特にビジネスシーンなどで聞いたことがある人もいるかもしれない「獅子身中の虫」。会社などの組織を内側から崩壊させるような人のことを指す、ネガティブな言葉です。
この記事では、「獅子身中の虫」のより具体的な意味や由来についてまとめています。例文もご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
「獅子身中の虫」の意味
「獅子身中の虫」の基本的な意味をご紹介します。
「獅子身中の虫」とは
まず「獅子」とは一般的にはライオンのことを指します。「獅子身中の虫」とは、「獅子の中に寄生する虫が、本体である獅子を死に至らせる」ことを意味しており、転じて「味方でありながら災いをもたらす者」「組織内部の裏切り者」という意味です。
また「恩を仇(あだ)で返す者」という意味もあります。「味方でありながら災いをもたらす」ということは、お世話になっている場所に対して不利な状況をもたらすことであり、「恩を仇で返す」所業といえるでしょう。
特定の人を批判する表現であり、それなりに重い意味を持つ言葉なので、使う場面には注意が必要です。
「獅子身中の虫」の読み方
「獅子身中の虫」は「しししんちゅうのむし」と読みます。なお、「しん」は体を表す「身」であり、「獅子心中の虫」と書いてしまうのは間違いです。
「獅子身中の虫」の由来は仏教
「獅子身中の虫」は仏教に由来する言葉です。仏教の経典の中で、仏教の恩恵を受けている仏教徒が仏法を破壊することを「師子身中の虫の自ら師子を食らうがごとし(「師子」は「獅子」と同義)」と例える箇所があります。これが転じて、現在もことわざとして残っているとされています。
「獅子身中の虫」の弱点は牡丹(ぼたん)
「獅子身中の虫」は百獣の王といわれる獅子の、数少ない恐れの対象ですが、この虫にも弱点があるといわれています。それは牡丹の花です。
牡丹の花にたまる夜露あるいは朝霧は、「獅子身中の虫」から身を守る薬として効果的であると伝えられています。そのため獅子は、夜には牡丹の花の下でゆっくり休むと考えられています。牡丹と獅子の美しい組み合わせは、昔の襖絵(ふすまえ)や絵画などにも多く見られます。
「獅子身中の虫」の使い方と例文
「獅子身中の虫」を用いた例文をいくつかご紹介します。強い批判の意味の言葉なので、大したことではないのに軽々しく使用したり、張本人に対して面と向かって使用したりするのはなるべく避けた方がいいでしょう。
「ライバル企業に新商品の社外秘情報を漏らした彼は、さしずめ獅子身中の虫である」
「獅子身中の虫」の持つ「味方でありながら災いをもたらす者」の意味の例文です。大切な機密情報を漏らしてしまえば、「裏切り者」だと思われてしまうのは当然でしょう。
「獅子身中の虫のようなある職員が不正を働いた。それが明るみに出て、協会の社会的信用が失われた」
この文における「獅子身中の虫」は、「組織や団体を内側から破壊しかねない職員」という意味で使用されており、大変な危うさがある人物であるということが伝わってきます。「獅子身中の虫」と思われてしまうことがないよう、ふるまいにも気を付けておきたいところです。
「お世話になった先輩について根も葉もない悪評を流すとは、獅子身中の虫と思われても仕方がないよ」
「獅子身中の虫」の意味のうち「恩を仇で返す」行為を言い表した文です。強い批判を表す言葉のため、張本人に対して戒めの意味で使用する場合は、相手との信頼関係や、前後のフォローなどが大切であり、非常に慎重になる必要があります。
「獅子身中の虫」の類語
「獅子身中の虫」の類語表現をご紹介します。相手に「獅子身中の虫」の意味が通じなさそうな場合、類語表現を使って伝わるよう工夫しましょう。
飼い犬に手を噛まれる(かまれる)
「飼い犬に手を噛まれる」は「かわいがっていた者や信頼していた配下の者に裏切られる」ことを、かわいがっていた飼い犬に手を噛まれる様子に例えた表現です。
「獅子身中の虫」の厳かなライオンの描写よりもかわいらしい印象ですが、こちらもひどい目に遭ったときに使用する言葉です。
軒を貸して母屋を取られる(のきをかしておもやをとられる)
「軒先を貸したらいつの間にか母屋を乗っ取られていた」ことから「一部を貸しただけなのに全部を奪われた」「好意に乗じて恩を仇で返された」という意味を持ちます。「庇(ひさし)を貸して母屋を取られる」ともいい、どちらも同じ意味です。
裏切り者、内通者
味方を捨てて敵方に付く者、陰で敵と通じる者を指す言葉です。「獅子身中の虫」に比べ、より直接的で伝わりやすいかもしれません。しかし直接的で伝わりやすい表現であるだけに、使う場面には注意が必要でしょう。
「獅子身中の虫」と「トロイの木馬」の違い
「獅子身中の虫」とよく混同される言葉に「トロイの木馬」があります。
「トロイの木馬」は「正体を偽って内部に潜入し、破壊工作を行う者」を例えた言葉です。トロイア戦争において、兵を大きな木馬に潜ませて敵地に送り込むという、ギリシャ軍が採った戦術が由来となっています。現代では有益なソフトウエアに擬態して内側からデータを破壊するなどする、コンピューターウイルスの名称としても知られています。
内側から壊すという点で混同されやすいのかもしれませんが、「獅子身中の虫」はもともと身内、味方である一方、「トロイの木馬」はもともと敵である、という点で異なっているので注意しましょう。
「獅子身中の虫」の対義語
「獅子身中の虫」は「身内でありながら災いをもたらす者、裏切り者」「恩を仇で返す」といった意味があるので、反対の意味を持つ「信頼のおける相手」を示す言葉をご紹介します。
右腕(みぎうで)
最も信頼する優秀な部下のことを「右腕」といいます。由来は多くの人の利き腕が右腕であることからです。ある人の利き腕である右腕となって働けるほど、信頼が厚いさまが伝わります。
「手足となって働く」などの形で使われる「手足」いう似た言葉もありますが、こちらは「信頼」「優秀」というよりは、単に「思い通りによく働く者」という意味です。「右腕」の方がより重要な役割を任せられる存在といえるかもしれません。
腹心(ふくしん)
「腹心」はどのような秘密でも打ち明けられるくらい、深く信頼している人を表します。「腹心の部下」「彼は私の腹心だ」といった形で使用します。
懐刀(ふところがたな)
「懐刀」は、信頼できる部下の中でも特に知謀に長(た)け、内密の相談や計画を任せられる者のことをいいます。懐の中に持っている守り刀が由来となっています。
「獅子身中の虫」の英語表現
「獅子身中の虫」の英語表現をご紹介します。そのまま直訳しても意味が通じないので、英語圏でどのように言い換えるのかを知っておくと便利です。
a snake in one's bosom
「bosom」は「胸、懐」を意味する単語です。直訳すると「蛇が胸に入り込む」といった意味になります。邪悪な存在としてとらえられることが多い蛇を使った表現です。
traitor
「traitor」は「反逆者」「裏切り者」「売国奴」といった意味があります。「引き渡す」という意味のラテン語からきており、「獅子身中の虫」を端的に言い表した言葉です。
treacherous friend
「treacherous」は「裏切る」「不忠な」という意味で、直訳すると「裏切る友」「不忠な友」といった意味になります。こちらも「獅子身中の虫」をわかりやすく表現した英語として使いやすいでしょう。
「獅子身中の虫」は強い批判の意味を持つことわざ
「獅子身中の虫」の意味や使い方についてまとめました。「獅子身中の虫」とは、「味方でありながら災いをもたらす者」「恩を仇で返す者」のことをいいます。
批判的な意味を強く含むため、使用シーンには注意しつつ、ぜひ活用してみてくださいね。