3月に新型コロナ感染症に対するまん延防止等重点措置が終了し、はや4カ月がすぎました。人々は外出をしだしているようで、今年のゴールデンウィークの国内観光地は、昨年よりも人出が多かったと聞きます。このまま外出の流れが続いて、夏の行楽地も賑わうのでしょうか。

私のクライエントでも、出社勤務をする人が増えてきました。現在、勤務形式(出社か在宅か)は、会社により様々です。社員たちはこの新しい働き方になってそろそろ3カ月たち、2年ぶりの出社勤務のある生活にも皆だんだん慣れてきた印象です。

そのような中、未だ出社勤務(のある生活)になれることができずに苦労している人もいます。

そこで今日は、出社勤務になれない人におすすめの3つの習慣についてお話しさせていただきます。

習慣1: 今後は、3パターンの生活を習慣づける

Aさんは勤続10年以上の30代女性で、小学生二人の子どものお母さんでした。

今年の春になり、Aさんは週3回出社しなければならなくなりました。出社勤務日は在宅勤務日に比べ忙しいことはわかっていましたが、だんだんと寝付きが悪くなってきたことに不安を覚え、産業医面談に来られました。

話を聞いてみると、出社勤務日も在宅勤務日と同じように掃除や夕食の準備をしなくてはならないと感じていることと、出社日は子どもたちを学童保育に行かせている罪悪感が知らず知らずのうちに心労になっているようでした。

産業医面談の中で、コロナ前は掃除や大きな洗濯物は週末にまとめていたこと、夕食の準備も日によっては出来合いのものを使っていたことなどを思い出していただくと、Aさん自身が、出社日はもう少し家のことをラクにしていいのだと思えるようになりました。

そして、確認すると子どもたちは2年前よりも大きくなり、たくましくなっていること、お手伝いも積極的にしてくれるとのことでした。また、学童保育の日は友達と長く一緒に遊べるから楽しんでいるようでした。

面談の中でAさんは在宅勤務日と出社日について、必ずしも同じように家事や育児をこなさなくていいことに気がつきました。少し肩の力が抜けるような気がするとAさんは言い、産業医面談は終わりました。

その後、Aさんは面談にはいらしていませんので、少しずつ「Back To Office(出社再開)」の生活に適応しているのだと信じています。

コロナ前の私たちは、働く日(主に平日)と休みの日(週末)の2種類の日常を過ごしていました。働く人の多くは、食事や睡眠に費やす時間や、資格の勉強や趣味に使う時間など、無意識のうちに2つの異なるパターンの過ごし方をしていたのではないでしょうか。

一方、出社勤務が始まったけれども、ハイブリッド勤務の名称で在宅勤務も行なっている人は、これからは、出社して働く日、在宅で働く日、そして休みの日の3種類の日常生活が主流になってくると思われます。

朝の出勤時間、アフター5の過ごし方などは、働く日でも、出社日と在宅日では当然変わってきます。ですので、それぞれのパターンの日に、自分なりのメリハリを設けるといいと思います。出社勤務日は一番時間がないでしょうから、食事は完全自炊に拘らないとか、趣味の時間は在宅勤務日と休日にするとか、時間の使い方から考えていただけると考えやすいと思います。

もちろん、どのようにパターン化するかは人それぞれです。例えば「人との会食は出社日に外出ついでに」がいいと考える人もいますし、在宅勤務日だからこそ人と話したいと考える人もいます。どちらでもいいと思います。大切なのは、自分が上手に3パターンの生活を想定し、それぞれの中で、ルーチン化、習慣化をすることです。

習慣2: 働き方の多様性を受け入れる(同僚、友人の勤務形態はスルーする)

Bさんは勤続8年目のベテラン中堅どころの男性社員でした。Bさんの会社では、4月から全員毎日出社の号令がかかりました。Bさんは在宅勤務を気に入っていましたが、会社の決めたことと割り切り、毎日出社勤務していました。

しかし、会社では、所属する部署やチームにより、週何回は在宅でもいいなどのローカルルールが実際はあることに、5月になり気がつきました。業務内容的に在宅でもできるというのが最低条件のようでしたが、該当部署の上司が在宅勤務好きか否かというのも大きく影響しているようでした。

Bさん自身は在宅勤務希望でしたので、上司に在宅勤務を週2回したいと言いました。しかし、全員出社を希望する上司は首を縦に振りませんでした。

その後は、出社しても空いている席をみると、その社員は在宅勤務なんだろうと妬んでしまったり、ときには、在宅勤務が可能な部署への異動を考えて仕事に集中できなくなる日が出てきたりしそうです。そして、自分が在宅勤務をできないのは、上司のせいだと恨むようになりました。その後、やり場のないイライラ感から家族に当たり散らしてしまうようになり、奥様に言われ、産業医面談に来られました。

話せば、理屈としては会社が決めることができるのは理解できること、自分の心のイライラや集中力の欠如で周囲に迷惑をかけてしまっていることは十分自覚しており、反省していました。

人は知らないうちは気にならなくても、気がついてしまうと、隣の芝生が青く見えたり、うらやましくなってしまいます。コロナ前は同じように机を並べていた同僚が、自分は許されていない在宅勤務をしていると、その同僚を妬んだり恨んだりしてしまう心境は、ある程度は仕方がないものです。

しかし、これが、ウイズコロナ(またはコロナ後)の現実なのです。今私たちは、従来の出社勤務という形以外に、自宅や別の場所で働くというリモート勤務、さらにはワーケーション(vacation地で勤務する)などの言葉も出てきているように、働き方にも多様性が生じているのです。

そのような中では、他人を妬んでも恨んでも何も始まりません。同僚や友人の勤務形態はスルーして、自分が自分の生活(勤務形態)に慣れるということに集中して欲しいと思います。どうしても自分の働き方が気に入らないのであれば、それを可能とする会社に転職することを真剣に検討すべきでしょう。退職する気がないのであれば、時間の経過とともに慣れるしかないと思います。

習慣3: 疲労を溜めない生活を習慣づける

在宅勤務と出社勤務が混ざる中で、生活の変化全般に戸惑う面談者もいました。

人は変化にさらされた時、3種類の疲労をためます。通勤や外で過ごす時間が増えたことなどによる肉体的な疲労、他人と接する/他人に見られる時間が増えたことによる精神的な疲労、そして、生活リズムの変化に伴う生活の疲労です。

いずれも、時間の経過とともに変化に慣れることで、疲労が自然に消える人が多いですが、ときに、いくつかの疲労が重なったり、まとまって蓄積してしまったりすると、健康を害するレベルになってしまいます。

出社勤務の流れ(back to officeの流れ)をストレスとして抗うのではなく、しなやかに適応するのは、この変化の中で疲労を溜めずに慣れていくことができるか否かなのだと感じます。

疲労を溜め込まないためには、いい食生活、いい睡眠習慣、そして、いい趣味の時間=気分転換を心がけることです。

何を持って"いい"とするかは人それぞれです。出社日は朝食を食べなくなってしまっていたら、ちゃんと朝食もとるようにしましょう。在宅勤務の前日は夜更かししがちな人は、出社勤務日と同じ時間に寝ることを心がけてもいいかもしれません。また、仕事と睡眠以外の時間の過ごし方や気分転換も、出社日と在宅日で分けて考えると、有効に使えるかもしれませんね。

このようなことを、出社勤務の変化に慣れるまで、従来よりも意識していただけると幸いです。

在宅勤務も出社勤務も、その判断は会社が持っていると産業医の私は理解しています。実は、Back To Officeに伴う出社勤務は、新しいものではありません。コロナ前はほとんどの人が当たり前の日常としてやっていたことなのです。ですので、私は、Back To Officeがストレスだとは思いません。Back To Officeはあくまで生活の変化、働き方の変化なのです。慣れるしかないこの変化、以上のことを参考に、上手に適応していただければ幸いです。