夫との結婚を決めたとき、話したのは「子どもはいつか欲しいね」と言うなんとなくの未来。あれから3年。子どもへの想いは立ち消えたわけではないが、仕事が楽しくなかなかいつかの未来は具体化しない。
そんなとき知ったのが「AMH」。卵巣予備能と言って、卵子がどのぐらい残っているかを知れると言う。だが、一体これがどのような意味を持つのか、どうライフプランに生かせばいいのかなど、医療法人浅田レディースクリニック理事長 浅田義正氏に聞いてきた。さらに、筆者もAMH値を実際に測ってみたので、その様子も伝えていく。
■AMHとは?
今回、話を聞いたのは、生殖医療・不妊治療を専門とする医療法人浅田レディースクリニック理事長の浅田義正氏だ。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者でもある。早速、浅田氏にAMHとは何なのかという基本的なところから尋ねてみた。
――AMH値とはどのようなものでしょうか?
AMH(アンチミューラリアホルモン)は、卵巣に残っている卵子の数の目安、つまり「卵巣予備能」を指します。女性の卵巣内には、卵子のもとである原始卵胞というものが保存されており、それが排卵に向けて半年前から育ちはじめるとき、卵胞からAMH(アンチミューラリアホルモン)が放出されます。その値を測定することで、卵子になるためのもとである原始卵胞がどのくらい残っているのかを推測できます。値が低ければ卵子の数が少なく、高ければまだ多くの卵子が残されていることがわかります。
――それでは、値が低いと「妊娠できない」ということなのでしょうか。
その認識は間違っています。AMH値が低い場合、残された卵子の数が少ないことは示唆されますが、それが「妊娠できない」ということではありません。数値が非常に低くても卵子の質が良ければ自然に妊娠・出産する人もいます。
「AMH値が低い=妊娠の可能性が低い」ということではなく、「妊娠の可能性がある期間が限られている」ということを表すのです。またAMHの検査で0という結果が出たとしても、卵子が0というわけではないですし、子どもができないことを示しているわけではありません。実際に治療をし、出産している人もいます。妊娠するために重要なのは、AMHでわかる卵子の「量」よりもむしろ、卵子の「質」が重要です。
――卵子の「質」ですか?
そうです。そもそも、卵子は新しく作られることはありません。卵子のもとである原始卵胞は女性が生まれる前にお母さんのおなかの中で一度だけ作られ、それ以降増えることはなく、年齢とともに老化・減少していきます。例えば20歳の人が排卵したら20年古い細胞、30歳の人が排卵したら30年古い細胞というように、卵子の老化は女性の年齢イコールなのです。体の老化は人によって異なりますが、卵子の老化は年齢のそのものなのです。
ちなみに精子は、約3カ月前から幹細胞が新しい精子を作っているので、たとえ90歳の人が射精をしようと3カ月前の精子です。精子と卵子は全く仕組みが異なるのです。
――そうだったのですね。ちなみに、AMHと年齢に相関関係はありますか?
ありません。年齢との相関関係はなく、AMHは完全に「個人差」です。30代の人たちを調べてみても、AMH値がほぼ0の人もいれば、値が高い人までさまざまです。
――AMHに基準値や正常値はあるのですか?
AMHは個人差が大きく、正規分布していません。一応の平均値や中央値はありますが、正常値・基準値などを決めることはできません。AMH値が低い場合、残された卵子の数が少ないことが考えられますが、それが体の異常を示すことにはならないのです。
■検査はいつでもできる? 金額は?
――では、AMHはどのように測れるのでしょうか?
簡単な血液検査で測定が可能です。
――何歳でもAMH検査はできるのでしょうか?
思春期ぐらいからAMH(アンチミューラリアホルモン)は出てくると言われていますが、AMHと残っている卵子の数が比例するのはおおよそ25歳以降と言われています。それよりも前にAMHを測ると、実際よりも低い数値が出るため、25歳~というのが一つの目安です。既婚・未婚問わずお子さんを考えている人は一度、このあたりの年齢で測ってみるのをおすすめします。
――生理中やピルを服用していても検査はできますか?
測定できます。ただ、最近わかってきたことですが、ホルモンの影響が大きいと、異常数値が出てくることがあるので、その場合は測り直す必要があるかもしれません。
――AMHの検査にかかる金額はどのくらいでしょうか?
2022年4月から保険適用となり、3割負担で検査を受けることができます。ただし、これには条件があり、体外受精の調節卵巣刺激の治療時のみ、保険適用でAMHの測定が1回できます。2回目以降を希望する場合は、半年以降でなければ保険適用とはなりません。ちなみに浅田レディースクリニックでは、保険適用で6,000円、自由診療の場合は8,500円で検査を行っています。
――AMHを知ることのメリットはどういうところですか?
ライフプラン設計をしやすくなるのはもちろん、不妊治療ができるかできないか、早くスタートさせるべきかどうかを知る目安になることですね。卵巣予備能は病気などのように、目に見えるものではありません。卵子がどれくらい減っているかは自覚できないため、わずかでも子どもを望んでいる人は、ぜひ測ってみてほしいです。
■AMHを測定して見えたもの
AMHについて理解を深めた筆者も「浅田レディース品川クリニック」で自身のAMH値を測定。ここからは、その様子をリポートしていこう。
同院でのAMH測定は非常に簡単。年齢や体重、喫煙歴や既往歴などの問診に回答したあと、採血をするだけ。採血自体で言えば、わずか2~3分。あっという間に検査は終わり、数日後、検査結果が自宅に届いた。
筆者の場合、AMH値は「2.74ng/ml」。報告書によると「AMHの値が3.0~5.0ng/mlであれば安心でき、卵巣予備能は適正」とのこと。なるほど、それでいくと筆者の値は少し低めのようだ。
なお、AMHが1.5ng/ml未満の場合、対外受精治療で普通の卵巣刺激をしても卵を十分に採ることが難しいと言う。一方で、値が高ければ良いというわけでもなく、「5.0ng/ml」以上ある場合は、不妊の原因となる「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」という排卵障害が疑われるとの説明があった。ただし、5.0ng/mlを超えたら多嚢胞性卵巣症候群、4.9ng/mlは安全というものではないそう。おおよそ5.0前後の数値であれば、多嚢胞性卵巣症候群の傾向があるとのことだった。いずれにせよ、測定をして前述の数値にあてはまる人は一度、診療機関で相談してみるのが良いだろう。
今回少し低めの数値が出た筆者の場合は、動揺でも安心でもなく、きちんと向き合うときがやってきたと、覚悟に近い感情が芽生えた。「本当に子どもは欲しいのか?」「そのタイミングとは?」「将来やりたいことは?」目の前の仕事に没頭しすぎて見えなかった、いや、見るのを避けていた未来を夫も含めて、今一度考えはじめるきっかけとなった。
「こうしよう!」との答えは、いまだに出せていない。だが、さまざま悩むのも、知ることができたから。知った上で何を選ぶのか、今日もひたすら考え続けている。
※AMHの測定は、各診療機関によって予約の有無や検査料金が異なるため、各公式サイトにて確認を