テレビドラマの世界観を構築する上で大きな要素となる、スタジオセットなどの美術。今期フジテレビで制作・放送されている綾瀬はるか主演『元彼の遺言状』(毎週月曜21:00~)、間宮祥太朗主演『ナンバMG5』(毎週水曜22:00~)、土屋太鳳主演『やんごとなき一族』(毎週木曜22:00~)の全3作は、ジャンルも作風も全く異なる作品だが、いずれの美術デザインもフジテレビのあべ木陽次デザイナーが手がけている。

これまで多くのヒット作でデザインしてきたが、同クールに3作もの連続ドラマを担当するあべ木氏に、テレビドラマの美術デザインとはどのような仕事なのか、またそれぞれの作品へのこだわり、注目してほしいポイントなどを聞いた――。

  • 『元彼の遺言状』(上段)と(下段左から)『ナンバMG5』『やんごとなき一族』のスタジオセット

    『元彼の遺言状』(上段)と(下段左から)『ナンバMG5』『やんごとなき一族』のスタジオセット

■ギリギリのスケジュールで進行「大変です(笑)」

あべ木氏はこれまで、大ヒットドラマシリーズの『踊る大捜査線』、最近では『コンフィデンスマンJP』『ラジエーションハウス』『ミステリと言う勿れ』などを担当し、ドラマ以外でもニュースの統一ブランド『Live News』も出がけている。映画『翔んで埼玉』では、日本アカデミー賞・優秀美術賞を受賞するなど、フジテレビの顔とも言える“画面演出”に欠かせないクリエイターだ。

同クール3本の連ドラを同時担当することになったのは、「たまたま時期が重なっただけなんです」といい、「同じクールで3本というのは初めてですが、うち2本は現場に後輩のデザイナーと手分けしてデザインしているので、チームとして担当しています。それでも、どの作品も撮影が終わっているわけではなくて、むしろギリギリなスケジュールの中で進んでいるので大変です(笑)」と語る。

テレビドラマや映画の美術デザインは、「監督の方針ありきなんですね。だからまず、脚本ができ上がって、お互いに本を読んだ後に話をするところからスタートします。そのときは、自分が思い浮かべた画を簡単に描いていくくらいですね」と作業が始まる。

画が何もない台本からまずどんなことをイメージするのか聞いたところ、「例えば『翔んで埼玉』の場合、この作品そもそもどうするの? どこまでファンタジーにしていいの? どこまで振り切っていいの? など、まず監督たちと話をします。監督やカメラマンの撮りたい画や構図、照明さんや装飾さんたちの意見など、いろいろな人たちが口にするキーワードをくみ取って、『みんなが必要としているものはこう』とまとめていく作業がメインです」という。

美術デザイナーと言えども、自らが発想した世界観を提示するより、監督をはじめとする制作陣の意見を具現化していくというのが意外だ。

そんな作業の中でデザインを起こすだけでなく、ロケハンへ行ってイメージをつかむことも多いそうで、「『翔んで埼玉』は学校となるお城など、実際に現場に行ってそこからイメージ膨らませていくこともあります。早めにロケハンへ行ければきっかけをつかめることも多いのですが、現場に行ってしまうとイメージが固定されてしまうところもあるので、頭を柔軟にしておくということも大切だと思っています」と明かす。