女性にとっては、切っても切れない「女性ホルモン」。主に妊娠にかかわる働きを持つものですが、その分泌が大きく関与する生理をめぐっては、生理周期によって体の調子を大きく崩してしまう女性も多くいます。

  • 生理にまつわる体の不調。女性がベストパフォーマンスを発揮するには /医学博士・高尾美穂

女性ホルモンとうまくつき合うにはどうすればいいのでしょうか。医学博士の高尾美穂先生がアドバイスをくれるとともに、とくに若い世代が注意すべき点についても解説してくれました。

■生理周期と体の調子のよさ悪さの関係を知る

いわゆる女性ホルモンには、「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があります。それぞれに多くの働きがありますが、エストロゲンは「妊娠の準備」、プロゲステロンは「妊娠の維持」というのが主な働きです。そのため、エストロゲンは排卵の前に、プロゲステロンは排卵されて妊娠のチャンスを迎えたときに分泌量が増え、そのまま妊娠しなければ生理が起きます。

つまり生理とは、大切な女性ホルモンがしっかりと働いてくれていることのサインだともいえます。なかには「生理って本当にウザいなあ…」なんていう女性もいますが、生理の仕組みを知ってもらえたら、生理に対する受け止め方も変わってくるのではないでしょうか。

もちろん、生理をめぐっては生理周期の時期によって体の調子がいいときもあれば悪くなるときもあります。生理が終わった時期に調子がいいという人が7割くらい。調子が悪いと多くの人が訴えるのが生理前と生理中で、その割合は4割くらいです。

もちろんこの周期には個人差がありますから、まずみなさんには「自分の生理周期のなかで調子がいい時期、よくない時期はいつなのか」ということについて把握してほしいと思います。

そうすれば、体の調子に合わせてスケジュールを組むことができるようになります。わざわざ調子が悪いときに大事な予定を入れるようなこともなくなりますし、調子がいい時期には大事な仕事など自分が注力したいことにも頑張れるということにもなります。スケジュール調整ができるようになるだけで、体への負担はずいぶん減っていくはずです。

■放置されがちな、生理にまつわる体の不調

とくに若い女性の場合、体の調子が悪いときにも無理をしがちです。20代から30代前半くらいまでなら多少は無理が利くため、自分の体に対して目を向ける機会はほとんどないかもしれません。そして、女性が生理にまつわる体の不調を放置しがちな最大の理由は、「調子が悪いのは一時的なもの」という特徴にあるのでしょう。

生理中に調子が悪いという人なら、その期間は長くても2.5日程度です。生理前に調子が悪い人なら、生理がきたら調子は改善されます。「その時期さえやり過ごせばどうにかなる」と思うために我慢してしまうのです。

でも、この我慢する時間は「もったいない」と思いませんか? というのも、わたしの親世代などと比べると、いまの女性には、社会のなかで重要な役割や立場や責任を担っている人も格段に増えているからです。そのなかで、「体の調子さえよければもっとパフォーマンスを発揮できるはずなのに…」と感じている女性も少なくないでしょう。

ぜひ、ベストパフォーマンスを発揮できるような対策をとってほしいのです。でも、実際にアクションを起こしている人は少ないのが実情です。「女性のうち4人に3人、つまり75%の人が生理にまつわるなんらかの悩みを持っている」というデータがありますが、生理に関する悩みや症状の改善のために婦人科を受診している人の割合は35%にとどまります。生理痛などの症状が重い人でも、多くが放置したままなのです。

■重い生理痛は子宮内膜症発症のサイン

重い生理痛を我慢する選択は、もちろんおすすめできません。婦人科では、重い生理痛を訴える患者さんにはエコー検査を行い、見つかるのが、子宮内膜症という病気です。

子宮内膜症は、重い生理痛だけでなく、生理ではないときにも生理痛のような痛みを引き起こしたり不妊の要因になったりもします。運よく妊娠できても、胎盤の位置が望ましくない、早産を引き起こす、といった合併症を招くリスクが高くなります。

しかも、婦人科の病気の多くは閉経したら問題なくなるというイメージがあるかもしれませんが、子宮内膜症は閉経後に発がんのリスクが高くなるという好ましくない特徴まで持っています。

女性の人生全般にわたってさまざまな不調を引き起こす子宮内膜症の発症をブロックしたい。では、どの段階でブロックしたいかといえば、「はっきりとした子宮内膜症を指摘できるわけではないが生理痛が重い」という時期です。そして、その時期こそ20代など若いときなのです。

じつは、先に触れたエコー検査を受けた結果、まさに「子宮内膜症は指摘できないが生理痛が重い」という人が若い世代に少なくないのです。

肝心のブロックの手段はピルです。ピルというと避妊のための薬というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、じつは生理痛の緩和にも大きな効果を発揮します。生理痛の主な要因はプロゲステロンの過剰分泌にあります。ピルには排卵を抑制する働きがあるために排卵後に分泌されるプロゲステロンの分泌量を抑えてくれ、避妊するとともに生理痛を緩和するという働きを持つのです。

また、子宮内膜症の発症を抑える役割も持ち、結果的には先に挙げた子宮内膜症に伴う多くの症状を抑えることにもつながります。これを機会に、ぜひピルについて正しく理解してほしいと思います。

■婦人科受診の前にトライしてほしいセルフケア

体調を崩して婦人科を受診する以前に、セルフケアをぜひ実践してみてほしいというのがわたしの願いです。そのセルフケア法とは、適度に運動をしてしっかり寝るということ。とくに運動習慣を持つことにより、生理にまつわる悩みを減らしたり生理痛を抑えたりすることにつながるとすでに報告されています。

ある研究データによると、運動習慣を持っている人の割合は、10代女性の45%に対して20代女性はわずか11%に過ぎません。学生の頃までは部活動やサークル活動で運動をしていた人も、社会人になるとその時間を取れないと考えるからなのでしょう。

でも、将来の自分の体のことを思えば、ぜひ運動習慣を持ってほしい。そうするためには、忙しいなかでも自らの意思で時間の使い方を意識して運動を実践するしかありません。これは、運動だけではなく睡眠についてもいえることです。

日本人の睡眠時間は世界最短といわれますが、仕事や家事などやるべきことに追われるうちに漫然と1日が終わり、残った時間を睡眠にあてるという人がほとんどではないでしょうか。

睡眠については、「睡眠の質を上げるべき」といったこともいわれますが、睡眠の働きは一定の睡眠時間を確保しておかなければきちんと発揮されず、質ではカバーできないということがわかっています。だからこそ、1日の残った時間を睡眠にあてるのではなく、自分の意思で1日24時間のうち、睡眠のための時間をあらかじめ確保しましょう。

その時間の目安は7時間半。アメリカの睡眠研究では7〜9時間が望ましいとされていますが、忙しい社会人なら現実的には7時間程度を確保するのが精一杯でしょう。ただ、ベッドに7時間潜り込んでいても、夜にも朝にもまどろんでいる時間があります。それらの時間を含めて、7時間半のベッドにいる時間を目安としてほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子