6月7日、さいたまスーパーアリーナで井上尚弥(大橋)は、ノニト・ドネア(フィリピン)との再戦に挑む。WBAスーパー、WBC、IBF…互いが保持するベルトをかけ合ってのバンタム級「3団体世界王座統一戦」だ。
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2019年11月7日、さいたまスーパーアリーナでのWBSSバンタム級トーナメント決勝で井上尚弥は、11ラウンドにダウンを奪った末にノニト・ドネアから3-0の判定勝利を収めた。井上の戦績は22勝(19KO)無敗。(写真:山口裕朗/アフロ)
そして、井上の夢は、WBO世界王者にも勝利しての「4団体世界王座統一」。だが、マッチメイクの難航により、ドネア戦後にスーパー・バンタムへの階級アップも示唆していた。それがここにきて状況が一変、年内にも「4団体世界王座統一」を果たせる可能性が浮上している。
■大方の予想は「井上尚弥優位」
「今回はドラマにはならない。多分、ドネアは引退することになると思う。『ドネアは、まだやれるんじゃないか』と周囲が思うような試合にはならない。相手に触れさせることなく一方的に勝つ」
「6・7さいたま決戦」を目前に控え、井上尚弥は自信に満ちた表情で、そう言い切った。
減量を含めたコンディション調整は万全、すでに「ドネア対策」も出来上がっているのだろう。
ドネアとの初対決は2年7カ月前、場所は今回と同じ、さいたまスーパーアリーナだった。WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)バンタム級トーナメント決勝戦。眼窩底骨折に追い込まれるなど井上は苦戦を強いられたが、11ラウンドには左ボディブローでダウンを奪い3-0の判定勝利を収めた。
一度拳を交えたことで、ドネアの闘い方を分析でき弱点も見抜けた。ならば、井上は必要以上に相手を警戒することなく本来の闘いができよう。一度勝っている相手でもあり、国内外を問わず「井上尚弥優位」の予想が大方を占める。
■カシメロ王座剥奪で…
井上が、ドネアに勝利したならば、次に果たしたいのはバンタム級「4団体世界王座統一」である。
当初、これは「果たせぬ夢」に終わると思われていた。
SNS上で井上と挑発合戦を繰り広げるなど因縁浅からぬジョンリル・カシメロ(フィリピン)がWBOのベルトを腰に巻いており、彼との対戦交渉が難航していたからだ。
だが、そのカシメロはすでにWBO王者ではない。
4月22日(現地時間)、英国リバプールでカシメロはポール・バトラー(英国)を相手にWBO王座5度目の防衛戦を行うはずだったが、思わぬ形でカシメロは王座を追われている。
試合に向けての減量で彼はサウナを使用し、その様子を動画配信した。
これが問題になった。英国ボクシング管理委員会の医療ガイドラインではサウナを使用しての減量が禁じられていたのである。よって試合は、2日前の4月20日(同)に中止に。その後、カシメロは王座を剥奪されてしまった。
ボクサーが減量目的で、サウナを使用することは珍しくない。日本をはじめほとんどの国が、それを違反とはみなしておらず、今回の王座剥奪劇はカシメロが気の毒のようにも思う。だが、英国でのルールを確認せずに動画を配信してしまったことは、迂闊だった。
これによりバトラーは急遽、対戦相手を代えリングに上がる。
ジョナス・スルタン(フィリピン/ランキング4位)とWBO世界バンタム級暫定王座決定戦を闘い判定勝利。直後に、カシメロの王座剥奪に伴い正規王者となった。
■バトラーの前向きな発言
井上陣営とカシメロ陣営の交渉は、スムースにいかなかった。しかし、バトラー陣営とは、話がまとまりそうだ。
「イノウエとドネアの試合を興味深く見守る。この試合の勝者が決まれば、私の進む道も決まる」
バトラーは、そう話している。
井上がドネアに勝ち「3団体世界王座統一」を果たしたならば、次の相手になることに異存はないとの意思表示である。
交渉は、順調に進むだろう。
なぜならば、井上陣営が「4団体世界王座統一戦」実現のために、条件面で譲歩する姿勢を見せているからだ。
日本、あるいは米国での試合開催に固執していない。相手が望むなら、アウェイの英国で闘うつもりでいる。「井上尚弥vs. ポール・バトラー」が実現する可能性は高そうだ。
ただ、井上がバンタム級「4団体世界王座統一」を果たすには、ドネアに勝つことが絶対条件。これは、バトラー戦よりもハードルが高い。
今年の11月に40歳になるWBC王者ドネアは言う。
「イノウエはとてつもなく強いファイターだ。そのことは前回の闘いで身をもって知った。でも、リングを下りた時に思ったよ。倒すチャンスはあった、勝てない相手ではないと。
年齢は重ねたが、コンディションは上々だ。私は自分を信じている」
井上尚弥優位の予想は妥当だろう。それでも、戦績42勝(28KO)6敗を誇り5階級を制覇している百戦錬磨のドネアは怖い。
6・7「ドラマ・イン・サイタマ2」─。
何が起こっても不思議ではない。
文/近藤隆夫