現在、日本国債の金利が上昇しており、少し前までの低金利とは様相が変わりつつあるように見えます。なぜこのようなことが起きているのか、そして住宅ローン金利に影響はあるのか、住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFS取締役COO塩澤崇氏にインタビューしました。
■10年国債の金利上昇、日銀は抑え込みを続けるのか
――いま、日本の金利はどうなっているのでしょうか?
日本国債の利回りが上昇しています。10年国債の利回りについて、金融緩和を目的に日銀が上限設定している0.25%を突破する勢いでしたので、これ以上金利が上がらないように日銀が抑え込んでいる(日本国債を買い入れて金利上昇を防いでいる)状態です。
10年より短い年限の国債に関しては日銀による金利誘導目標がないため、例えば8年ものや9年ものの国債は利回りが0.25%以上となっています。
結果として10年国債だけ金利が低いという現象が起きています。通常、市場原理が働いているのであれば見られない現象であり、「日銀が市場を歪めている」「こんな状態でも金融緩和を続けるのか」などと騒ぎになっているのです。
――そもそも、なぜ日本国債の金利が上昇しているのでしょうか?
インフレが止まらない米国がそれを抑えようとさらなる利上げを見込んでいるからです。そんな米国の金利上昇に連動する形で日本の金利も上昇しています。
――では、日銀が日本国債の金利を抑え込んでいるのはなぜでしょうか?
日本の景気を良くするためです。金融緩和とは金利を下げることでお金を借りやすくし、モノの売買や生産を促す施策です。コロナ禍で国内経済は悪化しており、GDPはコロナ禍前の水準をいまだに回復できていません。
具体的には2019年の10月から12月期ではGDPが年換算541兆円に対し、2022年1月から3月期は538兆円です。そのため、いま金利を上げてしまうと景気を冷やす逆噴射をすることとなり、株価下落や不動産価格下落を招きます。そうなると国内需要はもっと冷え込むでしょう。それでは本末転倒のため、日銀は金融緩和を続行しているのです。
――10年国債の金利誘導目標を0.25%から上げてみてはどうか、といった議論も出ていますが?
2022年5月10日に日銀の内田真一・理事が「誘導目標の変更は事実上、利上げすることであり、現在の日本経済にとって好ましいことではない」と否定しています。ですので、私は日銀がこのまま0.25%の誘導目標を続けるだろうと考えています。
また私自身は、米国の利上げはインフレが収まるまでの一時的なものだと考えています。米国ではインフレ退治のため、景気への影響度外視で高金利を続ける予定です。高金利は景気引き締め効果をもたらすため、いずれ景気が下火となって需要が減少し、物価上昇は一段落します。
また、バイデン大統領は原油価格上昇を止めるために、産油国への増産を呼びかける予定であり、いずれ米国のインフレも鎮静化に向かうでしょう。
■住宅ローン金利「固定は上昇が続き、変動は当面上がらない」
――住宅ローン金利への影響はどうですか?
変動金利と固定金利では金利が決まるロジックが違いますので、分けて考える必要があります。金融緩和政策は住宅ローン金利の観点で整理すると、短期金利におけるマイナス金利設定と10年国債における0.25%の金利誘導の2つが柱です。
まず、変動金利ですが、マイナス金利が解除されると金利上昇します。しかしながら、解除は当面先でしょう。国内経済が回復するまでは金融緩和を継続すると日銀は宣言していますので、国債の取引が多少いびつな状況になろうとも、金融緩和政策の要であるマイナス金利解除は当面先と考えていいと思います。
なお、「低金利が悪い円安を引き起こし、経済に悪影響を与えている。金融緩和は解除すべきだ」という論調が時折見られますが、それは低金利が与える影響だけを切り取った議論だと私は思います。本来考えるべきは「低金利と利上げ後の経済比較」です。
上述の通り、利上げは株価と不動産価格の下落を招きます。それでも利上げしたほうが良いのか、その天秤をかけて金融政策は決められるべきものであり、日銀は常にその観点で金融政策を決定しています。
一方、固定金利については金利上昇が続きそうそうです。通常、銀行は10年ものの国債利回りを基準に固定金利を定めています。10年ものの金利は5月と6月中旬の現時点では大きな違いはないものの、9年ものは0.1%の上昇、15年ものは0.2%の上昇です。10年ものの金利だけを見て7月の固定金利を決めるとは考えづらく、その前後の期間の利回り(例えば、9年ものや15年ものなど)の金利上昇も加味してプライシングするでしょう。となると、固定金利はもう一段階の上昇が予想されます。
――現在、住宅ローンユーザーは固定と変動、どちらを選んでいますか?
6月のモゲチェックユーザーの動向を分析すると、大半のユーザーは結局のところ変動金利を選んでいます。理由としては、固定と変動の金利差が1%以上に開いているためだと考えられます。元本3,500万円で35年支払い(元利均等返済)の場合、金利差1%は年間で20万円の返済額差となります。35年ですと700万円です。「金利上昇リスクを回避するための保険料としては、ちょっと高いのでは?」と考えるユーザーが多いのだと思います。
――金利が見通せないいま、住宅ローンはどのように選んだらいいでしょうか?
最近は「金利上昇して家計破綻が続出する」などのあおり記事をよく見かけますが、そういった情報に流されるのではなく、ご自身で経済の動きに関して情報収集し、ご判断頂きたいと思います。
具体的には、足元で何が起きているのか、そしてどういうメカニズムで金利が決まるのか、というファクトの整理です。そして、それを踏まえた上で独自の金利見通しを持つべきでしょう。そうした情報収集において、この記事がお役に立てるのであれば本望です。