「相続なんてまだまだ先のことだ」と考えている方も多いのではないでしょうか。たしかに自分自身の意識がはっきりしており、身体も健康なのであれば相続の話はまだまだ先のように感じられるかもしれません。

しかし自宅の相続については、ご自身が健在なうちに対策をすることが大切です。認知症になってしまうと、一切の相続対策ができなくなるためです。

本記事では、自宅の相続対策は認知症になる前に行うべき理由や、代表的な対策方法をわかりやすく解説します。

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■認知症になると一切の相続対策ができなくなる

相続対策には、遺言書の執筆や生前贈与などさまざまな方法があります。また、家族の意向を聞いて、事前に遺産の分け方を話し合っておくのも立派な相続対策です。

認知症になると、自宅の売却や遺言書の執筆、生前贈与など一切の法律行為ができなくなります。

例えば、認知症が疑われる状態で遺言書を執筆すると、亡くなったあと「遺言書が書かれたとき、すでに認知症と診断されていた」と主張されてトラブルに発展することがあります。

医師の診断書や故人を実際に介護していた人の証言から認知症であったと認められる場合、せっかく遺言書を残しても無効になってしまうでしょう。

また、認知症になった人の財産を、配偶者や子どもは処分できません。認知症になってからでは相続対策はできないため、健在なうちから少しずつ準備をすることが重要です。

■今からできる相続対策3選

では、相続対策にはどのような種類があるのでしょうか。ここでは、代表的な相続対策を解説します。

▼売却して現金化する

家族が自宅の相続を望んでいないのであれば、売却して現金化するのも方法でしょう。自宅を現金化することで、亡くなったあとに相続人同士で平等に分けやすくなります。

高齢である場合、自宅を売却したあとに住む賃貸アパートや賃貸マンションが見つからずに苦労するかもしれません。そこで検討したいのが「リースバック」です。

リースバックは、自宅を売却して現金化したあと、不動産会社と賃貸契約を結ぶ契約のことです。リースバックを利用すると、売却した自宅に引き続き住み続けられるため、賃貸物件を探す必要はありません。

ただしリースバックには「賃料の支払が発生する」「自宅が自分の名義ではなくなる」などの注意点があるため、通常の売却とも比較のうえ慎重に検討しましょう。

▼遺言書を書く

遺言書を書き、遺産の引き継ぎ方を指定しておくのも有効な手段です。遺言書は、亡くなった人の最後の意思表示であるため、基本的に記載内容にしたがって遺産が分割されます。

また遺言書であれば、息子(故人)の嫁をはじめとした相続権がない人にも、財産を渡せます。自宅を引き継ぎたい人が決まっているときや、相続する権利がない人に自宅を渡したいときは、遺言書を執筆するのも方法の1つです。

ただし遺言書を書くときは「遺留分」に注意する必要があります。遺留分は、法律によって保障された相続人の最低限の取り分です。

遺言書によって財産を取得した人は、遺留分に相当する財産を相続できなかった相続人から「法律で保障された最低限の金額を支払ってほしい」と要求されることがあります。

相続人に遺留分を主張されると、トラブルが生じかねません。遺言書を書くときは、相続人の遺留分を侵害しないようにしましょう 。

▼家族信託を活用する

家族信託とは、簡単にいえば財産の管理を信頼する人に任せられる制度です。元気なうちに自宅の管理を信頼できる家族に任せておくことで、万が一認知症になったとしても家族が自宅を処分できます。

例えば、実家に住む母親と離れて暮らす息子がいるとしましょう。母親は、高齢者施設へ入居する予定ですが、時折戻って過ごすために自宅を手放したくないと考えています。

施設に入居したあと母親が認知症になってしまうと、離れて暮らす息子は実家を処分したくてもできません。そこで家族信託を利用して、実家の管理を息子に任せることで、母親が認知症になったあと息子は自らの意思で実家を処分できます。

このように相続対策には、さまざまな種類があります。対策方法を決めるときにもっとも大切なことは、家族と話し合いをすることです。

例えば、遺言書で自宅を子どもに残そうと考えていても、子どもはそれを望んでいないかもしれません。ご自身の意思だけでなく、財産を引き継ぐ人の意見も聞いたうえで対策を考えてみましょう。