古代ギリシアの哲学者・ソクラテスは、釈迦やキリスト、孔子とならび、四聖人(四聖)に数えられ、「哲学の祖」と呼ばれています。
本記事ではソクラテスの生い立ちや、彼の思想が反映された「無知の知」「問答法」などの概念をわかりやすく解説。残した名言、さらにはソクラテスに関連する書籍なども紹介します。
ソクラテスとはどんな人?
ソクラテス(紀元前469年頃-紀元前399年)は、古代ギリシアの哲学者であり、釈迦やキリスト、孔子と並んで四聖人(四聖)に数えられています。
しかし議論を通じて市民をより良くしようと望んでいたソクラテスは、著作を残していません。そのため彼の思想は、弟子の哲学者であるプラトンやクセノポンなどの著作を通じ知られています。
以下の文章はソクラテスの死後に書かれたといわれます。
ソクラテス関連著作
- 「ソクラテスの弁明」
- 「ソクラテスの思い出」(メモラビリア)
- 「饗宴」
- 「家政論」(オイコノミコス)
プラトンやクセノポンが描いたソクラテスの人物像の一部は下記の通りです。
- 質素で自制的な生活をしていた
- 身体的および知的な鍛錬に努めていた
- 彼を慕う国内外の仲間・友人や弟子に囲まれ、彼らのためになった
- 問答法のような明瞭かつ徹底した議論・検討・教授方法を好んだ
- 特に「道徳・人倫に関わる抽象概念」の明確化を試みる議論を好んだ
実用性や有効に機能する性質以外を好まず、それらについて学ぶことを賛成しなかったと言われており、現代であれば少し「真面目」と位置付けられるような人物であったと言えるのではないでしょうか。
哲学者であり四聖人のひとり
ソクラテスは一般的に徳が高く、人格高潔で、生き方においてほかの人物の模範となるような人物のことを指す聖人といわれています。
宗教や宗派の中での教祖や崇敬対象となる人物を指すことが多く、他の聖人では釈迦やキリスト、孔子などが名を連ねています。
ソクラテスの生い立ち
ソクラテスの両親は、彫刻家でもあり石工である父のソプロニスコス、助産師の母・パイナレテとされています。
ギリシャのアテナイに生まれ、生涯のほとんどをアテナイで暮らしました。ソクラテスはペロポネソス戦争においてや、ボイオティア連邦との大会戦デリオンの戦いで重装歩兵として従軍しています。青年期には自然科学に興味を持ったとの説もありますが、晩年には倫理や徳を追求する哲学者としての生活に専念しています。
ソクラテスが生きた時代背景
ソクラテスは、古くから神話や伝統に依存した保守的な土地に生きていました。当時のアテナイは、徹底した民主政が確立された時代から、戦争での敗北後の社会的・政治的混乱を経て、崩れていく時代にまたがっています。
辺境地の哲学者たちの知識や、優秀なソフィスト(知恵ある人の意)たちが集まり、民主政治における処世術や弁論術を学ぶため彼らは歓迎されることになります。古くからの神話や伝統による秩序が乱れ、アテナイの知的環境は混乱していました。戦争を経験し、政治的混乱を経験したことで荒波にもまれたといっても過言ではないソクラテスの人生が後に彼の思考に関わっていきます。
ソクラテスの名言
さまざまな考え方を世の中に広めたソクラテスには、名言がたくさんあります。今回はソクラテスが残したといわれる名言を、いくつか紹介します。
・「徳は知である」
・「よりよく生きる道を探し続けることが、最高の人生を生きることだ」
・「本をよく読むことで自分を成長させていきなさい。本は著者がとても苦労して身に付けたことを、たやすく手に入れさせてくれるのだ」
・「幸福になろうとするならば、節制と正義とが自己に備わるように行動しなければならない」
・「ねたみは魂の腐敗である」
・「汝自身を知れ」
現代の生活でも納得できる言葉ばかりですが、皆さんはいかがですか? 納得できることがあれば、ぜひ実践してみてください。
ソクラテスの思想をわかりやすく解説
弟子のプラトンの書いた『ソクラテスの弁明』では、ソクラテス独特の思想が形成されるに至った直接のきっかけは、彼の弟子が神託所において、巫女に「ソクラテス以上の賢者はあるか」と尋ねたところにあるといいます。
巫女が「ソクラテス以上の賢者は一人もない」と答えたことを聞いたとき、自分が疎くて賢明ではない者であると思っていたソクラテスは驚き、それが何を意味するのか自問しました。
そのあと多くの経験を経て、彼は神託の意味を「知らないことを『知っている』と思い込んでいる人々よりは、知らないことを『知らない』と自覚している自分の方が賢く、知恵のうえで少しばかり優っている」ことを理解しつつ、その正しさに確信を深めていくようになりました。
無知の知
「無知の知」とは「知らないことを自覚する」という姿勢を簡単に表現した言葉です。ソクラテスは「よりよく生きるにはどうすべきか」を問い続けました。知らないことを「知らない」と認めたとき、自分と向き合い真の知に向かうことで探求が始まります。
それはやがて「いかに生きるべきか」にもつながると考えました。これは私たちの日常生活でも同じことが言えます。「知らないことを知らないまま」にするのではなく、「知らない」と自覚してからが学びの時間になりますよね。
問答法(産婆術)
問答法とは「相手に無知を気づかせる方法」「会話の相手自身によって真理を発見させる方法」のことを指します。ソクラテスは議論を通じて、相手自身に無知であることを気づかせるようなことをよく行っていました。
これは実生活でも言えることで、「目的に対して何をするべきか」「そもそも目的は合っているのか」「成功させるにはどうしたらいいのか」を考えます。最近の言葉でいうと「クリティカルシンキング」とも表現できるでしょう。感情や主観に流されずに物事を判断しようする思考プロセスで、客観視することが重要となります。
抽象概念の明確化
ソクラテスは、抽象概念の明確化にも力を入れました。人生や社会に関わる抽象概念や曖昧なことを明確化しわかりやすくしようとしています。ソクラテスは、曖昧なまま放置されていることを入念に吟味、検証することを要求しています。
その考えからソクラテス自身が話をわかりやすくするために、会話のなかに「例えば」を用いて曖昧なものを具体的なものに置き換えながら問いていたという話があります。これはソクラテスの叡智の営みだと推測ができるでしょう。
アレテー(徳/卓越性/有能性優秀性)
アレテーとは、魂の卓越性のことを指しています。ソクラテスは、富や名誉ばかりにとりつかれる人を非難していました。「お金持ちになりたい」「地位や名誉が欲しい」と考える人も少なくはないはずですが、その願望は悪いことではありません。
しかし、単に「お金が欲しい」と言っても「何の目的で」「どうやって使うのか」が問われることになるのです。その際に「魂の配慮」ともいえる「アレテー」を有していれば、お金にばかりとらわれることなく節度や知恵を身につけることができるようになると考えられていました。
『ソクラテスの弁明』などのソクラテス関連の著書
ソクラテス自身は本を残していませんが、ソクラテスのことや思考をわかりやすくまとめている本があるので、紹介します。気になる本があれな、ぜひ一度読んでみてください。
プラトン ソクラテスの弁明 シリーズ世界の思想 (角川選書)
角川選書が出版されている「プラトン ソクラテスの弁明 シリーズ世界の思想」。弟子であるプラトンが記録した「ソクラテスの弁明」ですが、誰よりも正義の人であったソクラテスが裁判で何を語ったかを伝えており、彼の生き方をつづっています。
ソクラテスの弁明 クリトン (岩波文庫)
岩波文庫から出版されている「ソクラテスの弁明 クリトン」。自身が信じることを力強く表明する法廷でのソクラテスを描いた「ソクラテスの弁明」がありますが、死刑の宣告を受けた後のソクラテスと脱獄を勧める老友・クリトンとの獄中の対話「クリトン」が集約された作品です。
マンガで読む名作 ソクラテスの弁明 (日本文芸社)
日本文芸社から出版されている「マンガで読む名作 ソクラテスの弁明」。 難しい言葉が苦手な人には特におすすめなマンガ版の書籍です。言葉ではイメージしにくいことも、絵となって表現されているため、ソクラテスについての興味があるなら一度読んでみるとよいでしょう。
哲学者ソクラテスの思想や言葉には、現代にも役立つヒントがたくさん
今回は、ソクラテスという人物について紹介しました。ソクラテスとは、古代ギリシアの哲学者で、釈迦、キリスト、孔子とならび、四聖人(四聖)に数えられています。
名前は知っていても、その思想や生きざまを知らなかったという人は少なくないはず。この記事で少しでも興味を持ったのであれば、関連書籍を読んでみるのもいいかもしれませんね。その考え方や言葉は、きっと現代のビジネスシーンや日常生活においても役立つでしょう。