「匙を投げる」という言葉をご存知でしょうか。ビジネスシーンや日常会話でよく見聞きしていても、意味はよくわからないという方もいるのではないでしょうか。

また、なぜ投げるものは「匙(さじ)」なのか、語源が気になる人もいるでしょう。

今回は「匙を投げる」の意味・語源・類義語・対義語・使い方・英語表現を解説します。

  • 「匙を投げる」の意味と語源

    匙を投げるの意味や語源を理解しよう

「匙を投げる(さじをなげる)」とは

「匙を投げる」は「さじをなげる」と読み、「もうこれ以上どんなに力を注いでも成功する可能性がなく、諦めてしまうこと」を表した言葉です。ビジネスシーンでも日常会話でも使えるため、覚えておくと表現の幅が広がります。

ここでは、「匙を投げる」の意味とその言葉の由来についてくわしく説明します。

「匙を投げる」の意味

「匙を投げる」は、「これ以上どんなに手を施しても成功する可能性がないために諦めてしまうこと」を意味する言葉です。「匙」とはスプーンのようなもので、なんとなくイメージがつく人も多いでしょう。

では、なぜ投げるものは「匙(さじ)」なのでしょうか。また、見込みがなく諦めてしまうことをなぜ「匙を投げる」と表現するのでしょうか。次に語源をご紹介します。

「匙を投げる」の語源

「匙を投げる」の語源は、古くは江戸時代に医師が薬の調合に使っていた「薬匙」と呼ばれるスプーンのような道具であるといわれています。現在では薬の調合は薬剤師が行いますが、江戸時代には医師が自ら行っていたのです。

その頃の医師は、今の薬剤師のように薬剤の調合を主に行って病気の治療をしており、手術などはあまり行っていなかったといわれています。

当時の医師は、病気を治す薬剤をなかなか調合できずに薬匙を投げてしまうこともあったそうで、そのときに生まれたのが「匙を投げる」という比喩表現です。そこから派生し、物事がうまくいかないときや成功する見込みがなくて諦めてしまうことを「匙を投げる」と表現するようになっていったというわけです。

  • 「匙を投げる」の意味と語源

    「匙を投げる」の匙は「薬匙」が語源です

「匙を投げる」の使い方・例文

「匙を投げる」は、古くは江戸時代の医師から生まれた言葉ですが、現代でも普遍的に使われる言葉です。日常的に使える言葉ですので、意味や由来だけでなく使い方も覚えておくといいでしょう。ここでは、「匙を投げる」を使った例文を3つご紹介します。

医師から匙を投げられたとしても、諦めるつもりはない

「これ以上の治療の方法がない状態で、たとえ医師から治療を諦められても自分は決して諦めない」という意味の文章です。治る見込みのない病気などに対して、本人や家族の「医師が何と言おうと最後まで回復を諦めない」という意志を表現しています。

何度言っても聞かなかったので、匙を投げてしまった

相手に何度も注意やアドバイスをしても耳を貸さないので諦めた、という意味の例文です。

勝てる見込みがなくなり、匙を投げた

スポーツの試合などで勝つのを諦めたときに使える表現です。「もう何も打つ手がなく、お手上げである」ということを表した例文です。

  • 「匙を投げる」の使い方・例文

    「匙を投げる」は日常的にも使える表現です

「匙を投げる」の類義語・言い換え表現

「匙を投げる」の類義語には、「お手上げ」「万策尽きる」などがあります。これらがどのような意味を持つのかを、早速見ていきましょう。

お手上げ

「お手上げ」は「これ以上手の施しようがなく、どうしようもない状態」を表す言葉です。何かに行き詰まってしまい「匙を投げたくなる状態」は、この「お手上げ状態」と同じであるといえるでしょう。

万策尽きる

「万策尽きる」は「ばんさくつきる」と読み、「できる方法は全て試し、これ以上打つ手がない状態」を表す言葉です。「万策」は「考えられる方法・手段」を表しており、それがなくなってしまい、何も手立てがないことを意味しています。

「できることが何もない状態」は、匙を投げることと同義であるといえるでしょう。

  • 「匙を投げる」の類義語

    「匙を投げる」の類義語は「お手上げ」「万策尽きる」などです

「匙を投げる」の対義語

「匙を投げる」の対義語には、「七転八起(しちてんはっき)」「百折不撓(ひゃくせつふとう)」などがあります。それぞれの意味を見ていきましょう。

七転八起

「七転八起」は、「しちてんはっき」と読みます。また、同義語としては「七転び八起き」と書いて「ななころびやおき」と呼ぶ言葉もあります。

意味は「何度失敗しても諦めることなく、何度でも立ち上がる」「絶対に屈しない精神」を表します。「七転」は漢字の通り「七回転ぶこと」、「八起」は「八回起き上がる」ことを意味しており、何度転んでも立ち上がるさまを表しています。

途中で力を注ぐことをやめて諦めてしまうといった「匙を投げる」に対して、「七転八起」は何があっても諦めない精神を表す言葉です。

百折不撓

「百折不撓」は「ひゃくせつふとう」と読み、「何度失敗してもくじけないこと」を表した言葉です。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、古くは中国の碑文である『橋大尉碑(きょうたいいのひ)』の一節で用いられていた言葉であるといわれています。

『橋大尉碑』の中では「どんなに大事な局面でもくじけずに立ち向かう様子」を「百折不撓」で表しており、ここから何度失敗しても諦めずに立ち向かうさまを「百折不撓」というようになりました。

  • 「匙を投げる」の対義語

    「匙を投げる」の対義語は「七転八起」「百折不撓」などがあります

「匙を投げる」の英語表現

「匙を投げる」は比喩表現のため、英語で表現したい場合はそのまま「匙を投げる」を英語で直訳しても通じません。英訳をしたい場合は、下記の表現が使えます。

give something up as hopeless

「give up」は「諦める」という意味があり、匙を投げたくなる状態を表すのに適した表現です。また、「絶望的」という意味を持つ「hopeless」を用いて「give something up as hopeless」というように表現することで、「絶望的で諦める」というニュアンスを表すことができます。

to throw in the towel

「to throw in the towel」は、直訳すると「タオルを投げ入れる」という意味で、「やめる・諦める」ことを表すイディオムとして使われます。日本語でいう「降参する」と似たニュアンスで使用されます。

  • 「匙を投げる」の英語表現

    「匙を投げる」の英語表現は「give something up as hopeless」や「to throw in the towel」などがあります

「匙を投げる」の意味や使い方をマスターしよう

「匙を投げる」は、「これ以上どんなに力を注いでも成功する可能性がなく、諦めてしまう」という意味の言葉です。語源は江戸時代の医師がうまく薬を調合できずに「薬匙」を投げるさまからきています。

類義語には「お手上げ」「万策尽きる」、対義語には「七転八起」「百折不撓」などがあり、日常会話でもビジネスシーンでも使える言葉です。表現の幅を広げるためにも、ぜひ覚えておいてくださいね。