NTT東日本は4月24日、岩手ビッグブルズと岩手医科大学附属病院に長期入院治療中の子どもたちを"触れ合う感覚"でつなぐ、「モバイルハイタッチ」の実証実験を盛岡タカヤアリーナで実施。触覚体験を用いた新しい応援スタイルを提案した。

  • 療養中の子どもたちとモバイルハイタッチで触れ合う、岩手ビッグブルズの千葉慎也選手

遠隔で触れ合う感覚を伝える「モバイルハイタッチ」

NTT東日本が開発した「モバイルハイタッチ」は、音声を遠隔地に伝え、振動として提示する技術。スマートフォンのマイクの前にアクリル板を取り付け、アクリル板に触れたときに得られる音声を送信し、遠隔地で振動を生成して提示する。

  • スマートフォンに振動板やLEDライトを取り付けた送信機

  • 振動版は一般的なアクリル板で、ハイタッチの振動を音として捉えやすくするためのもの

受信側はタブレット端末でその信号を受け取り、端末の背面および足下に用意された振動板から、その振動を体験することができる。一度に複数の機器を振動させることが可能で、アクリル板が振動する動きであれば、さまざまな感触を体験可能だ。もちろん音声や映像も同時に送れるため、五感を通じた交流が行える。

  • 振動をフィードバックする受信機は腕用と足用に分かれている

男子プロバスケ選手が直接子どもたちと交流

4月24日に行われた実証実験では、男子プロバスケットチーム「岩手ビッグブルズ」と特定非営利活動法人「Being ALIVE Japan」の協力のもと、触覚体験を通じたウィズコロナ時代の新しい応援スタイルを検証。盛岡タカヤアリーナと岩手医科大学付属病院小児病棟をインターネットで接続し、ホーム最終戦の選手たちと療養中の小児患者を繋げる試みが行われた。

会場では、長期治療中の子どもがスポーツチームの一員として入団する「Being ALIVE Japan」の事業「TEAMMATES」を通じて岩手ビッグブルズに参加している幅下天悟くんが、小児病棟から出られない子どもたち7人と選手たちとの架け橋となり、交流をサポート。モバイルハイタッチを通じて、映像や音声とともにハイタッチやドリブルの振動を伝えた。

  • 岩手ビッグブルズのホーム最終戦と実証実験が行われた盛岡タカヤアリーナ

  • 子どもたちに手を振りつつサムズアップする伊藤良太選手

  • 小松秀平選手は子どもたちにドリブルの振動を伝えていた

  • タッチとともにボール回しを見せるテレンス・キング選手

ここ2年のコロナ禍では、人と触れあえないという状況が続いてきた。そのような環境でも五感で感じられる新しいコミュニケーションツールを作ることで、社会の交流を深めていきたいというのがNTT東日本の思いだという。

  • 選手入場時には選手たちや幅下天悟くんが順番にハイタッチを行っていった

  • サポーターや子どもたちが見守る中で行われたホーム最終戦

療養中の子どもたちからは「楽しかった!」という感想があり、患者のご家族からも「大人も子どもも楽しめるイベントだった」と好評だったそうだ。また担当医師からは「初めての試みだったが、子どもたちみんな笑顔で楽しんでくれていた。素晴らしい企画。今後も、同じような子どもたちに体験をしてもらえたらと思う」とメッセージが届けられていた。

  • 選手たちと交流した療養中の子どもたちの様子

コロナ過で減少した実体験を「モバイルハイタッチ」を通して子どもたちに

NTT東日本 岩手支店の太野雅則氏は、「岩手医大には、病院の中から出られず、スポーツの応援に行きたくてもいけない子どもたちがいます。一方で岩手ビッグブルズの選手の皆さんには、そういったお子さんを応援したいという気持ちがあることも伺っていました。最初は夢物語のように『両者を繋げることはできないか』と話していましたが、このたびNTTの研究所の技術を借りて実現することができました」と、実証実験の経緯について話す。

  • NTT東日本 岩手支店 ビジネスイノベーション部 テクニカルソリューション担当 営業担当課長代理 太野雅則 氏

ハイタッチの触感伝送は、2020年の全日本フェンシング選手権(NTT西日本がICTを支援)でも行われたが、モバイルデバイスの利用は今回が初めてだという。将来的には遠隔授業や遠隔面会、体験授業などでの利用も検討しており、振動を利用した視覚障害者とのコミュニケーションや、触感を通じた高齢者とのコミュニケーションへの活用などを目指しているそうだ。

岩手医大で小児科病棟・外来の統括責任者を務める赤坂真奈美氏は、実証実験の意義について語るとともに、各団体に謝辞を伝える。

「コロナ禍拡大に伴い、全国の子どもたちはイベントや実体験の機会を奪われています。入院中の子どもたちはなおさらで、心の発展に大きな影響を与える可能性があります。だからこそ今回の"入院中の子どもたちが病棟にいながら選手と触れ合える『モバイルハイタッチ』"は重要だと考え、会議を重ねてきました。選手のみなさんはもちろんのこと、Being ALIVE Japanさんには当院で白血病治療をし、病気を克服した幅下天悟くんと岩手ビッグブルズさんを繋いていただきましたし、NTT東日本さんは素晴らしい開発を提供していただきました。みなさまに心から感謝しております」(岩手医大 赤坂氏)

今回の実証実験はあくまで基礎研究であり、モバイルハイタッチも試験的に作られたものであるため、すぐに活用へ広がるものではない。だが、病院を出られない子どもたちとプロバスケット選手とのつながりは、確かに新しいコミュニケーションの形を生み出していたように感じる。最後にNTT東日本の太野氏は、今回の実証実験を振り返り、次のように感想を述べた。

  • 実証実験にかかわったNTT東日本とNTT研究所のみなさん

「お子さん達も最初は皆さんびっくりされましたが、やはり選手のみなさんの気持ちが伝わって、『よし、自分も頑張ろう』と笑顔になっていました。私たちも、本当に良い経験をさせていただいたと思います」(NTT東日本 太野氏)