7月21日の「JR留萌本線沿線自治体会議」で、JR北海道は「石狩沼田~留萌間を来年3月末で廃止、深川~石狩沼田間はその3年後、2026年3月末で廃止したい」と提案した。4市町は受け入れる方針で、早ければ8月にも回答するという。当初は廃止反対だったはず。なぜ受け入れる方向に変わったか。その逡巡と決断を振り返る。

  • 留萌本線恵比島駅。『すずらん』のロケで使用された「明日萌駅」のセットが残っている

留萌本線は函館本線の深川駅を起点とし、留萌駅を終点とする路線で、営業距離は50.1km。2016年12月に留萌~増毛間が廃止された。増毛駅は高倉健主演の映画『駅 STATION』(1981年)などのロケ地としても知られる。来年3月に廃止予定となった区間には、NHK朝の連続テレビ小説『すずらん』(1999年)のロケ地となった恵比島駅があり、現在も「明日萌駅」のロケセットが残っている。

■留萌本線の栄華と衰退を振り返る

留萌本線の開業は1910(明治43)年。留萌港付近の留萠(現・留萌)駅と函館本線深川駅を結ぶ路線として始まった。1921(大正10)年に増毛駅へ延伸。増毛は断崖絶壁に囲まれた土地で、鉄道が開通するまでのおもな輸送手段は船だった。留萠線(現・留萌本線)は孤立地区を解消する役割を担った。

1927(昭和2)年に留萠駅から北の羽幌駅まで、羽幌線が開業。おもに羽幌炭鉱の石炭と水産物の輸送を担った。1930年には、恵比島駅と昭和炭鉱を結ぶ留萠鉄道が開業する。留萠線は留萌港を中心に、石炭と水産物を輸送する役割を持っていた。現在も留萌駅付近はカズノコ加工工場が多い。ただし、留萌港におけるニシンの水揚げは減り、海外から留萌港へニシンが届くようになる。それだけ留萌市のカズノコ生産技術と生産量は大きい。

昭和の時代、沿線の人々にとって留萠本線は中核都市の深川、あるいはその先の旭川・札幌・函館・本州方面へ向かう路線だった。戦後の経済復興期以降、札幌方面から準急・急行列車も乗り入れた。前出の映画『駅 STATION』では、2両編成ながら満席のディーゼルカーが登場する。留萠駅付近もにぎやかだった。

しかし、国のエネルギー政策の転換を受けて、1969(昭和44)年に昭和炭鉱が閉山し、1970年に羽幌炭鉱が閉山すると、沿線の人口が減少する。1971年に留萠鉄道が廃止され、JR発足直前の1987年3月に羽幌線が廃止される。2つの支線から留萠本線へ流れてくる旅客と貨物の流通が減っていった。

■JR北海道の経営問題で「整理対象」に

JR北海道は経営努力と国の支援によって鉄道路線を維持してきた。しかし、2011年頃から脱線事故や列車火災といった重大事故が続き、保線予算を削り、保線員の技術継承が進まないなどの問題点が明らかになった。2014年、レール検査データの改ざんが発覚し、国土交通省から鉄道事業法違反として告発された。

これらの不祥事を受けて、北海道と有識者による「JR北海道再生促進会議」が発足する。北海道新幹線の開業を控え、JR北海道に対し、新幹線と安全管理に事業を集中するよう提言された。地域の交通体系を見直し、鉄道にこだわらない最適な交通体系が必要との認識も示された。ここからJR北海道の不採算路線整理が始まる。留萌本線留萌~増毛間、日高本線鵡川~様似間、石勝線新夕張~夕張間はバス転換の方向で協議が始まり、後に鉄道廃止となった。

2016年、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区について」を発表。この中で、「輸送密度200人/日未満」「1列車当たりの平均乗車人員が10人以下」の線区として、札沼線北海道医療大学~新十津川間、根室本線富良野~新得間、留萌本線深川~留萌間が挙げられた。JR北海道はこれらの路線に関して、「営業赤字のほかに老朽土木構造物の更新費用が膨大」として、「持続可能な交通形態とするため、バスなどに転換したい」と示した。

  • 留萌本線は段階的に廃止される見込みに(地理院地図を加工)

札沼線北海道医療大学~新十津川間は2018年10月に沿線自治体と廃止で合意し、2020年5月に廃止された。根室本線富良野~新得間は2022年1月にバス転換で合意している。留萌本線の段階的な廃止が沿線自治体に容認されると、輸送密度200人/日未満の路線はすべて鉄道廃止で決着する。

■沿線自治体の逡巡

留萌本線の沿線自治体の動きを追ってみよう。JR北海道の意向を受けて、2017(平成29)年1月に「北空知JR留萌本線問題検討会議」が発足した。参加者は深川市、妹背牛町、秩父別町、北竜町、沼田町の首長と議会議長、商工会議所会頭、商工会会長、JA組合長。この中に留萌市は入っていない。留萌市は市民の鉄道依存度が小さく、JR北海道が鉄道存続時に求めた負担金にも難色を示していた。検討会議は留萌本線の利用促進策として16項目を策定。留萌市の協議参加も要請していた。

2018年5月、検討会議とは別に、「JR留萌本線沿線自治体会議」が発足。同年2月の留萌市長選挙で新市長が誕生したことをきっかけに協議が始まった。参加者は留萌市長、深川市長、秩父別町長、沼田町長。第1回では、「留萌本線の存続の可能性を探るため、協調して、国や北海道に対応していくことで意見が一致」した。

自治体会議は2019年6月までに4回開催された。第4回は沼田町と秩父別町の新町長就任を受けて行われ、各自治体の意思確認が行われた。留萌市長が廃止容認とする一方、沼田町長は通学生の交通手段として強く存続を求めた。

留萌市が2019年11月に開催した市政懇談会によると、留萌市長の見解は、「国や北海道の支援がない中で、留萌線を維持するための約9億円の地元負担は難しい」「JR北海道との個別協議を進め、交通事業者の責務と地域振興の考え方を確認」「代替交通も含めた新たな公共交通体系について、市民に示す段階」とのこと。

市政懇談会の資料で、JR北海道の提案も詳しく紹介している。「バス転換については既存のバス路線のダイヤを見直し、深川駅の鉄道接続を考慮」「既存バスが運行していない時間帯、早朝・夜間3本程度のデマンドタクシーを導入」によって深川・旭川方面の通学手段を確保。「鉄道の通勤定期定期券利用者に1年間の差額を補償。通学定期利用者には長期休みを除く10カ月の差額を補償」「バスの深川駅前広場乗り入れ」「深川駅にパークアンドライド用駐車場を整備」などの提案もあった。

さらに、留萌市が留萌駅周辺に「道の駅」「交流・遊戯施設」「交通結節点を整備」する場合は、鉄道用地を無償で譲渡し、まちづくり費用の一部を負担するという。これだけの条件が整うと、留萌市が鉄道からバスとデマンドタクシーに舵を切る気持ちもわかる。

留萌本線と並行するように建設された高規格道路「深川留萌自動車道」の存在も大きい。1987年、国の第四次全国総合開発計画によって国土交通大臣から指定され、1998年に深川から秩父別まで開通。2003年に沼田まで延伸され、その後も順次延伸して、2020年に留萌まで全通した。このうち深川西ICから留萌ICまで料金不要。設計速度は80~100km/hとなっている。

■深川~石狩沼田間は高校通学に配慮、3年後の3月まで運行へ

4市町は2020年10月と2021年2月にJR北海道と協議を行った。しかし、その後は新型コロナウイルス感染症の影響もあって中断されていた。

JR北海道は原則として全線バス転換、鉄道存続の場合は地元負担を原則としていた。ただし、7月19日の協議で譲歩案が示された。

報道によると、新しい交通体系を求める留萌市区間は来年3月で廃止し、通学生が多い深川~石狩沼田間については、高校生活の3年間を考慮し、2023年の新入生が卒業する2026年3月まで鉄道で存続するという。この3年間については、地元負担を求めない。まちづくり支援金として、先に廃止された日高本線の沿線自治体と同等の約7,000万円を支払う。

JR北海道の提案に対し、沼田町は「代替交通が整わなければ廃止反対」とする一方、再開発を進めたい留萌市と深川市、秩父別町からは異論がなかった。各自治体ともその場で結論は出さず、いったん持ち帰って住民説明会を実施する。早ければ7月中にも4市町が合意し、8月に4市町とJR北海道が合意文書に調印する予定。JR北海道の提案通り、石狩沼田~留萌間は2023年3月、深川~石狩沼田感は2026年3月に鉄道廃止・バス転換になると思われる。

■次のステップは「黄色」の8線区

JR北海道が表明した「当社単独では維持することが困難な線区」のうち、輸送密度200人/日未満の路線に付いて、すべて決着する見通しとなった。次の段階として、輸送密度200人以上2,000人未満の線区、報道発表資料にて黄色で示された「黄色線区」の行方はどうなるか。

対象となる線区は、宗谷本線名寄~稚内間、石北本線新旭川~網走間、釧網本線東釧路~網走間、富良野線富良野~旭川間、根室本線滝川~富良野間、根室本線釧路~根室間、室蘭本線沼ノ端~岩見沢間、日高本線苫小牧~鵡川間の8線区。JR北海道は、「鉄道を維持する仕組みについて相談を開始します」との姿勢を示している。

北海道庁が設置した「JR北海道運輸交通審議会 地域公共交通検討会議 鉄道ネットワークワーキングチーム」により、2017(平成29)年2月に示された「将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について」によると、具体的路線名を挙げないとしつつ、「札幌圏と中核都市をつなぐ路線」「広域観光ルートを形成する路線」「国境周辺地域や北方領土隣接地域の路線」「広域物流ルートを形成する路線」「地域の生活を支える路線」「札幌市を中心とする都市圏の路線」を維持すべきとしている。8線区はすべて該当しているように見える。

JR北海道は「黄色」の8線区について、「アクションプラン」を策定し、経費の削減や利用促進に取り組んでいる。赤字解消に結びつきにくいとはいえ、北海道の設置したワーキングチームが「残すべき」と判断した路線は、国と道、沿線自治体が連携した支援が必要だろう。