藤井聡太竜王への挑戦権を争う第35期竜王戦(主催:読売新聞社)の決勝トーナメント2回戦、大橋貴洸六段―伊藤匠五段戦が7月6日(水)に行われました。結果は86手で伊藤五段が勝利し、3回戦へ進出しました。
■大橋-伊藤戦
大橋―伊藤戦となった本局ですが、江戸時代の将棋家元に大橋家と伊藤家があるのは、将棋の歴史に詳しい方ならばご存知でしょう。日本将棋連盟が創設されてから、大橋六段は初の大橋姓の棋士です。大橋六段と伊藤匠五段は初手合ですが、これまで大橋六段―伊藤真吾六段戦が2局行われており、本局は3度目の大橋―伊藤戦となります。
1回戦で佐々木大地七段を破った伊藤五段に対して、4組優勝の大橋六段は本局が自身にとって初めての竜王戦決勝トーナメントとなります。先手の大橋六段が矢倉を指向したのに対し、後手の伊藤六段は急戦をみせる形になります。
■ピッタリのカウンター
51手目、大橋六段は▲7五歩と桂頭を攻めにかかります。ですが、狙われた桂を先に活用して銀取りに跳ね出した△6五桂がピッタリのカウンターアタックです。対して大橋六段は銀取りに構わず▲7四歩と取り込みました。目標の桂には先に逃げられていますが、▲7三歩成のと金作りを見ています。
ここで、銀取りに食いつかず△6三金と受けたのが冷静な一着でした。△7七桂成と先手で銀を取り、駒得を主張したくなるところですが、▲7七同角と取られると、先手の角が働き始めます。
と金作りを消しておけば後手陣には憂いがありません。先手が▲6六銀とかわした局面で駒の損得はありませんが、先手から次に有効な手がないのに対し、後手は△5六歩▲同歩△5七歩と、先手玉近くに大きなくさびを打つ順が残っています。跳ね出した桂は、すぐに銀と交換しなくても十分な働きをしてくれるのです。
この後、伊藤五段は先手の飛車を捕獲する順を目指して、それを実現しました。取った飛車を先手陣に打ち込み、リードを拡大します。大橋六段も後手玉の近くにと金を作りましたが、いかんせん戦力が足りません。伊藤五段が勝ち切って、3回戦進出を果たしました。次戦は1組5位の稲葉陽八段とぶつかります。
■「1組の壁」を超えられるか
竜王戦決勝トーナメントが現行の制度となった第19期以降、6組優勝者が3回戦へ進出したのは第24期の永瀬拓矢四段(段位は当時、以下同)と第29期の青嶋未来五段の2例しかありません。第24期の永瀬四段は3回戦で佐藤康光九段に敗れましたが、第29期の青嶋五段は3回戦でも豊島将之七段を破りましたが、準々決勝で深浦康市九段に敗れています。
1組の高い壁に挑む伊藤五段がどこまで勝ち進むか、引き続き新鋭の活躍に注目です。
相崎修司(将棋情報局)