やはりモンスターは強かった。
6月7日夜、さいたまスーパーアリーナでの井上尚弥(大橋)vs.ノニト・ドネア(フィリピン)のリマッチは、大方の予想通りの結果に終わった。2ラウンド1分24秒、井上が左右の強打を爆発させTKO勝利を収めたのだ。

  • 井上尚弥が圧巻KOでノニト・ドネアを返り討ち! 次は「4団体王座統一戦」実現か、それとも─。

    井上尚弥(左)は序盤から一気に攻め込み、宿敵ノニト・ドネアを2ラウンドTKOで下した(写真:AFP/アフロ)

これにより、WBAスーパー、IBFに加えWBCのベルトも獲得した井上は、バンタム級で3団体の世界王座を統一、念願の「4団体世界王座統一」にリーチをかけた。WBO王者ポール・バトラー(英国)との統一戦は、年内に実現する可能性が高い。モンスターは、日本人初の快挙を達成できるのか?

■「行かないから」と井上は言った

「やりました! 懐かしい。2年7カ月前、ここでドネアとWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)決勝を闘って以来の熱気が嬉しいです。力をもらいました、ありがとうございます!
(開始早々に)ドネアの左フックをもらいピリッとし、緊張感を持って闘い抜くことができました。(1ラウンドに)ダウンを奪った右ストレートは、あまり感触がなかったです。でも、コーナーに戻ってビジョンを見上げたら凄くタイミングよく当たっていた。『自分がやってきた練習は間違いなかった』という思いを持って2ラウンド目に入れました」

勝利を収めた直後、井上尚弥は張りのある声でそう話した。
試合は、一方的な展開だった。
1ラウンド終了間際に右強打をヒットさせダウンを奪い主導権を握った井上は、2ラウンドに猛攻。足を縺れさせながらも必死に耐えるドネアに、最後は得意の左フックでトドメを刺した。

  • プレスルームに設けられたインタビュースペースで、父である井上真吾トレーナー(右)とともに試合を振り返る井上尚弥(写真:SLAM JAM)

イベントタイトルは『ドラマ・イン・サイタマ2』─。
「でも、今回の試合はドラマにはならない。相手に触れさせることなく、圧倒的な内容で勝つ」
井上が試合前に語っていた通りの圧勝劇。

だが実のところ、井上はかなり慎重に闘っていた。
「行かないから」
1ラウンドを終えてコーナーに戻った井上は、セコンドに対してそう話している。ダウンを奪ったが、次のラウンドで一気に勝負はかけないという意味だ。
前戦を教訓にしていた。2年7カ月前のあの日、2ラウンドに不用意に打ち合ったことからドネアに左フックのクリーンヒットを許した。ここで右眼に多大なダメージを負い、大苦戦を強いられたことを井上は忘れていなかったのだ。

■「バンタム級最強」は証明された

「性格的に一気に攻めたくなる。でも、ドネアのパンチはまだ活きていると思った。カウンターの左フックは要警戒。そのことを自分に言い聞かせるように『行かない』とセコンドに言ったんです」

勢いに任せてKOを狙い距離を詰めるのではなく、左ジャブを軸とした闘いを井上は続けるつもりだった。だが、攻防の中で左フックが幾度もクリーンヒットする。ドネアはカウンターを狙っていたが、井上のスピードがそれを許さなかった。
ドネアが足を縺れさせてバランスを崩す。ダメージを負っていることは明らかで、場内のボルテージは最高潮に。

ここで、井上は作戦を変更した。一気に倒しにかかる。それでもカウンターの左フックには細心の注意を払いながら攻めた。相手との距離を調整しながらロープ際に追い込み、最後も左フックを叩き込む。マットに崩れたドネアは必死に立ち上がろうとしていたが、ダメージを考慮しレフェリーが試合を止めた。

「ドネアには感謝しています。ずっと憧れてきた選手ですし、彼の存在があったからこそバンタム級で自分を輝かすこともできました。これで一つ上のステージに行けるかなと思っています」

そう話した井上は、次の目標にも触れた。
「年内にバトラーと闘えるなら、ぜひやりたい。ここまで来たからには『4団体王座統一』をしたい気持ちは強くあります。でも交渉がまとまらなかった場合は、スーパー・バンタムに階級を上げ新たな闘いに挑みます」

  • 3本の世界のベルトを身につけた井上尚弥。左は大橋秀行会長、右は井上真吾トレーナー(写真:SLAM JAM)

井上vs.バトラーが実現する可能性は高い。
「イノウエとドネアの試合に注目している。次に私の進むべき道を示してくれる闘いだからだ」
バトラーは、そう話しており井上との王座統一戦に前向きだ。 また、彼はドネアと同じプロモーション会社『プロべラム』と契約しており、同社の代表であるリチャード・シェーファー氏も「この歴史的一戦を実現させたい」と話している。 交渉は順調に進み、年内に日本か英国のリングで両雄は対峙するのではないか。

ただ一つ気になるのは、WBA、WBC、IBF、WBOの4団体のいずれかが井上、バトラーに指名試合(主にランキング1位選手との対戦)を求めるかもしれない点だ。これを無視すれば王座を剥奪されてしまい4つのベルトを揃えることができなくなってしまう。
その場合、井上は階級をアップさせ、新たな闘いに挑むことになろう。
「バンタム級最強」であることは、すでに世界が認めている。記録にこだわる必要はないようにも思う。
井上尚弥の新たなるステージでの闘いを早く観たい。

文/近藤隆夫