派手なKO決着ではなかった。それでも文句なしの判定完勝─。7月13日、東京・大田区総合体育館で行われたWBO世界スーパー・フライ級タイトルマッチは王者・井岡一翔(志成)が、挑戦者ドニー・ニエテス(フィリピン)を破り5度目の王座防衛に成功した。

  • 試合終了のゴングが打ち鳴らされた直後、勝利を確信し右手を高々と突き上げた井岡一翔。ドニー・ニエテスにリベンジ、WBO世界スーパー・フライ級王座5度目の防衛を果たした。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

これで世界戦通算20勝となり、自身が持つ日本人最多記録を更新(2位は井上尚弥の18勝)。なぜ井岡は、これまで18年間無敗を誇ってきたニエテスに「完勝リベンジ」を果たすことができたのか? 次の対戦相手は? そして彼が抱く「野望」とは?

■百戦錬磨のニエテスを翻弄

「マカオの借りを返したぞ!」
闘い終えてインタビュールームに姿を現した井岡一翔は開口一番、そう叫んだ。表情に充実感を漂わせて、こう続ける。
「プラン通りにやれた。KOをするのは難しい相手だったので、前回の対戦を踏まえ考えて闘いました。3年と7カ月間の自分の成長を証明できたと思う」

そう、3年7カ月前の屈辱を井岡はずっと忘れていなかった。
2018年大晦日、マカオのウィン・パレスで「4階級制覇」に挑んだ。WBO世界スーパー・フライ級王座決定戦─。対戦相手は同じく「4階級制覇」を目論んでいたニエテス。試合はフルラウンドのクロスファイトとなった末に、1-2のスプリットデシジョンで井岡は敗れる。
直後にニエテスはベルトを返上。これにより空位となった王座を井岡は約半年後に手にし「4階級制覇」を果たした。
だが、モヤモヤとした気持ちが残っていた。ニエテスにリベンジしたいとの思いが強くあったからだ。今回、そのチャンスを掴み勝利した。とてつもなく嬉しく、且つ自信も深めたことだろう。

  • 多くの報道陣に囲まれ、試合を振り返った勝者・井岡一翔(写真:SLAM JAM)

内容は、ワンサイドゲームだった。
井岡は1ラウンドから左ジャブを多用し試合を組み立てた。巧みなステップワークを用いながら鋭く左を突く。これに対しニエテスはカウンターを狙い、さらには接近戦に持ち込もうとするが王者は、それを許さない。抜群の距離を保ち続けた。
左ジャブと、左フックで主導権を握った井岡は、最後まで自分のリズムを崩さなかった。試合中盤、攻めあぐねたニエテスはカウンターをヒットさせるチャンスを見出そうと敢えて後退する。しかし、井岡は深追いをしない。また、ニエテスが打ち合いを求めて踏み込んできた時にも応じず、バックステップを駆使し自分に優位な中間距離を徹底して守り続けた。

それだけではない。
8ラウンドと10ラウンドには鋭い右強打を見舞い、ニエテスの両眼上をカットさせ出血に追い込む。リズムをキープしただけではなく、効率よく有効打も見舞っていった。ポイント上での大幅リードを確信した11、12ラウンドには敢えて前に出てプレッシャーをかけ、百戦錬磨のニエテスに何もさせずに試合終了のゴングを聞かせたのだ。

■大晦日に王座統一戦か

スコアは3-0。
118-110(ジェラルド・マルチネス/プエルトリコ)
117-111(ウィリアム・リーチ/米国)
そして、もう一人のジャッジ、ワレスカ・ロルダン(米国)は120-108、フルマークで井岡の勝利を支持した。
完勝できた理由、それは井岡が最後まで距離を支配し、ニエテスの持ち味を封じ込めることに成功したからにほかならない。

ニエテスは、試合後に言った。
「敗因は、最後までリズムを掴めず、距離を詰められなかったこと。井岡の闘い方は前回と同じだったが、パンチの一つ一つが強くなっていると感じた」と。

  • 「少し休みたい。その後、オファーがあれば闘い続ける。そのことを私は望んでいる」と試合後に話した40歳のドニー・ニエテス(写真:SLAM JAM)

さて次の井岡の試合は、どうなるのか?
マッチメイクは、すでに動き出している。
日時は大晦日で、『IBF、WBO王座統一戦』になりそうだ。
本来なら昨年12月、井岡は両王座統一をかけてジェルウィン・アンカハス(フィリピン)と闘うはずだった。しかし、コロナ禍により試合は中止に。その後今年2月に、アンカハスはフェルナンド・マルチネス(アルゼンチン)に敗れ王座から転落するも、両者は8月にリマッチを行なうことが内定している。その勝者と井岡は対峙することになろう。

ここで2団体王座統一を果たせたなら、井岡の野望は先へと進む。目指すは、スーパー・フライ級での「4団体王座統一」だ。
現在のWBA(スーパー)、WBC(フランチャイズ)王者はファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)。対戦交渉は簡単ではないだろうが、彼と井岡が対峙する可能性はある。また、因縁のあるローマン・ゴンサレス(ニカラグア)とも交われればさらに面白いストーリー展開が期待できよう。
年末から2023年にかけて井岡一翔は、さらに苛烈な闘いに挑むことになる。

文/近藤隆夫