――時代背景を反映することもある「仮面ライダー」シリーズの楽曲を手掛けるにあたって、時代時代の社会を反映する言葉を意識していることはありますか?
作詞していると、社会は変わっていくというよりも、行ったり戻ったりするなということを感じています。それを取り入れるかどうかは、題材によってもキャラクターによっても違ってきます。日本にはたくさんのヒーローがいて、そこでも変わるものと変わらないものがありますが、変わらないことは「優しさ」なんだろうなということは強く感じます。強さの裏側にある「優しさ」。これはどんなヒーローにもずっとあるものなのかなと思います。
――藤林さんは、物語の展開を先取りするような歌詞から”予言者”とも呼ばれていますね。
ストーリーは先のことまで決まっていないので、決まっているところまでの展開をお聞きして作品の雰囲気を伝えるように作詞しています。『仮面ライダーリバイス』の「liveDevil」でも、ネタバレしないように、でもヒントは散りばめて、それを聴いたみなさんが考察してくださるとうれしいなと思って作りました。
予言者と言っていただくのも、こちらでは意図していなかったところまで「予言した」と言ってくださることが多いんです。なるべく雰囲気を伝えるけど明言はしないように、ということは意識します。先の展開は決まっていないので、断言すると外れてしまうかもしれません。そうなるとよくありませんからね。
――作品によって制作過程が違うとのことでしたが、おおよそどのような手順なのでしょうか? どれくらい作品の資料を観た上なのでしょう。
だいたい多いのが、2話ほどの台本と企画書があるという状態ですね。最近では曲はコンペで選ばれているものがあって、それを聞きながらプロデューサーさんと話をしていきます。東映のプロデューサーさんたちはそれぞれにしっかりとカラーがあるのが面白いですよね。仮面ライダーの概念である「悲しき改造人間」という重ための雰囲気を大事にしつつ、塚田英明さんあたりからかな、自分たちの世代の中で血肉にしたものを再解釈したことで、ポップさが加わり、変化してきた印象です。その後も、「マーベル」っぽかったり、ゲームっぽいキャラクターの置き方だったりとかそれぞれに違いがあります。その違いが、仮面ライダーがこれだけ長く続く要因でもあるのかもしれませんね。
――作詞で特に意識することはどんなところなのでしょう。
まずは絶対に作品のノリに合うものを提供したいという気持ちがあるので、今回はどういうテイストになるのかということはしつこく確認します。それには、主人公のキャラクターを確認することもとても大事ですね。
あと、名乗りを入れる入れない問題もありました。詞先だと入れやすいんですよ。置いておけばメロディーをつけてくれるので。でも曲が先に決まっていると、なかなかピッタリする場所が見つからないので入れないこともあります。アーティストさんも、それが自分の楽曲なので、入れるかどうか方針があって、それが入るかどうかでも曲の印象が変わります。
――主人公像が曲に大きく反映されるということですが、印象として『仮面ライダー電王』あたりでかなりヒーロー像が変わった気がします。
そうかもしれないですね。群像劇的に若い青年が成長していくというのは『電王』あたりから如実になってきたのかもしれません。主題歌『Climax Jump』あたりからは、自分がJPOPやKPOPでやっているのと近い楽曲になってきたので、より平たい言葉でというか、表現として少し自由になった感じがしました。普通の歌として書いていいんだなという。『仮面ライダー響鬼』では前の流れを汲んでいましたけど、レコード会社を移ったことがガラッと変わる転機になったというのは絶対にありますよね。
――最新シリーズ『仮面ライダーリバイス』の「liveDevil」は今までとどのような違いがあったのでしょう。
実は、最初は木村昴さん演じるバイスがあれだけしゃべるキャラだとは知らなかったんです。台本の1、2話を読んだ限りでは、あのめっちゃしゃべる感じは出てきていなかったので(笑)。歌詞を口語にしておいてよかったなと思いました。『Climax Jump』では、あとから声優さんたちが歌ってくださったバージョンもありましたが、出演者の方がこれだけ最初から入って歌ってくださったのはこれが初めてだと思います。
――新しい仮面ライダーが生まれるたびに、今までのシリーズになかった新しい世界観が提示されるので、そこは作詞する側として大変なのではないでしょうか。
それが楽しいところなんです! よく、「作詞をするときにどうやってインプットするんですか?」と質問を受けることがあるんですけど、ライダーに限っては、まず誰かが熟考を重ねたものがバッチリあるので、それを理解することが楽しいんです。えっ、そんなことになるんですか!?みたいな。難しいというよりは毎回おもしろいですね。
――「二人で一人の仮面ライダー」とか。コンセプトにびっくりしますよね。
変身すると、もう一人が気を失っている設定とか最高ですよ! 『仮面ライダーW』の続編『風都探偵』がアニメ化したりと、メディアが増えると過去作も継続したりできるので、今の時代最高だなって思いますね。
――配信もありますから、すべてのシリーズをフラットに見られる時代ですよね。
そうですよね。「仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX」のピンバッジを見ていても、アマゾンかっこいいなとか、やっぱり電王もいいなとか思いますもんね。そうやって各時代のライダーを振り返っていただけたらうれしいですよ。でも私自身も、こんなにヒーローソングにかかわる人生になるとは思っていなかったんです。