2022年4月の「AUTOMOBILE COUNCIL 2022」(オートモビル カウンシル 2022、幕張メッセで開催)で2台の「お宝ベンツ」に出会った。神戸のオールドメルセデス専門店「シルバースター」が展示していたクラシカルなステーションワゴン「230S Universal」とマイクロバスの「O319」だ。
フィンの付いたステーションワゴン
「230S Universal」のベースになっているのは、羽根のような形状の独特なテール部分を持つことから“フィンテール”や“羽根ベン”の愛称がつけられたお馴染みの中型メルセデス「W110」型セダン。これと同じプラットフォームで、6気筒エンジンを搭載した縦目の「W111」型は大型の「Sクラス」の系統になるが、4気筒で丸目2灯のこちらは中型の「Eクラス」の系統に属するとされている。ということは、W110型は筆者の現在の愛車である「W124」型のルーツでもあるし、そのワゴン版「230S Universal」は筆者が少し前まで所有していたステーションワゴン版「S124」型の大先輩に当たるわけだ。うーん、感慨深い。
1961年に登場したW110型セダンは、フラッグシップのW111型から全長とホイールベースを短縮したスタイルを持ってはいるものの、全長4,730mm、全幅1,795mm、全高1,495mmとサイズ自体は結構大きく、現代の使用においても全く不満の出ないサイズだ。
エンジンを前に押し出すとともにキャビンを前側に広げることで、広い室内を確保することに成功。サイドまで回り込むような曲率の大きな前後のラウンドウインドーを採用したり、細いピラーを採用したりすることでキャビン内の明るさと抜群の視界を確保していた。
そのステーションワゴン版が展示・販売されていた「230S Universal」だ。わずかにクリームがかったようなグリーンのボディにホワイトのルーフという2トーンカラーがとても美しい。ボディ同色のホイールキャップとホワイトリボンタイヤのマッチングもぴったり。なんといっても、ワゴンボディのリアにはくっきりと飛び出た2枚のフィンがしっかりと残されているのだ。
インテリアもなかなかユニークで、ホーンリング付きのブラックステアリングの奥に設置されたスピードメーターはなんと垂直表示。いまだかつて見たこともないスタイルだ。ベージュのレザーシートは状態良好。リアシートは簡単な操作で倒すことができる可倒式で、ウッドの床面はフルフラットになり、タイヤハウス以外に出っ張りのない広大なスペースが出現する。リアハッチは薄くてシンプルな構造なので、S124のような重さがなく、開け閉めがしやすいのがいい。
エンジンは1966年の最終モデルということで、名称の通り2.3Lエンジンを搭載。価格はなんと1,650万円ということだったが、さすがに足が早く、イベント開始早々に売約済みとなっていた。
ベンツのバスは珍しい?
そのお隣に置いてあったのが、1963年生まれのダイムラー・ベンツ製マイクロバス「O319」だ。ベースとなったのは同社の商用モデル「L319」型で、ボディタイプにはパネルバンやトラックなどさまざまなものがあり、ユニークなその面構えから「だるま」と呼ばれていたそうだ。
その中で、当時大ヒットしていたフォルクスワーゲンバスのように、ルーフに明かり取りのウインドーを備えたパノラマバスタイプのものが、このO319。VWバスがRR方式だったのに対して、O319はキャブオーバータイプのFR方式を採用していて、パワートレーンは「190」にも搭載されていた1.9Lの直列4気筒ガソリンエンジンを積んでいる。全長4,820mm、全幅2,080mm、全高2,400mmのボディを4速MTで95km/hまで引っ張ることができたという。
シルバースターの岸本亮彦氏に話を聞くと、「前の所有者さんは、小さい頃に羽田空港近くで毎日送迎のためにこのバスが走っている姿を眺めていて、大人になってたまたまその個体そのものを見つけたので迷わず購入したそうです」とのこと。乾燥した倉庫内という保存に適した状態に長い間置かれていたということで、ボディカラーは所々を補修しつつもオリジナルカラーのエンジとクリームの2トーンを保っていて、当時の雰囲気がしっかりと残っている。
インテリアも同様で、コックピットやシートの状態は良好。ダッシュボードの各種スイッチに、その機能を明記した“テプラ”が貼られているのも興味深い。販売に際しては、当時の14人乗りのままだと所有がしにくい2ナンバー登録になってしまうため、10人乗りの3ナンバーとして再登録するとのこと。日本には数台あるかないか、という超希少なマイクロバスの価格は、隣の230S Universalと同じ1,650万円。話を聞いた時点ではまだ売約済になっていなかった。