉄線を利用するにあたり、現実的な目的地として、二俣川駅が最寄り駅の神奈川県運転免許センターがある。東急電鉄の路線網のうち、多摩川の西側に住むドライバーのほとんどがお世話になる場所だ。現在、田園都市線沿線からは中央林間駅で小田急江ノ島線に乗り換え、大和駅で相鉄線に乗り換えるルート、東横線からは横浜駅で相鉄線に乗り換えるルートが主となっている。

相鉄・東急直通線が開業すると、田園都市線沿線から二俣川駅へ行く場合、あざみ野駅で横浜市営地下鉄に乗り換え、新横浜駅から相鉄線という短絡ルートができる。東横線からも、横浜駅乗換えより新横浜駅経由のほうが短絡できる。

ただし、現時点でこれ以外に相鉄線に向かう利点は少ない。ショッピングもレジャーも東急沿線にそろっているため、わざわざ相鉄線に乗る理由はない。相鉄・JR直通線の開業時にも指摘したように、相鉄線方面の休日移動需要がない。直通線をチャンスとして、相鉄グループに集客設備を作ってほしかった。

ひとつのきっかけとして、2027年に瀬谷駅付近の米軍施設跡地で国際園芸博覧会(花博)が開催される。その後の恒常的な集客設備として、相鉄ホールディングスがテーマパークを検討したが、撤退した。しかし、横浜市はテーマパーク構想をあきらめていない。米軍施設跡地は東急田園都市線からも近く、東急グループの参画も期待したいところだ。

■期待は高まるも、厳しい船出になりそう

ニュースサイト「新横浜新聞」の6月1日付「<相鉄直通線>当初の需要予測から3割減を想定、加算運賃の上昇も」によると、横浜市議会にて、都市整備局は将来人口推計で鉄道事業者の需要予測を算出したところ、当初の見込みより約3割も減ると予測されたとのこと。理由は感染拡大による影響とされている。

そこで、整備主体の鉄道・運輸機構と、営業主体の相鉄・東急電鉄が支払う線路使用料を見直し、支払額を減額した上で、支払期間を1年延長する予定。運賃についても、相鉄側の加算運賃を30円から40円、東急側の加算運賃を20円から70円に上限変更する検討が始まっているという。

時間短縮と乗換え解消の利点も、運賃の高さで相殺されないかと心配になってきた。来年3月の開業に向けて期待が高まるものの、厳しい船出になるかもしれない。